2-7:裏の裏
室内には異様な空気が流れていた。
たとえるなら、胃袋に飲み込まれたような感覚だ。
「魔法と正反対に位置する科学をもって、私は魔法を生み出した。これがこの件で私がなしえたことだ」
現代の科学は魔法を否定している。超能力を否定している。超常現象を否定している。
否定のための道具を使って、彼は肯定してみせた。
「つまり、魔法が一般的になる時代が来るということだよ。それはつまり、神だけが超能力を持つという事柄を覆すことに他ならない。人が神と同等の力をつけたとき、果たして神はどちらかな?」
「……勘違いしないでほしいな。人間の言うところの神なんて、所詮作り物の偶像にすぎない」
「ほう、それはどういう意味かね?」
「完璧じゃないのさ、僕たちも」
「まあ、人間が勝手に作り上げたのが完璧なる神という存在だったのかもしれぬ。我々は不完全だから、完全な神に依存したいという一心でな」
「室賀言、どうして神に近づこうとする?」
「愚問だな。神を斃すためだ」
「倒してどうする?」
「人間の世界を作る」
「それから先はどうする?」
この問いかけに室賀は黙ってしまった。しばし、視線を落として考えていたが
「そうだな。静かに消えるとしよう。私は異分子でしかない」
と悟ったように答える。
僕はそれが気に入らなかった。
ああ、気に入らない。まったくもって気に入らない。
「室賀言、あんた一人消えて終わろうだなんて思うな! 僕たちが何故存在すると思う? 人間を導くためだ。その導く人間にあんたも含まれている。僕はあんたが何をしようと、何を考えようとあんたを、あんたの未来を守る。それがツクリテとしての仕事だ」
室賀は一瞬呆けたような表情をした後、部屋が揺れるくらいの大声で笑いだした。
「気に入ったぞ、ツクリテよ。これほどまでに愉快な時間は久しぶりだ。君は殺すには惜しい神だな」
「僕からもあんたに質問がある」
昨日ほぼ徹夜で調べたことだ。室賀言は“ツクリテの作った人生通りに”動いていない。つまり、どこかで誰かが介入しているという可能性がある。それも、僕以上に高位の神が。
「何なりと」
「あんたは“誰から”魔法の知識を得た?」
まるで僕の質問が先読みされていたように、彼は消した笑みを再び浮かばせた。
「ふむ、さすがはツクリテ。まあ、君はそうではなくてはならない」
愉悦にふけるような表情をした彼は
「もちろん、魔法を使える者からだよ」
と宣言する。
わずかな希望にすがって問うた僕の前で彼は変わらず笑っている。
僕の思惑をよそに事態は混迷を深めているようだった。
こんにちは、星見です。
最近眠たくて仕方がありません。この冬の誘惑には勝てそうもありません(笑)
というわけで、次回またお会いできることを祈りつつ……