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外縁エリア

 反射するガラス、磨かれた合金、空間を横切るホログラムの残光。

 あらゆるものが冷たい光沢をまとい、都市そのものが巨大な機械の内部のように感じられた。


 直線的な高層建築が空を切り裂く。

 無機質な塔が規則正しく並び、その隙間を縫うように空中搬送レーンが走る。

 その上を、貨物を抱えた搬送ドローンが滑るように移動していく。


 空には立体広告が浮かんでいた。

 回転する企業ロゴ、最新義肢の宣伝映像、武装の性能比較データ。

 音声は指向性で絞られているのか、騒がしさはない。

 ただ光だけが、都市の存在感を主張していた。


 竹林とは、匂いが違う。


 湿った土。

 青々とした葉の香り。

 風に揺れる音。


 それらはここにはない。


 代わりに漂うのは、油と金属、そしてわずかなオゾンの匂い。

 空調と排熱の循環が作り出す、人工的な都市の呼吸。


 ギアヘイヴン。


 外縁エリア。


 情報ウィンドウが視界の端に展開される。

 透明なフレームが、都市の現在地を告げる。


【ギアヘイヴン:外縁エリア】

都市貢献度:0

中枢解放条件:500


 数字だけ見れば、単純だ。

 0から500へ。


 だが積み上げるとなれば話は別だ。


 0は何もない状態。

 500は“認められた者”の証。


 その差は、行動の回数であり、時間であり、都市との関係値だ。


 和装姿のテラは、明らかに場違いだった。


 光沢のあるスーツ。

 発光ラインの入った戦闘服。

 完全機械化された義肢。


 その中で、布と革を基調とした装束は浮いている。


 だが視線は長く続かない。


 この街では奇抜な装備も珍しくない。


 義肢化した戦士。

 光学迷彩を纏う狙撃手。

 完全機械体のプレイヤー。

 重力制御ブーツを履いた近接特化型。


 多様性は都市の前提。

 異質は即座に日常へ溶け込む。


 その時、警告音が鳴る。


 短く、鋭い電子音。


【外縁警備クエスト】

巡回ドローン暴走個体の排除

推奨:少人数


 屋上付近で火花が散る。


 六枚羽の戦闘ドローンが二機、ビルの間を高速旋回している。

 推進ノズルから青白い噴光。

 旋回角は鋭く、制御が乱れているのが見て取れた。


 銃撃音。


 参加プレイヤーは三人。

 射撃主体。

 だが空中目標に対し、完全には捉えきれていない。


「……空中か」


 迅尾が脈打つ。


 地上型の機兵より厄介だ。

 足場がない。

 常に三次元で動く。


 だが、速度なら――


 視界が一瞬で伸びる。


 世界が引き延ばされ、音が遅れる。


 ビル壁面を駆け上がる。


 重力を無視するのではなく、利用する。

 踏み込みの連続。

 摩擦と角度の計算。


 ドローンの射線が向き、銃口展開した。


 弾道予測し最小限の動きで回避。


 速い。


 だが無理な挙動ではない。


 一瞬の踏み込み。


 視界が白く閃く。


 ドローンの推進ユニットへ斬撃。


 合金外装が裂ける音と共に片翼が爆ぜる。


 機体バランスが崩れ、火花を散らしながら落下。


 もう一機が背後から接近。


 振り向きざま、再加速し距離を詰める。


 可動域。

 装甲の厚み。

 冷却スリット。


 刃が通り、内部フレームを断ち、コアが露出する。


 衝撃波が屋上の埃を巻き上げる。


【クエスト完了】

都市貢献度:+5


 ……5。


 わずかに増えた数値が、淡く光る。


 500のうちの5。


 百分の一。


 テラは小さく息を吐いた。


「なるほどな、数こなせって訳か」


 周囲のプレイヤーも淡々と散っていく。


 誰も驚かない。

 誰も騒がない。

 称賛も、罵倒もない。


 都市の日常。


 遠くに見える中枢タワー。


 空へ伸びる白銀の柱。

 雲を突き抜けるその構造物は、外縁とは明らかに質が違う。


 500。


 まだ495必要だ。


 迅尾は、通用する。


 だが――


 この街で上に行くには、強さだけでは足りない。


 継続。

 参加。

 積み重ね。


 都市は、関わり続けた者を評価する。


 孤高では辿り着けない。


 テラは屋上の縁に立つ。


 眼下の通りを見下ろす。

 人の流れ。

 光の流れ。


 一瞬のためらいもなく、飛び降りる。


 視界に次のクエスト一覧が展開される。


 数字を積むために。


 この都市を知るために。


 中枢へ届く、その日まで。


 テラは歩き出した。

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