銀貨5枚の知恵比べ
春の陽光が石畳を照らし、市場は喧騒に包まれていた。馬車の車輪が軋み、商人たちの甲高い声が飛び交う。俺は、そんな喧騒を背に、古びた羊皮紙を手に取った。昨日、宿の酒場で酔っ払いの男から二束三文で買い取った、曰く付きの品だ。
「ほぉ、それを売りに来たのかい?」
市場の隅で、太った商人がニヤリと笑った。その目は、獲物を狙う獣のようにギラついている。
「銀貨三枚でどうだい?羊皮紙なら革職人に高く売れる。悪くない話だろう?」
俺は羊皮紙を広げ、裏面に薄く刻まれた文字を眺めた。読めないが、ただの古い紙ではないことは確かだ。
「……アンタの笑顔が胡散臭すぎるな。この紙、裏に何かあるんだろ?」
商人の目が一瞬泳いだ。こういうタイプの人間は、知恵を試されるとすぐに化けの皮が剥がれる。
「何を言ってるんだ?ただの古い紙だよ。さっさと売ってくれ」
「焦るなって。急ぐ商人は損をするって、昔の賢人が言ってた気がする」
俺がニヤリと笑い返すと、商人は明らかに不機嫌そうな顔をした。
「……で、どうするんだ?持って帰るのか?」
「いや、売るよ。銀貨五枚ならな」
「……アンタ、賢いのか愚かなのか、全く読めないな」
商人は渋々銀貨を差し出した。俺はそれを受け取り、羊皮紙を商人に手渡した。
「知恵比べの商売ってやつだな。この紙に何か秘密があれば、アンタの勝ちだ」
「……次はお前を試してやるよ」
商人の笑みを見て、俺も小さく笑い返した。
春の市場は、いつもこんな風に騒がしい。