43話酒の祭典に向けて
「酒の……コンテスト?」
ギルドに届けられた一通の王命文。
ケンイチはその文字を何度も読み返した。
そこにはこう書かれていた。
『第一回 王国酒祭り、開催決定。
王国内外からの参加を受け付ける。出品条件は“王国で作られた酒であること”』
「王国中の酒が一堂に会する……祭り、か」
ケンイチはつぶやきながら、少しだけ微笑んだ。
「ケンイチ! ねぇ、これって出るしかないんじゃない!?」
フェリシアが嬉しそうに顔を輝かせた。
「そうよ。あなたの酒はこの国を救ってきたもの。出る資格は十分あるわ」
エスメラルダも静かに背中を押す。
「ま、私たちの作った清酒も甘酒も、けっこう評判いいみたいだしな」
ベアトリーチェもにやりと笑った。
ケンイチはゆっくりと頷いた。
「出るとしたら……新しい酒を作りたいな。これまでの延長線じゃなくて、“この国の素材だけ”で、誰の舌にも残る酒を」
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その夜。ケンイチは台所の灯の下で、ひとり机に向かっていた。
傍らには、メモと瓶に入った試作酒の数々。
清酒、白酒、ライスビール……それぞれに特徴があり、どれも完成度は高い。
だが、コンテスト――それも「祭り」と名のつく晴れの舞台には、もっとインパクトのあるものが必要だと感じていた。
「素材は……米、香草、果実、麦、芋、蜂蜜……水も豊富だし、酵母も安定してる。問題は、どうやって“この国らしさ”を出すか」
「なら、組み合わせてみるのは?」
背後からふわりと声がした。振り返るとミコがいた。
「果実の香り、蜂蜜の甘み、米のまろやかさ。三つを一つにしたら、この国だけの“神酒”になるかもしれません」
「……なるほど。それ、いただきだ」
ケンイチの目が輝いた。
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次の日、畑の端で育てられていた小さな果樹園から、黄色く熟した果実――“ルナの実”を収穫した。
「これ、りんごみたいな香りがするね」
フェリシアが嬉しそうに袋に詰めている。
「果実酒って言えば、女性人気も高いはずだしな。見た目もかわいく仕上げると良さそうだ」
ベアトリーチェが試作の瓶を見ながら呟く。
「糖分はルナの実と蜂蜜から。麹で発酵を助ければ、柔らかな口当たりになるはず」
エスメラルダが分量を慎重に測りながらメモを取っていく。
果実をすり潰し、甘みの強い蜂蜜を加え、さらに酒米で作った麹と清らかな山水を注ぎ込む。
発酵用の壺に静かに流し込み、蓋をかけた。
「温度は低めに。果実の香りを飛ばさないように……」
ケンイチの表情は、真剣そのものだった。
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数日後。香り立つ新酒の試飲会が、修道院の中庭で開かれた。
「……これは!」
ギルドの使者が目を見開いた。
香りはりんごのようにフルーティで、蜂蜜の甘みと米のまろやかさが合わさり、のど越しは驚くほどなめらか。
最後にふわりと抜ける香草の風味が、どこか神聖さを感じさせた。
「名は……“月の雫”にしよう。夜に咲く果実と、神の甘みが宿った酒」
ケンイチの言葉に、皆が頷いた。
「……よし、これでいこう。この酒で、コンテストに挑戦する!」
修道院の皆が手を取り合い、歓声を上げた。
新たな祭りの幕が、静かに――だが確かに、上がろうとしていた。




