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41話黄金の実り

初秋の風が修道院の丘を駆け抜ける。


畑一面に広がる稲穂が、朝日を浴びて黄金色に揺れていた。

「……ついにこの日が来たな」

ケンイチが感慨深くつぶやくと、隣で見ていたエスメラルダが静かに頷いた。


「ここまで、本当に色々あったな」


⸻


数ヶ月前。

米の苗を植えた直後、謎の虫型魔物が大量発生し、葉を食い荒らした。

三姉妹と子供たちが一丸となって対処したが、数日は寝る暇もないほどの作業だった。


その後も、雨の降らぬ日が続き、土が乾ききる。

井戸の水も限界があり、セラフィーナは街の教会にまで水をもらいに走った。

「祈りだけじゃダメね……体も動かさなきゃ」

と呟いた顔は、少しだけ誇らしげだった。


そして、水の流れを管理するために、ミコは山に登って水路を引き直す術を使った。

「神の加護があれば、水も応えてくれます」

そう微笑む姿は、まるで守護神のようだった。


⸻


「じゃあ、始めるか!」

ベアトリーチェの声で、収穫が始まった。


子どもたちは鎌を片手に、背丈より高い稲を刈り取っていく。

フェリシアは転びながらも笑顔で、俵に稲を詰めていた。

エスメラルダは切った稲を綺麗に揃えて束ねる。


ケンイチはというと、皆の様子を見ながら、収穫した米の選別を始めていた。

「これはご飯用、こっちは酒用――あっ、これは発酵しやすそうな粒だな」


収穫後、米は丁寧に干され、竹で編んだ俵に保存された。

中には、三姉妹とケンイチが作った特製の酒用俵もある。


「酒にする分は、しばらく寝かせよう。発酵の深みが変わるからな」

ケンイチが言うと、皆が頷いた。


「ご飯も楽しみだね!」

フェリシアが目を輝かせる。


「今年は、自分たちで作った米で酒とご飯……最高の贅沢だな」

ベアトリーチェもどこか誇らしげだった。


⸻


その夜、修道院では早速新米で炊いたご飯が振る舞われた。

ふっくらとした香りが広がり、皆の箸が止まらなかった。


「これが、自分たちで育てた味か……」

ケンイチは、湯気の向こうで笑う子供たちを見ながら、心から「帰ってきて良かった」と思った。


外の風は少し冷たいが、修道院の中は温かい――

仲間と共に築いた、ささやかで大切な実りの季節だった。


⸻


朝。

収穫を終えた修道院の台所には、ふんわりと米の甘い香りが立ちこめていた。


「今日は、甘酒を作ってみようと思う」

ケンイチが言うと、三姉妹と子どもたちは一斉に目を輝かせた。


「サトウキビを、使うの?」

フェリシアが聞くと、ケンイチはふふっと笑った。


「いや、使わない。米の甘みだけで、驚くほど甘くなるんだ」


⸻


まずは、お米を丁寧に洗い、研ぐところから始まる。


ケンイチが両手でやさしく米を擦ると、白く濁った水がボウルの中に広がった。

「米を痛めないように、優しくな。まるで赤ん坊を洗うように」


エスメラルダが水を替えながら、米の粒を確かめるように見つめる。

「うん、いいお米。つやも香りも最高ね」


研ぎ終えた米を釜に移し、水を張って炊き上げる。

その間、ミコは台所の一角で何やら包みを広げていた。


「これは、私が山で拾った麹菌を育てたものです」

差し出されたのは、ふんわりとした白い麹の花が咲いたような板。

「これで、甘酒に必要な“米麹”を作りました」


「ミコ、麹まで作ってたのか……すごいな」

ケンイチも感心する。


⸻


炊きあがったご飯は、しゃもじを入れただけで湯気とともに優しい甘い香りが広がった。

「さぁ、少し冷まそう。麹は熱すぎると死んでしまうからな」


大きな木鉢に移し、ケンイチは手で広げながら、少しずつ温度を下げていく。

湯気の中に、ケンイチの表情がぼんやり浮かぶ。


「だいたい人肌くらい、40度前後だな……よし、麹を混ぜよう」


米の上に白い麹がふわっと振りかけられる。

混ぜ込むと、すぐにほのかに酸味を含んだ香りが立ち上がってきた。


「これから、発酵させる。温度を保つために、マジックボックスに仕込んだ発酵機を使おう」

ダマスカス鉱石製の酒器が並び、その中へと丁寧に混ぜた麹米を移していく。


「これで一晩寝かせれば、甘くておいしい甘酒になるはずだよ」


⸻


翌朝。


台所に入った瞬間、ふわっと優しい甘い香りに包まれる。


「……できてる」

ケンイチが蓋を開けると、中にはとろりとした乳白色の甘酒がたっぷりと満ちていた。


「飲んでみる?」

子供たちが小さな木のカップを手に、そわそわと待っている。


一口含むと――

「わあ……あまい! でも、お砂糖じゃない、優しい甘さ!」


「うん、お米の甘さだね。優しくて、あったかい……」

フェリシアがうっとりと目を細めた。


セラフィーナは手を合わせて静かに言う。

「神様の恵み……本当に、そう感じます」


⸻


その夜、修道院では甘酒を使った料理が振る舞われた。

温めた甘酒に少量の塩を加えたスープ、パンに塗るジャム状の甘酒、そしてデザートの甘酒プリン。


仲間たちと共に味わうその甘さは、どんな高級酒よりも、どんな豪華な料理よりも――

心をあたためる、そんな優しい一杯だった。



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