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黒翼団・下位観測記録

 丘陵の上空。


 風の流れに紛れるように、三つの影が距離を保っていた。

 黒翼団――その中でも、戦闘には直接関わらない下位観測役。


「……終わったな」


 一人が、地上を見下ろしながら低く呟く。


 五体の敵は、すでに動かない。

 最後に立っているのは、ただ一人。


 妖狐のプレイヤー。


「速すぎるだろ」


 別の観測役が、思わず舌打ちした。


「包囲だぞ。地形も最悪。

 普通なら逃走判断が入る」


「逃げなかった。

 いや……逃げるという選択肢が、最初からなかったように見えたな」


 三人は、同じ違和感を抱いていた。


 ――強い。


 それは間違いない。


 だが、それだけじゃない。


「動きが……噛み合ってない」


 最初に喋った観測役が、記録用のウィンドウを操作しながら言う。


「予測系の能力か?

 初動の回避が、妙に早い」


「いや、早いってレベルじゃない。

 回避“しすぎてる”」


 攻撃を避ける必要のない場面で、避けている。

 本来なら安全な距離で、一拍置けるはずの場面で、踏み込んでいる。


 結果として――

 敵は倒れている。


 だが。


「無駄がある。

 それなのに、致命的なミスはしない」


「普通、逆だろ」


 誰かが小さく笑った。


「無駄があるなら、被弾が増える。

 だが、あいつは――」


 三人の視線が、同時に地上の妖狐へ向く。


 肩に残る、浅い傷。

 戦闘後の呼吸の乱れ。


「……消耗してる」


「なのに、倒れない」


「制御不足か?」


 その言葉に、全員が黙った。


 制御不足。

 だが、それは弱さとは限らない。


「力が、先行してる感じだな」


「身体が、能力に追いついてない?」


「逆だ。

 身体が、能力を追い越しかけてる」


 一瞬、風が強く吹いた。


 観測役の一人が、目を細める。


「見えたか?」


「……ああ」


「尾」


 ほんの一瞬。


 戦闘の終わり際。

 妖狐の背後に――


「二本に見えた」


 誰も、それ以上は言わなかった。


 見間違いの可能性は高い。

 だが、全員が“同時に”同じものを見ている。


「記録は?」


「『未確認現象』として残す。

 断定はしない」


「上には?」


「“妖狐ユニーク種族・詳細不明”

 それ以上は、まだ送れないな」


 下位観測役の仕事は、確定情報だけを上げることだ。

 推測や憶測は、命取りになる。


 地上では、妖狐が深く息を吐いていた。

 勝利後の安堵というより――

 自分の内側を確かめるような、沈黙。


「……面倒なのを見つけたな」


「だな」


「強い。

 だが、完成していない」


 三人は、静かにその場を離れる。


 まだ、報告するほどの危険度ではない。

 だが――


「次に会う時は、

 今より厄介になってる気がするな」


 誰も否定しなかった。


 妖狐というユニーク種族。

 その正体は、まだ輪郭すら掴めていない。


 ただ一つ、確かなことがある。


 ――あれは、成長途中だ。


 そして、完成した時。

 黒翼団にとっても、無視できない存在になる。


 その予感だけが、

 観測記録の最後に、静かに残された。

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