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50音順小説

こどもの魔女にご用心 50音順小説Part~こ~

作者: 黒やま

書きたいことかいていったらこうなりました。

「こらっ、(こずえ)。こんな初歩の魔法も使えないでどうするのよ。」


「しゅみません!!」


噛んじゃった・・・。


また木乃香(このか)先輩に怒られてしまった。


私ってどうしてこんなにダメダメなんだろう。





現代ではある程度の魔法を使えるのは当たり前、通常小学校を卒業すると


必然的に三年間全寮制の魔術師教育学校に入学させられる。


そして一年生のうちは三年生の上級生と二人組(コンビ)を組まされ


魔法の基礎を衣食住をともにしながら学んでいく。


この制度は一年生にとっては最初の何かと不安な年なので


先輩に手取り足取り教えてもらうのが一番だろうというのと


三年生にとっては自分と組んだ後輩の魔法習得度合いが卒業試験に絡んでくるので


みんな必死に後輩の面倒をみている。


そして無事卒業試験をクリアしたら晴れて正式な魔術師として認められるのだ。


そして私が組んでいる先輩魔女が木乃香先輩。


優秀なんだけどとても怖い人なの、私なんて出来損ないだからいっつも怒られてばっかり・・・


だって未だに基礎中の基礎、初心者でもすぐ習得してしまう防御其の壱(ファーストガード)の魔法が


使えないのって学校で私一人だけだもん。


魔法で一番大事なのは攻撃(アタック)より防御、すなわち防御魔法が出来なければ攻撃魔法なんて習得出来ない。


また攻撃の種類は幅広いが防御には五段階しかなくゆえに防御魔法は大切なのだ。


さらに防御其の壱は簡単に習得出来るんだけど、


その後の弐~伍の防御魔法の習得は数が大きくなるにつれ一気に難しくなっていくんだ。


だから卒業試験受験資格にも防御其の参(サードガード)習得までが必須と記してある。


自分が出来損ないの魔女だと知ったのは初めての魔法実践授業のこと、自分の前に障壁(バリア)を張る


防御其の壱をみんなが苦も無く出しているなか私はいくらやっても出なかった。


その後のことは言うまでもなく立派な魔術師になるという入学式の高揚感から


落ちこぼれという烙印を押され一気に急降下してしまった。


周りから『落ちこぼれ』とか『魔女っ娘』(能力の低い若い女性の魔術師を卑下するのに使われる俗称)


なんて囁かれているもんだから肩身が狭くてしょうがない。


入学してから早一ヶ月、寝る間も惜しんで必死に練習しているんだけど


手のひらから微かに粒子を放出し、サッカーボール大の円状が形成されたのを保つのがやっとの状態だ。


もうすぐ中間試験だっていうのにこれはまずい。


私もまずいと思っているように木乃香先輩も心配している。


それは自分の成績のためだけではなく、純粋に私自身のことを気にかけてくれている


数少ない人物のうちの一人でもあるからだ。


だからこうして夜の特訓にも協力してくれているわけってこと。


本当にありがたい。 怖いけど。





「で、今日もしこたま木乃香先輩に叱られてきたわけだ。」


落ちこぼれの私の親友兼ルームメイトの菊花(きっか)は愚痴をいつも聞いてくれる。


「う~、木乃香先輩怖すぎ。」


「でもみんな羨ましがってるよ。木乃香先輩優等生だし美人だし。」


「それはそうだけど・・・、実際一緒に練習するとすごいんだって。」


二人組の決定権は先輩にある、だから私が木乃香先輩に選ばれた時は本当に驚いた。


一度先輩に聞いてみたことがある、どうして私なんかと組んでくれてたのか。


「だって、より困難な問題ほどやる気が上がるじゃない。」


と、さらりと言ってのけた。


私は『困難な問題』なんだ・・・。


「逆に梢みたいなボーッとしてる子の方が近寄りがたい木乃香先輩には気楽なのかもね。」


「ちょっと、それって褒めてるの?けなしてるの?」


何気菊花に毒舌を吐かれながら「優等生といえば・・・」


「F組の秋桜(あきお)君、もう防御其の参(サードガード)出せるんだって。」


秋桜君というのは十年に一人の逸材と謳われている隣のクラスの男子、平均的な生徒なら


防御其の参が出来るのは三年生の時であるにも関わらず彼は一年生にして出来てしまう。


「まっ、あれだけの秀才だし防御其の伍(フィフスガード)もあっという間に習得して


将来は官僚・・・いや総理大臣にでもなるんだろうね。」


国のトップにのし上がるためには頭脳のほかに魔法の出来も必要不可欠だ。


国の最高機関に属している人は防御其の伍が求められる、それほど最高難度防御魔法習得は難しい。


私には防御其の伍は夢のまた夢だけどいつか出来たらいいなって思う。


まぁこのままだと卒業の方が危ぶまれるけど・・・


だから秋桜君は私の憧れの人でもあり・・・・・・好きな人でもあるんだ。


「梢、心の声丸聞こえだよ。」


「ふぇっ!?うしょっでしょ!!」


噛んでしまった。


「嘘じゃないよ、ってか今の聞かれたらまずいことだったの?」


「えっ、いやだって・・・」


私が秋桜君を好きって聞かれたってことだよね・・・。


「梢が秋桜君を好きってのは顔見てたら丸わかりよ。」


「うぅ・・・菊花すごい・・・そんなに私って分かりやすいかなぁ。」


「だいぶね、でも秋桜君は競争率高いわよ。」


「・・・そんなことは百も承知だよ。」


「天は二物を与えずっていうけど二物も三物も与えちゃってるわよね。」


秋桜は頭脳明晰・容姿端麗であり運動・人格も当然魔法も


何でも完璧なまさしく完全無欠パーフェクトの人物なのだ。


「木乃香先輩もだけどどうしてこう優秀でなおかつルックスも良い人が世の中にはいるんだろう。」


「まぁ木乃香先輩は少し性格に難ありだけど。」


菊花は木乃香先輩の恐ろしさを分かっていない。


あんなスパルタ教育を受けたら誰でも悲鳴を上げる。


今日だって罵詈雑言を浴びせられトレーニングの一つだといって校庭30周も走らされた。


もう肉体的にも身体的にも限界だ。


「まぁ今度のMMも先輩との二人組で出場するんだから頑張りなよ。」


MMとはMarathon of magic(魔法マラソン大会)の略で毎年このころになると開催される


魔法を使った競技大会で全長42.195kmの道のりを二人組で走るのだが


その間には様々な障害が立ちふさがっている。


二年生は同学年同士で組むのだがここでも一年生は三年生との二人組での出場が余儀なくされる。


このMMでの順位も成績に反映されるからみんな真剣に取り組む。


私は体力には自信あるんだけど魔法の方が・・・・・


「せめて木乃香先輩の足手まといにはなりたくないよ・・・早く防御其の壱習得しなきゃ。」


「梢ファイト!」


それからも特訓の毎日が続いたが菊花の応援も虚しく私は習得出来ないままMMの当日を迎えた。






午前八時の校庭には人だかりができていた。


前日の夜も特訓したが結局習得出来ず一睡もしないで朝を迎えた。


「梢~、クマすごいよ。」


「寝てないからね。菊花はバリバリ絶好調って感じだね。」


「やっぱり睡眠はお肌にも魔法にも大事よ。なんちゃって。」


朝から元気な菊花の肩越しに意中の人が目に入った。


秋桜君・・・、今日もかっこいい。


私の視線に気づいたのか秋桜君がこちらを向き目がバッチリ合ってしまった。


私は恥ずかしくってすぐ視線を外してしまった。だから秋桜君がどんな顔をしていたか知らなかった。


「そろそろ時間だから私先輩のとこ行くね、梢と木乃香先輩には負けないから。」


と、言いながら菊花はさっさと人ごみに紛れて消えた。


私も木乃香先輩探すかなと思ってたら後ろから肩をたたかれた、木乃香先輩だった。


「梢、いい?どうせあなたは魔法が使えないんだからその自慢の体力と運動神経で私の援助(サポート)しなさい。」


「はい・・・。」


かくしてMMは幕を切って落とされた。


第一難関(ファーストステージ)第二難関(セカンドステージ)は先輩の華麗な魔法と


私の巧みな動きで奇跡的に上位三位に食い込んでいた。


正直木乃香先輩の指示に従って動いてただけなので先輩の鮮やかな采配ぶりには息を飲んだ。


後半戦に入り残りは最終難関(ラストステージ)、このままいけば入賞確実だ。


現在の一位は秋桜君の二人組だった、もちろん独走状態。


学校の中でも抜きんでて優秀な秋桜君のことだから


きっと組んでいる三年生のプライドを傷つけないように上手く先導リードしているのだろう。


やっぱり秋桜君はすごいや。


「梢!競技中に何ボケッとしてるの!先を急ぐわよ。」


「あっ、ひゃい!!」


また噛んでしまった。


「気を引き締めなさい。何が起こるのか分からないのだから。」


「分かりましっ・・・・・・」


突然上から人が二人落ちてきて私の頭上に落下する寸前で木乃香先輩が防御其の壱で防いでくれた。


「言ったそばからこれだもの。」


「すいません、ってあれ?この二人私たちの前を走ってた二人組ですよね?」


「そうね。こんなになるなんて一体この先で何があったのかしら。」


いずれの二人もかなり優秀な生徒なのにこんな風に気絶しているなんておかしい。


いくらMMだって生徒の身の危険に及ぶようなことはあるはずがない。


その時前方で叫び声が聞こえた、きっと秋桜君たちだ。


距離からしてそう遠く離れていない。首位独走だったはずなのにいつの間に縮めていたのだろうか。


この先は迷い森だ、最終難関で一体何が起こったのだろう。


「行きましょう先輩!」


「言われなくても分かっているわ。」


私たちは迷い森へ急いで走った。





「あっ!」


秋桜君たちを見つけるのはそれほど難しくなかった。


けれどその先にある黒々しい巨大な雲がいかにも禍々しかった。


「何・・・・・不気味・・。」


あれが最終難関なのだろうか、にしても気味が悪すぎる。


「あれが最終難関なの?」


木乃香先輩も同じ事を思ったらしい。


「違う、あんな人に怪我をさせるものがあるわけない。あれは競技の障害物とは全く別物だ。」


その声は秋桜君だった、どうやら怪我をしていて動けないらしい。


秋桜君の組んでいる先輩は失神していた、さっきの二人組もこいつにやられたに違いない。


「厄介ね。梢、あなたは先生を呼んできなさい。ここは私が食い止めておくから。」


「そんなっ!!無茶です!」


「無茶でもやるしかないわ。」


「なら私も・・・・・」


「防御其の壱も使えないあなたが何言ってるの。いいから早く・・・」


「木乃香先輩!!」


いきなり黒雲が木乃香先輩めがけて飛んできたのを間一髪で防いだけども


先輩は相当のダメージを受けてしまったようだ。


この中で立ち向かえるのは私だけ、


けれども木乃香先輩も秋桜君もこんなにしてしまう相手に私がかなうわけがない。


「逃げろ!」


「梢、あなただけでも逃げなさい!」


見捨てるなんて選択肢は私には最初から存在しない。


「逃げちゃダメだ、何とかしないと。」


私は防御其の壱も使えない落ちこぼれなんて言ってられない。


けれども考えているうちに黒雲が秋桜君の喉元向かって襲いかかった。


躊躇している暇はない、助けなきゃ。


とっさに秋桜君の前に飛び出し全身全霊で防御其の壱を出す。


すると最初は微粒子が出されただけだったが、それは大きな円となり私たちを包み込んで


さらに黒雲を飲み込んでしまった。


黒雲が消えてからもしばらくは動けなくて私はただただ呆然とするだけだった。


だってこれって・・・・・


「防御其の伍・・・・・君は使えるのか。」


声のした方向をみると秋桜君と目が合った。


「よく分からないけど使えっちゃったみたい。」


「梢・・・あなたって子は。私の今までの苦労は何だったの。」


木乃香先輩はあきれ顔だ。


「君はすごいね。」


「そんなこと・・・ただ何かしなくちゃと思ってがむしゃらにやっただけなの。」


そういえば私初めて秋桜君と話してる、今までは見つめてるだけだったのに。


そう思った直後から急に緊張してしまいうつむいてしまった。


「君の名前は?よかったら教えてほしいな。僕は秋桜。」


手を差し出してくる秋桜君の手をジッと見つめそして自分も手を出し握手した。


「私っ、梢でしゅ!」


あっ、噛んじゃった・・・・・



こうなりましゅた。


あっ、かみまみた。

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