6.孤児とエール
ここ1週間は改修工事の為にギルドの人達が大勢手伝いに来てくれた。
厳つい人達も笑顔で働いていた。
見た目で判断してごめんなさい。
話を聞くと皆、修道院のエールがおいしくなって、もっと飲みたくなったらしい。
沢山飲めるようになるならと率先して名乗り出てくれたとのことだ。
そんな嬉しいことを聞いたからには、休憩の際にはエールを振る舞った。
完成後は皆なぜか泣いて喜んでいた。なぜだろうか…
ーーーーーーーーーーーーーーー
「ケンイチさん!台所がだいぶ大きくなりました!」
「驚くくらい大きくなりましたね」
前までは民家にあるような台所だったが、今じゃ大きな厨房と言っていいほどになっている。
2人では到底使いきれない大きさだ。
台所以外も見て回ると、聖堂がとても綺麗になっていたり、食堂、居住区、診療所などが今にでも使用できるほどになっていた。
「完成したと報告があって来てみたら、いい出来になたじゃないか」
「ギルド長!ありがとうございます!私なんと言って良いか…」
「俺…いや、私からもありがとうございます」
「頭を上げてくれ2人とも。これからが肝心なんだ。大変だと思うが頑張ってくれよ。あ、それと、カトリーナが孤児の依頼があると言っていた。後でギルドに顔を出してくれ」
ギルド長はそういうと足速に去っていった。
俺達は、ある程度日常のやることを終えてからギルドへ向かうことにした。
ーーーーーーーーーーーーーーー
ギルドに着くとギルド長室へ通された。
そこにはすでにバルザックさんとカトリーナさんが話し合っていた。
「2人とも待っていたわ」
「孤児の話について聞きに来たんですが…」
「ええ、受け入れてほしい子は三人なんだけどいいかしら」
「とりあえず、やるだけやってみます」
「あとは、深い話はギルド長から…」
この間、この世界に召喚されたという伝説の勇者が、辺境の村にあるダンジョンに挑戦し、失敗。
結果、ダンジョンブレイクしてしまいモンスターが溢れてしまった。
国はギルドに依頼をし、村を巻き込む戦いになってしまった。
生き延びた住民は違う村や街に行ったが、今回依頼の三人は身寄りがなかった。
「と、いうことなんだ…いきなりで申し訳ないが修道院でよろしく頼む。」
ーーーーーーーーーーーーーーー
修道院でしばらく待っているとカトリーナさんが3人に子供達をを連れてきた。
リゼット・カーラル 女の子10歳
エリック・アジッド 男の子6歳
エリス・アジッド 女の子6歳
と言うらしい。
「遠いところから、よく無事にいらしてくれましたね。私はここのシスター、一応、修道院長のカトリーナ・アリアと申します。」
セラフィーナさんが凄くシスターらしいことを言っているのを久しぶりに聞いた気がする…
「俺は、酒井 健一。この修道院の………居候?」
そういえば俺の立場ってなんなんだろう…
「ケンイチさんはー……お酒を作る人?」
子供達の表情が少し柔らかくなった感じがする。
セラフィーナさんに聞いながらこれからのことを決めよう。
とりあえずは、セラフィーナさんは院長かシスター、俺のことは先生と呼んでもらうことにした。
優しく教えていくのかと思ったが、意外にもきっちり行う対応をとっていた。
一日の流れ、業務についても一通り教えたらしい。
「今日は畑作業がもう終わっているから、エールの作成作業をしましょうか」
台所へ行き、エールに使う素材を作成する手伝いをしてもらった。
「皆さん熱心にやってくれますけど、そんなに頑張りすぎると後から燃え尽きちゃいますよ?自分のペースやってくださいね?」
セラフィーナさんは意外にも人の心を理解する力があるんじゃないだろうか…
「休みながらきちんと水分も摂ってくださいね?」
そう言うとエールを差し出した。
「セラフィーナさん!!子供にエールは駄目ですよ!!」
「え?」
忘れていた…この生活に慣れすぎて水分補給がエールと言う違和感を完全に忘れていた…
「子供にエールは体に悪いのですよ…少し待っていてください…」
台所にあった濾過し煮沸した綺麗な水を渡す。
「ケンイチさん、この水ってこのまま飲めるんですか?」
「安心して飲んでみてください」
子供達は恐る恐る水に口をつける。
「お酒先生!これ臭くない」
「シスター…これ苦くない水…すごい…エリック美味しいよね?」
「本当だ苦くない…! エリス!こんなの初めてだね!」
子供達は飲んだ瞬間笑顔になった。子供にお酒を飲ませてしまうような倫理観は崩壊していなくてよかった…
おい待て、お酒先生って言わなかったか?……初日だし…突っ込むのはやめておこう…
ーーーーーーーーーーーーーーー
その後は、買い物へ行き、今後の食べ物や足りない寝具、衣類を購入して歩いた。
お金も安定して稼げ、子供達も増えたということで、食事も少しは栄養バランスが良いものを買った。
食後は子供達は疲れたのか、すぐに寝てしまった。
静かになった後セラフィーナさんと晩酌をすることになった。
「ケンイチさん本当にありがとうございました」
「急に改まってどうしたんですか。俺の方こそ感謝したいくらですよ。あの時声をかけてくださらなかったら、今頃どうなっていたか…」
「あのー…ケンイチさん敬語辞めてもいいんですよ?私より年上ですよね?」
「いやいや、シスターを尊敬してますので」
「むー…」
「怒らないでくださいよ。明日は別のお酒を作る為に素材を探してみませんか?」
「ケンイチさんまだ他にも美味しいお酒の案があるのですか!?」
「沢山ありますので楽しみにしていてください」