ネオンの下で積むもの
ギアヘイヴンに昼夜という概念があるのかは分からない。
この都市は常に光に満ちているからだ。だが今は、空が暗い。高層ビル群の隙間に浮かぶ雲は黒く沈み、ネオンだけがやけに鮮明に輪郭を持っている。
高架道路の下では、排熱ダクトから吐き出された白い蒸気がゆらりと揺れ、濡れた路面の光を歪ませていた。油と金属の匂いが混じり、遠くで鳴る爆発音が電子音と重なって反響する。
外縁エリアは、未来都市の裏側だった。
巨大ホログラム広告がノイズを混ぜながら明滅し、違法改造屋の看板が過剰な光量で点滅している。ここでは未来は整えられていない。磨かれる前の技術が、剥き出しのまま転がっている。
視界に掃討クエストの通知が浮かび上がった。
参加を押すと、ほとんど待機時間もなく三名が加わる。重装ライフルを担いだ男、両腕を機械義肢に換装した女、軽装の近接型。互いに名前も確認しない。即席編成は、この街では日常だ。
「前、出られるか?」
男の問いに、テラは短く「問題ない」とだけ返す。それ以上のやり取りは不要だった。必要なのは連携よりも機能だ。
通路の奥から規則的な駆動音が近づいてくる。
現れたのは四機の戦闘ドローン。量産型だが外縁仕様に改造されており、装甲は厚く、推進出力も強化されている。赤い照準光が一斉に点灯し、銃口が揃ってこちらへ向いた。
尾がわずかに揺れる。
正面から踏み込めば届く距離だ。だがそのままでは弾幕に削られる。
テラはわずかに立ち位置をずらした。直後、さっきまでいた位置を弾丸が貫き、路面が弾ける。
次の瞬間には、空気が遅れてくる。
加速と同時に弾道の隙間へ身体を滑り込ませ、一機目の懐へ潜る。関節部の継ぎ目に刃を走らせると、火花が爆ぜ、片脚が崩れた。体勢を失った機体へ後方から援護射撃が重なり、装甲が削れる。
二機目が旋回し、照準が追いかけてくる。
踏み込みの角度を変え、弾道を背後へ流しながら距離を詰める。推進ユニットの付け根に刃を突き立てると、小さな爆発とともに機体が転倒した。
残る二機が高度を上げる。
義肢の女が前へ出て、強化された拳を叩き込む。衝撃が装甲を軋ませ、ドローンの姿勢が崩れる。
テラはその死角へ回り込んだ。跳べば撃ち抜かれる位置だ。だから跳ばない。地面沿いに低く滑り込み、背部装甲の継ぎ目へ刃を差し込む。内部でショートが走り、機体は痙攣するように震えた後、沈黙した。
最後の一機は距離を取ろうとするが、ライフルの精密射撃がコアを撃ち抜く。
金属が転がる音が、蒸気の向こうで小さく響いた。
静寂が戻る。
【クエスト完了】
都市貢献度:+7
現在:12
「速いな、あんた」
義肢の女が軽く笑う。
「まあな」
それ以上は言わない。情報は通貨と同じだ。
遠くで再び爆発音が鳴る。別の掃討が始まったのだろう。上空を警備ドローンが横切り、巨大ビジョンが企業ロゴとともに無機質な言葉を投影する。
効率。最適化。進化。
この都市は進み続けることを強制する。止まれば、ただ置いていかれる。
派手な一撃も、劇的な解放もない。
あるのは積み重ねだけだ。
戦闘が終われば、尾は静かに揺れを収める。さっきまでの緊張が嘘のように、都市は何事もなかった顔をする。
テラは視線を上げた。
ネオンの向こう、さらに高い層にそびえる中枢タワー。その光は外縁のものとは違い、どこか冷たい。
まだ届かない。
だが、いずれ。
路地を抜けると同時に、新たな通知が鳴った。
外縁は、止まらない。




