9 対応
ロミルダはパーティーの日にあったことを訓練の休憩中のアレクシスに話した。
「だから、そちらがその気ならこちらもそれなりの対応をするって返したの」
話し終えると、アレクシスはとても渋い表情をしていた。
「っ、聞くだけでも腹が立つなそれ。勝手に悪者に仕立て上げてっ」
「まぁ、そうね」
「周りの連中もいくら仲が良い相手が傷ついてたとしても節度があるだろ」
アレクシスはどうやら怒っているようだったが、訓練の合間に話したのが悪かったのか「おーい、次アレクシスだろー」と同僚のブルクハルトに呼ばれた。
「あっ!? っちょ、ちょっと待っててください。続きっ、話の続き絶対したいんで!」
「アレクシスー、団長がキレるぞー」
「今行く!」
そうして、休憩用のベンチからアレクシスは走って行く。
遠目から見ていても騎士団長のアンゼルムはやる気に満ちあふれていて、最近魔獣が増加している情勢があってより一層、実践に近い訓練に力を入れているようだった。
アレクシスが騎士団長と共にいる騎士に合流すると、試合が始まる。
彼は若手の中では強い方であり、体は軽やかで剣を振るっている姿は誰よりも様になっていて一枚の絵画のように移る。
「ロミルダお嬢様は今日は見学ですか。お疲れ様です」
一人残されたロミルダにブルクハルトが声をかけた。
ロミルダはアレクシスが剣を振るっている様子を眺めながら答えた。
「ええ。この後、父と食事をともにする予定があるので」
「ブロムベルク辺境伯とですかー……それはなんとも……味がしなさそうというかなんというか……」
ブルクハルトは、苦笑してそんなことを言った。
ロミルダはそんなふうには思わないのだが、騎士団の騎士たちに父と過ごす予定を言ったときの反応は大体こんなふうだった。
「皆が思うほど偏屈でもないし、怖くもない人なのだけど……」
「いやいやあの眼光にあの、威圧感……とてもじゃないですが楽しい食事は出来ないです……」
「そういうもの?」
「はい。多分」
婚約の話が進んでいるアレクシスとは、これから先ロミルダの家族との食事の場もあるだろう。
アレクシスに味のしない食事を食べさせたくはない。
父にはにこりと笑う練習をしてもらった方がいいかもしれない。
真剣にそう考えているとアレクシスが戻ってきた。
「それでっ、っはぁ、お嬢! 俺なんでも協力するから。次のパーティーで後ろからお嬢の援護とかするんで」
「……援護?」
「それとも、それなりの対応って、やっぱり報復でもするか? 例えばギリギリまで魔獣引き寄せてびびらせてから討伐する……とか? いや、でもそれはさすがにお嬢……団長が許さないんじゃ」
試合が終わって駆け足で戻ってきたアレクシスは息を整えながら思案する。
その言葉にブルクハルトが怪訝な顔をして反応した。すっかり父のことを考えていたロミルダはアレクシスの話を聞いてもとの話題を思いだした。
「なんの話だ、それ。物騒だなー」
「お嬢が社交界で詰められたんだ。俺、いや、俺ら黙ってていいわけないだろ?」
「……なんだそれ。ロミルダお嬢様いじめられたんですか」
ブルクハルトがロミルダの方へと視線をやって聞いてくる。
いじめられたという自覚はなかったのだが、あれはいじめとも言えなくもないのだろうか。
とりあえず大勢からいわれのないことで誹られ、文句を言われたということをいじめと考えるのならば概ねその通りだ。
こくんと頷いてみた。
「よし、騎士団全員でロミルダお嬢様の後ろについて圧かけましょう」
「おう、いいなそれ。どうすか、お嬢。いじめてた連中もさすがに黙るに決まってます」
ブルクハルトは後ろで圧をかけたらいいと提案し、アレクシスはそれに乗る。
そしてロミルダはその場を想像してみた。
ロミルダの後ろに、騎士団がずらりと並んでいて、公爵家のホールには異様な空気が漂うだろう。
きっと、ユリーナもラウレンツも硬い表情で黙り込むに違いない。
「ふふっ、それはそうだと思うけれどさすがにね。……でもありがとう、ブルクハルトもアレクシスも」
しかし、ロミルダはさすがにそんなことをするつもりはない。
それにだそれなりの対応とは言ったが、文句を言ってきた同世代の貴族たちが思いつくようなことや、ラウレンツが言ったようなことをするつもりはない。
そういう方向性とは違うのだ。
それにロミルダは、べつに怒っている訳ではない。
ただ、対応する必要があると考えたからやるだけ。
「でも、私、大丈夫よ。これでも、ブロムベルク辺境伯家の跡取りだもの。正しい対応をするわ」
二人を安心させるためにロミルダはきっちり笑みを浮かべて言ったのだった。




