神主との邂逅
俺は視界の端に浮かんだ文字を見下ろした――
『【神主との邂逅】クエストを受注しました』
「……なるほどな」
独り言を漏らしつつ、石畳に足を踏み出す。光と影が揺れる境内を歩くと、風に揺れる木々の音が耳に心地よい。俺にとって、こういう静かな導入はむしろ新鮮だ。
女性は拝殿の前に戻り、手で空中に線を描くように動かす。淡い光が浮かび、文字になって現れた。
クエスト条件:東天大陸内、小さなの神社で出会ったNPCの信頼を得よ。
条件達成後:追加クエストの開放される。
「信頼……か」
肩をすくめる。こういう“プレイヤーの自由な選択次第”の試練は、正直言って嫌いじゃない。指示通りに動くよりも、自分で解決策を見つける方が面白い。
「信頼を得る、ですか……」
俺が呟くと、女性は微笑んで首をかしげる。
「ええ。信頼は、知識や実力だけではなく、あなた自身の振る舞いからも生まれます」
「なるほどな。演技じゃなく、自然にやればいいってわけか」
「その通りです。ただし、ここから先は選択次第で結果が変わります。焦らず、自分のペースで進みなさい」
言葉にはわずかな挑戦の響きがあった。試されている――そんな感覚が胸をくすぐる。
境内の外、苔むした石段を下ると、小径が続く。木漏れ日の差す路地、鳥のさえずり、遠くで小川のせせらぎが混ざり合う。歩くたびに風が頬を撫で、森の匂いが鼻腔をくすぐる。東天大陸の静かな裏通りは、日常の延長でありながら、どこか異世界じみていた。
「さて……行くか」
俺は独り言を言いながら歩を進める。ユニーク種族への道は、レベル1からのスタートになる。だが、それも楽しみのひとつだ。失うものより、得られるもののほうが大きい――そう思えた。
歩きながら、俺は東天大陸の風景を確認する。街の喧騒は遠く、木々の間に差す光が揺れる。石畳を踏みしめる感触、鳥居の影が揺れる様子、苔の匂い――五感すべてが冒険の始まりを告げている。
NPCは一歩後ろに下がり、静かに見守っていた。白い着物の裾が揺れるたびに光が反射し、彼女自身がこの神社の一部であるかのようだ。視線を交わすと、挑戦と慈愛が混ざったような複雑な感情が伝わる。
「……これ、どう進めるかは俺次第ってことか」
独り言を重ね、俺は微かに笑った。ランキングや他プレイヤーの視線など気にする必要はない。自分の冒険を、自分のペースで楽しめばいいのだ。
小径を進むうち、背後の神社は光と影の中に溶けていった。鳥の羽ばたき、小川のせせらぎ、遠くで風が木々を揺らす音――すべてが静かに、しかし確実に、俺にこの世界の深さを教えてくれる。
「妖狐か……面白くなりそうだな」
胸の奥に小さな高鳴りを感じながら、俺は歩を止めず、視界に広がる道を見据えた。




