ズレ
次の戦闘は、五体。
竹林ではない。
風を遮るもののない、なだらかな丘陵。
背の低い草が広がるだけの地形で、身を隠す場所はほとんどない。
逃げ場はない――
最初から、そういう配置だった。
(囲まれるな)
考えた、その瞬間。
敵が、同時に動いた。
左右から二体。
正面から一体。
そして――背後。
気配が、完全に重なる。
包囲。
視界の端で、幻尾が揺れた。
尾の先に、複数の未来が重なって映る。
踏み込む敵。
振り下ろされる刃。
半瞬遅れると、斬られる軌道。
(……多い)
認識した、その一拍。
判断が、わずかに遅れた。
だが。
身体は、すでに動いていた。
正面。
最も距離の近い敵へ、迷いなく踏み込む。
刃が閃き、相手が倒れる。
地面を蹴る。
間髪入れず、回避。
流れるように反撃し、位置をずらす。
無駄がない。
考える前に、動いている。
――速い。
そう感じたのは、どこか他人事だった。
次。
背後から、殺気。
尾が、はっきりと警告を発する。
テラは振り向こうとして――
身体が、先に反応した。
半歩、前へ。
軸足をずらし、紙一重でかわす。
だが。
(……近い!)
回避はできた。
しかし、距離が詰まりすぎている。
刃が、肩を掠めた。
浅い。
致命傷ではない。
それでも、確かに当たった感触が残る。
妖力が、弾けるように漏れ出す。
一瞬、視界が揺れた。
(今のは……)
尾の予測は、正しかった。
避ける未来も、見えていた。
問題は、そこじゃない。
――動きが、早すぎた。
次の敵。
本来なら、一拍置いてから詰める距離。
呼吸を整え、体勢を作るはずの間。
だが、テラは――
自分から、踏み込んでいた。
攻撃は通る。
刃は、確実に相手を捉える。
なのに。
余裕が、ない。
(これ……)
強い。
確かに、今までよりも強い。
尾の予測を、なぞれている。
いや、なぞるどころか――
追い越している。
だが――
それは、自分のリズムじゃない。
最後の敵を斬り伏せた瞬間。
足元が、ぐらりと揺れた。
倒れはしない。
だが、踏ん張りが効かない。
妖力の流れが、荒れている。
勝手に加速し、勝手に減速する。
(幻尾に、引っ張られてる……?)
違う。
引っ張られているんじゃない。
追いつこうとして――
追い越している。
尾の根元が、じわりと熱を持つ。
一瞬だけ、確かに。
二つの感覚が、重なった。
視界の端に、影。
尾が――二本あるように見えた。
瞬きをすると、幻のように消える。
(また……だな)
テラは、深く息を吐いた。
制御できていない力は、武器じゃない。
ただの事故だ。
幻尾が示す予測に、
身体が追いつき始めている。
だが――
追い越した先が、見えていない。
そのズレだけが、
はっきりと、体に残っていた。




