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嚙み合わない強さ

 戦闘跡を離れ、テラは丘陵の端に腰を下ろしていた。


 風が強い。

 背の低い草が一斉に揺れ、乾いた音を立てる。

 土と草の匂いに、まだ完全には消えていない血の気配が混じっていた。


 戦いは終わった。

 敵はいない。

 それなのに、身体の奥が落ち着かない。


 肩に視線を落とし、ゆっくりと指を当てる。

 浅い傷だ。皮膚はすでに塞がり始め、痛みも鈍い。


(避けられた)


 反射的に浮かんだ言葉。

 だが、その直後――胸の奥に小さな引っ掛かりが生まれた。


(……いや)


 本当にそうか?


 問いを投げた瞬間、幻尾が微かに揺れる。

 意識に引き寄せられるように、あの一瞬の未来が再生される。


 背後からの一撃。

 刃の軌道。

 自分の回避行動。


 映像は、正確だ。

 幻尾の予測に、誤りはない。


 だが――


(あれは、避ける必要がなかった)


 距離。

 角度。

 踏み込みの深さ。


 すべて、計算の範囲内だった。

 本来なら、受け流し、体勢を崩した敵に反撃を入れて終わっていたはずだ。


 なのに。


 身体は、先に動いた。

 考えるより早く、逃げる方向へ踏み出していた。


 結果、間合いを詰めすぎた。

 余計な距離を詰め、余計な動作を挟み――

 肩を掠めた。


「……強いだけじゃ、ダメか」


 ぽつりと口に出す。

 音にして、ようやく思考が形を持った。


 幻尾は予測を示す。

 だが、それは“最適解”じゃない。


 無数に枝分かれする選択肢の中から、

 最も安全な線を、強引に引き寄せているだけだ。


(死なない未来を、最優先してる)


 だから初動が消える。

 判断が要らなくなる。

 考える前に、身体が動く。


 だが、その代償として――


「……自分のリズムが壊れる」


 剣を振る間。

 呼吸を挟むタイミング。

 次の一手を選ぶ余白。


 それらが、すべて削られていく。


 尾の根元が、じわりと熱を持つ。

 あの時の感覚が、はっきりと蘇る。


 二つの存在が、重なりかけた瞬間。

 幻尾と、別の“何か”。


(まだ、解放じゃない)


 確信があった。


 力が増えたわけじゃない。

 速くなったわけでもない。


 ――噛み合っていないだけだ。


「このまま戦い続けたら……」


 強くはなる。

 間違いなく、今よりは。


 だが同時に、どこかで破綻する。

 制御できないまま積み上げた強さは、必ず歪む。


 テラは立ち上がり、ウィンドウを開いた。

 未受注クエストの一覧が、視界に展開される。


 その中で、ひとつだけ異質な表示があった。


 ――大陸横断型・国家連動クエスト。


 発生条件:不明

 推奨戦力:不明

 報酬:未公開


「……ここか」


 戦いの中で制御を学ぶのは、もう危険すぎる。

 なら、方法は一つ。


「環境ごと、変えるしかない」


 未来都市。

 機械系ユニーク種族プレイヤーが存在すると噂される場所。


 幻尾が、微かに揺れた。


 拒絶はない。

 それどころか――

 そこに“答えがある”と、静かに告げている。


「決まりだな」


 マップを確定し、転移準備を進める。

 自分の強さが、どこで噛み合わなくなったのか。


 それを確かめるために。


 そして――

 追い越しかけている、その先を見るために。

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