2-2:家探しから始まる絆Ⅱ
アパートの契約は彼女がすべてこなしてくれた。
てきぱきと事務を済ませ、その日のうちに住めるようになった。アパートの管理人――大家さんという恰幅の良いおばさん――が彼女とかなり親しいというのが大きな要因だ。そう考えると、彼女は相当人から好かれているのではないだろうか。柔らかな笑顔に穏やかで丁寧な物腰、それに加えてものすごい美少女ときている。人に好かれるのもうなずける。
部屋に入る前にアパートの玄関で
「ありがとう」
と礼を述べたが玄関外にいた彼女の返事は
「ついでに晩御飯作りましょうか?」
である。
時既に日付変更前。
「いいのか? 年頃の娘が男の家に上り込んで」
「いいよ? 今日はお母さんいないから」
この娘には危機感がないのではないだろうか。
いや、それはさておいて、昨日は目を使ったので特に疲労が溜まっている。この目はこれから、魂に異常をきたしている人間の発見と戦闘でかなり使わなくてはならないだろう。休めるうちに休ませておいた方がいい。
「いや、悪い。今日は一人にしてくれ」
「……そう」
悪いことしたかなという後悔が胸をよぎったが、すぐにそれをかき消した。
目を使えなくなっては、それこそ文字通り命に関わる。これは矛であると同時に盾でもあるのだ。しかも、これは使用回数が限られている。
「キリオサクラ」
「はい?」
「助かったよ、ありがとう」
ありったけの感謝を込めて言う。
キリオサクラは
「どういたしまして」
と花開くような笑顔を見せてくれた。その顔は儚げで、それでいて何故か少しだけ懐かしいと感じた。
「少しだけ、教えてくれないかな?」
笑顔は夜のしじまに吸い込まれるように消えて、彼女は問いかける。
「昨日の事件のことについて。どうして、あんな事件が起こったのか、原因は何なのかを教えてほしい。あ、出来る範囲でいいから」
人間に教えてはいけないことは自分自身の能力についてだとミカヅチから釘を刺されている。だから、それ以外ならば問題ないだろう。
「あの学校のオッサン……いや、教師たちの“魂”がおかしくなっていたことが原因だよ」
「おかしくなっていたというのはどういうこと?」
「魂というのは人間を構成するものだと思ってくれ。性格、趣味嗜好や能力などすべては魂によって定められている」
「よく分からないけど、人間は、例えばその定められた性格以外にはなれないってこと?」
「そうだ。僕たちが書き与えた性格以外にはならない、はずなんだ。けれど実際、今それに反する事態が起きている。ほら、稀に猟奇的な殺人事件とかあるだろう? あれがそうなんだ。魂が狂って暴走して、普通起こさないような事件を起こしてしまう。もちろん、そんなケースは例外でめったにあるものじゃない」
僕は一息ついた。
もともと喋るのは得意ではない。そして誰かに何かを説明するのはもっと得意ではない。
「……じゃあ、あなたの目的は……」
「魂を狂わせる人間を抹殺すること、だよ。その人間はおそらく突然変異で、その力を手に入れたのだと思う」
イレギュラー中のイレギュラーだけどね、と付け加えておく。
「過去にも例があったのね?」
「そう。狂わせるといっても周囲の人間を狂人にするとは限らない。ナポレオン、ヒトラーやアレクサンドロス大王……強すぎるカリスマ性を持った彼らは皆、突然変異した人間だったよ。そして、彼らは歴史の中で偶然を装って殺された。ただ、彼らですら他人の魂を変質させるなんて芸当はできなかったんだ」
吐息は白く、夜の闇に溶けるように消えていく。
「もう今日はここまでにしよう。寒いし、風邪ひくぞ」
「そうね……」
キリオサクラは少しだけ顔を歪めながら一度ぺこりと頭を下げて、隣の部屋の中に消えて行った。
玄関のドアを閉めた僕は息を吐き出す。
暗い部屋の中、冷え切った畳の上を素足で歩く。足が少し痛くなった。
室内を暗くしているのも何だか辛気臭いと思ったので、電気をつけて、何もない部屋を見渡す。
明日からは家具をそろえないといけないな、と一人ごちた。
まだしばらくかかりそうだから。
メリークリスマス! これが載る頃は25日に日付が変わった頃ですね。
私のイブは年賀状書きに費やされました。
少し女の子とコミュニケーション取ったくらい(ぼやかして書きますが)です。デートでいちゃついたりしてません、出来ません。
皆様、良いクリスマスイブをお過ごしでしょうか。
ではまた次回お会いできることを祈りつつ……