2-3:月夜に轟く声Ⅰ
一週間。
三文字で表現できる長い時間を費やしても、まだ元凶を見つけることが出来なかった。街中で出来る限り目を使っているが、誰も彼も引っかからない。平和ボケすぎるほど平和な市街地が広がるばかりだ。
夕食を食べるために、疲労を背負った身体でクリスマスシーズン用に装飾された町を歩いて帰ると、僕の部屋の前でキリオサクラが立っていた。
「久しぶりだな。どうした?」
「成果はどうかな?」
「芳しくない」
僕が鍵を開けて部屋に入ると、彼女も後について部屋に入ってくる。
「上がっていいとは言ってないぞ?」
「……ごめんなさい」
「今日も一人なのか?」
「うん」
「……上がっていい」
「え?」
「上がってもいいよ。何か話があるんだろ?」
彼女は小さな声で、お邪魔します、と言って敷居をまたぐ。そして、ドアを閉めて
「何もない部屋だけど、適当にくつろいでくれ」
と告げた。
ベッドと冷蔵庫以外何もない。
それ以外必要ないからだ。
どうせ長くは滞在しない。
リビング兼寝室の床にぺたんとキリオサクラが腰を下ろすと、俺は蛍光灯をつけた。
「何か食べる?」
冷蔵庫に向かった僕への返事は
「レトルトしか食べてないの?」
である。
そうだよ、悪かったなと返事しようとしたところで玄関のドアがノックされた。いや、ノックなどという生易しいものではない。それはどんどん強くなっていった。まるで、ドアをぶち壊すことが目的のように。
そして、三十秒と経たずにドアは叩き壊された。
その先に立っていたのはキリオサクラの通う学校の制服を着た、がたいの良い男子生徒だ。口の両端から突き出た二つの牙とゴリラの腕のように肥大化した両腕が目を引く。
「どちら様かな。僕に会いたいのなら、むさくるしい野郎の場合、一週間前にアポとってほしいんだけど」
と嫌味を言ってみても反応がない。
正気とは思えないし、操られているのか?
彼は唸り声をあげる。いつ攻撃がきてもおかしくない。
「キリオサクラ、後ろへ。窓から逃げろ」
とりあえず戦闘の邪魔になる彼女を後ろへ下がらせた。
しかし、困った。
相手は知ってか知らずか、この時間帯に強襲してきたのだ。僕は夜の間は目の力を遣えない。
既にこの時、僕は身体全体で異常事態が自分の知らないところで進んでいることを感じていた。
こんばんは、jokerです……と書きそうになりました、星見です。
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『六十枚のメッセージ』の続編を書いております。舞台は学園で、学園ものミステリになります。ちなみに今回は殺人事件は起こりません。2月14日頃に完成できればと思っていますが、出来るのだろうか。
ではまた次回お会いできることを祈りつつ……