エピローグ
伝説の宴から、幾日もの時が流れた。
祭は夜を越え、朝を越え、まるで時さえも酒に酔ったように続いていた。
誰もが疲れ、誰もが笑い、誰もが、いつまでもこの夜が続けばいいと願った。
そして、宴が終わったあと――
三界に残ったものは、争いではなく、共に酌み交わした記憶だった。
⸻
黒き城に座していたかつての魔王ベルガルドは、
今は、霧の谷を見下ろす静かな山の中腹で、小さな酒蔵を営んでいる。
「魔王直伝の酒造りを教えてほしい!」
弟子志願者は、魔族・人間・果ては精霊まで。
彼らは「お酒に国境はない」と信じ、ベルガルドのもとに集ってくる。
ベルガルドは大きな体で小さな樽を抱え、日々、静かに仕込みを続けている。
かつて世界を震わせた魔の力は、今ではほのかに香る酒の温もりとして、村に染み渡っていた。
⸻
ケンイチもまた、以前と変わらぬようでいて、どこか大きくなっていた。
修道院の一角には今や立派な蔵が建ち、仕込みの数も技術も日々進化を続けている。
酒を造り、畑を耕し、孤児たちと笑い合い、時に宴を開く――
そんな日常こそが、彼の戦いの果てに望んだ“しあわせ”だった。
「おじさん、今日の酒って昨日より美味しい気がする!」
「……ふっ。気のせいじゃないさ」
ミコが台所で焼いた新作のおつまみを運び、リディアが帳簿をにらみ、
セラフィーナは朝夕に神に祈り、三姉妹は村の人々を手伝っている。
ナオトは再び旅へと出たが、時折ふらりと立ち寄っては、
「やっぱりここが一番だ」
と笑って帰っていく。
⸻
そして、あの宴を記念して――
修道院では毎年、「大宴会記念祭」が開かれるようになった。
色々な国から再び客人が訪れ、村には笑い声と歌が溢れる。
かつて「霧の谷」と呼ばれたこの場所は、
今や“神魔共酌の地”として知られる聖地となっていた。
⸻
それでもケンイチは、いつものように笑う。
「今日も、酒を仕込もう」
――それが彼にとって、世界を救った英雄としての、何よりの“報酬”だった。
そして物語は、静かに幕を下ろす。
だがそれは終わりではなく――
新たな日常という名の、次なる伝説の始まりだった。




