3.エールの改良
今日は朝日が登る頃勝手に目が覚めた。
前日に正しい生活を送ったからだろうか、こんなにもスッキリ起きたのは何年振りだろうか。
すでに台所からもう物音がしている。
「おはようございますセラフィーナさん」
「おはようございますケンイチさん。起こしてしまいましたか?」
物音は麦を砕いている音だった。
「いえ、勝手に目が覚めたんです。よければ手伝わせてください」
「お気遣いありがとうございます。ですが、先に食事を召し上がってください。昨日と特に変わりありませんが…」
「ありがとうございます。お言葉に甘えて食べてこようと思います」
テーブルにはエールと茶色のパンがあった。
朝から酒か…
と、思ったが文句は言えない。硬いパンを口に入れエールで柔らかくし飲み込む。
「食べ終わりましたので一緒にやりますよ」
1時間ほど淡々と麦を砕いた。
「こんなにも早く終わると思いませんでした。さすが男性ですね助かりました」
「いえいえこのくらい大したことないですよ。次は何をしましょうか」
「次は畑の横にあった井戸から水をそこにある樽に運んでもらえますか?」
「わかりました」
木のバケツを持ち井戸と台所を何往復もした。
任せてくれてもいいのに、セラフィーナさんも一緒にやってくれた。
いつもこの作業を1人でやっているなんて…
「次は何をしますか?」
「麦と野草の煮込む作業なのでやることはないですね…んー…ギルドに納品するまでの時間は好きにしていいですよ?」
「では、俺もエールを作ってみてもいいですか?」
「エールをですか?いいですけど…」
ーーーーーーーーーーーーーーー
早速エール作りの素材を集める。
「セラフィーナさん麦を少しもらってもいいですか?」
「どうぞ!たくさんは困りますが…」
あとは綺麗な水と素材が必要だ。
セラフィーナさんが作っているエールには雑味が多い。
何種類かの野草を分量適当に入れているから味も安定しない。
最初は水の準備だ。
この街には濾過技術が発展していない。
一から作る必要がある。
前にインターネットで濾過装置について見た事がある。
必要なものは
・筒状の容器
・⼩⽯
・砂利
・砂
・炭
・綿
・布
これは修道院の周りで集まる。
台所で筒状の容器と炭。
畑で小石と砂利と砂。
綿と布はセラフィーナさんから要らない物を貰う。
それらを組み合わせて濾過装置を完成させる。
次は必要な素材を畑から採取する。
俺はセラフィーナさん使っていた野草やハーブは使わずホップを使う。
ホップがあるのになんで使っていなかったのだろ?
畑の端に生えているホップを採取し、素材はこれで全て集まった。
早速造酒作成に取り掛かる。
ーーーーーーーーーーーーーーー
まず最初に汚れた水の濾過。
粉砕した麦を温水(50〜60℃ほどの湯)に浸して糖化させる。
この作業は数時間行う必要がある。
待っている間に、セラフィーナさんとギルドに納品しに行ったり、買い物の手伝いをした。
煮詰まった麦汁にホップを混ぜ少し煮詰める。
完成したホップ入りの麦汁を液体を濾し、樽に入れ蓋を閉める。スキル酒聖で発酵させていく。
本当は一定の温度で発酵させる物だが、酒聖があれば温度調整したような味に一瞬でなるはずだと、踏んでいるが…
そっと樽の蓋を開けると泡が立ちシュワシュワとしている。
ちょうど良い感じに発酵しているようだ。
少しだけすくって飲んでみる。
「お!」
現代のビール程にはいっていないが、味も澄んでいて、雑味もなく美味しい。
アルコールも5%ほどになった。
「ケンイチさん?あの…私もよろしければ飲んでみたいのですが…」
後ろでひっそりと覗いていたセラフィーナさんが出てきた。
「もちろん。遠慮なくたくさん飲んでください。素材は全て修道院のものなんですから」
「ごく…ん!!! ゴクゴク…!」
物凄い勢いで飲み干した。
「ケンイチさん!こんな美味しいエールを飲んだことがありません!先代のシスターよりも美味しいです!」
「喜んでいただけて嬉しです」
「よろしければ、明日からケンイチさんのレシピで作りたいのですがダメですかね…」
こんな若い子から上目遣いでお願いされるなんて…断る理由が…
「構いませんよ。しかし、いいですか?今までの作っていた味のエールじゃなくなってしまいますが」
「いいんです。元々それほど私の作るエールの味が人気があったわけではないので…」
「あれはあれで美味しいと思いますよ。しかし、雑味が多いので少し手直ししてみると、さらに美味しくなると思いますよ?」
「本当ですか!? ぜひ教えてください!!」
「私でよければ」
こんなにも目を輝かせてお願いされるとは思わなかった。
でも、きっとそれは俺が修道院で寝泊ましていることに対して罪悪感を感じさせないようにする為なんだろう。
夕食は茶色いパンと俺の作ったエールを食べた。
とりあえず今日は休むことにし、明日の朝から俺の改良レシピを伝授することとなった。