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選別の終わりに立つ者

神社に流れる空気が、前に来た時と微妙に違っていた。

風の音は同じ。木々のざわめきも、鳥の鳴き声も変わらない。

それなのに――胸の奥に引っかかる、説明できない違和感がある。


境内へと足を踏み入れた瞬間、視界の端で何かが“揺れた”気がした。

だが振り返っても、そこには苔むした石灯籠と、古びた社があるだけだ。


「……気のせい、か」


そう呟きながら歩を進めると、すでに何人かのプレイヤーが集まっていた。

装備も職もバラバラ。共通しているのは、この神社に“何か”を感じ取った者たちだろう。


だが、全員が落ち着いているわけではない。


「なあ、これ本当にクエストなのか?」

「ログに何も出ねぇんだけど」

「ただの雰囲気スポットじゃね?」


焦りと苛立ちが混じった声が、静かな境内に浮いては消える。

その直後だった。


一人のプレイヤーが、突然バランスを崩すように膝をついた。


「……あ?」


次の瞬間、彼の身体が光に包まれ、強制ログアウトのエフェクトが走る。

ログには、短いシステムメッセージだけが表示された。


《条件未達成のため、エリアから退出します》


ざわ、と空気が揺れた。


「は?」

「今の、何だ?」

「攻撃もしてねぇのに……?」


だが答えは、どこにもない。

NPCもいない。敵もいない。

あるのは、相変わらず静かな神社だけだ。


それからだった。

誰かが不用意に社へ近づこうとすれば、足が止まり。

声を荒げれば、身体が重くなり。

欲を前面に出した者から、順番に――消えていった。


理由は一切示されない。

失敗の条件も、警告もない。

ただ、「合わない」者が排除されていく。


俺は、その光景を少し離れた場所から眺めていた。


――やっぱり、これは普通のクエストじゃない。


攻略も、火力も、レベルも関係ない。

求められているのは、もっと別の何か。

踏み込みすぎず、しかし逃げず、ただ“在る”こと。


ふと、背後から視線を感じた。


振り返ると、社の奥。

注連縄の向こう側で、何かが“こちらを見ている”気配がする。

姿は見えない。

だが、確実に――見られている。


試されている、というより。

見定められている。


それに気づいた瞬間、不思議と心は静まっていた。

恐怖も、興奮もない。

ただ、この場に立ち続けるという選択だけが、自然に残る。


気づけば、境内に残っているのは、ほんの数人だった。

そして――また一人、また一人と、音もなく消えていく。


最後に残ったのは、俺だけだった。


風が止む。

木々のざわめきが、嘘のように静まり返る。

その沈黙の中で、社の奥から微かな光が滲み出した。


直接触れられているわけじゃない。

だが確かに、ここまでの行動すべてが“記録された”感覚がある。


その時、視界の端に――

今まで一度も表示されなかった、淡いシステムログが浮かんだ。


《前段階クエスト:完了》


それだけだ。

報酬も、称号も、説明もない。


だが俺は、直感的に理解していた。

ここから先が、本当の入り口だということを。


小さな神社は、変わらずそこに佇んでいる。

けれどもう、同じ場所には見えなかった。


――選ばれた、のか。

それとも、ただ残っただけなのか。


その答えを知るのは、次に踏み込む時だ。


静かな境内で、俺は一歩、前に出た。

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