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幻尾という選択

【World Notice】

【ユニーク種族「妖狐」が誕生しました】

【該当プレイヤー名は非公開です】


俺――テラは、小さな神社の境内でそれを聞いていた。


風が吹く。

鳥居をくぐり抜けた空気が、境内の奥へと流れ込む。

紙垂が揺れ、かすかな擦過音を立てた。


……感覚が、違う。


石畳の冷たさが、やけにくっきりと足裏に残る。

木の匂い、湿った土の気配、遠くで鳴く鳥の羽音。

世界の解像度が、一段階上がったようだった。


さっき確認したステータスやスキル構成は、もう頭に入っている。

今はただ――馴染んでいく感覚だけが、妙に生々しい。


背後に、存在感がある。


いや、「何かがある」というより――

無いはずのものが、在る。


幻の尾。

実体を持たないはずなのに、動かそうとすれば応える。

視界の外で、思考と同期して揺れる“感覚”。


その瞬間、半透明のログが一つだけ浮かび上がった。


《AI解析:初期尾選定理由》


過去の行動ログが、淡々と流れていく。

索敵、回避、間合い管理、単独行動。

攻めよりも、生き残るための選択。


《結論:幻尾》


……派手さはない。

だが、俺らしいと言えば、確かにそうだった。


その時。


社の奥、影が重なる場所から、別の“妖気”が立ち上がる。


人型。

だが輪郭は曖昧で、現実と幻の境界がぼやけている。

背には――一本の尾。


「……外の妖狐は、まだ浅い」


低く、感情を感じさせない声。

次の瞬間、空間が歪んだ。


視界がぶれる。

そこに“いる”はずの妖狐が、いない。


――置かれた幻。


気づいた時には、別方向から圧が来ていた。

攻撃そのものよりも、思考をずらす動き。


「尾は武器じゃない」


交錯する一瞬の中で、言葉が落ちてくる。


「――選択肢だ」


俺は一本しか持っていない。

だが、こいつは完全に理解している。

尾をどう“使うか”ではなく、どう“考えるか”を。


短い戦闘だった。

勝敗以上に、差を叩きつけられる内容。


妖狐NPCは、消える直前に一度だけこちらを見た。


「入口に立っただけだ」


そして、霧のように消えた。


――世界の外側では、別の熱が生まれていた。


公式掲示板。


「なあWorld Noticeみた?]


「見た見た。

  ユニーク種族「妖狐」が誕生しましたってやつだろ?」


「つーか妖狐ってマジで存在したんだな」


「知ってる奴は知ってた系だろ

  神社絡みの噂、だいぶ前からあったし」


「でも挑んだ奴、ほとんど途中で消えたって話じゃなかった?」


「条件が面倒ってより、

  “選択肢”がキツいらしいな」


「妖になるか、人で終わるか、ってやつ?」


「それそれ

  あとはクエストがプレイヤーを選んでクエスト失敗、ってのが結構いる」


「そりゃあれのクエスト認められるやつはたいていランカーかそれに近い水準だし悩むだろ

  今の地位捨ててまで行くか?って話だし」


「で、妖狐って強いの?」


「ユニーク種族なんだから弱いわけないだろ」

「聖称号持ちのユニークジョブプレイヤーに勝つくらいだし」


「でも前ヴァンパイアの奴聖称号持ちに負けてなかった?」


「そりゃ、相性とPS次第では捲れるだろ

  それにヴァンパイアに勝ったやつは聖称号持ちの天聖騎士だったはずだぜ」


「しかし行ったやつすげえな」

「よく全部捨てたわ」


「まあ、ロマン勢だろ」

スレッドは、そんな感じで流れていった。


その渦中で――

俺は境内に立ち、深く息を吸った。


一本の尾。

まだ使いこなせない力。

だが確かに、次へ繋がる“感触”がある。


これはまだ、前段階だ。


妖狐という存在の、ほんの入口。

だが――この一歩が、確実に世界を変えていく。


そう、直感していた。

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