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第三話 帝真の試練

 雉羽に重そうな扉を開けてもらい,帝社の中に慎重に入ると,狩魔は恐ろしさと好奇心を覚えた。まだ先程の涙の乾いた筋が頬に張っているが,狩魔の心は信念で満ち満ちていた。滑らかな白装束の袖で残涙を拭い,「失礼します!」と威勢よく帝社の光沢のある白い大理石の床を踏んだ。

「...其方が稲村狩魔か...初めまして。私は帝真。この栖界では神と呼ばれている鬼だ。今回は急に殺害してしまってすまないね。なにせ神力が宿る人間が近頃増えていてね。許しておくれ」

 目の前の大きな椅子に座っているのはこれまた5mはある大きな体に神話に出てくるような恰好をした美しい鬼だった。中性的な美形の色白い顔は金髪の腰まで届く長い髪を際立たせ,金の瞳はじっとこちらを見ている。そして何より,その優しそうでもあり勇敢とも捉えることのできる表情はまさに神そのものだ。

「いえ...あの...その...」

あまりの美しさに言葉の発し方も忘れた狩魔はその場に固まりながらしどろもどろしていた。

「この世界の在り方は雉羽に大体聞いたと思うから,私からは其方の神力についてとちょっとした試練を受けてもらうよ。まだ良く分からない事もあると思うけど,それは試練に受かった後に神従鬼達が教えてくれるから安心して。じゃあまずは君の神力についてだけど...」

 そこまで言うと帝真はゆっくりと立ち上がり,中にもやがかかっている半透明な水晶玉を左手で包みながら,「開神」と囁く様に言った。

 すると,もやがかかっていた水晶玉の中に何やらどす黒い何かが溢れ出し,あっという間に水晶玉を真っ黒にしてしまった。帝真はそれを注意深く隅々まで見ると,「なんと...そうだったのか...しかしなぜ...」と呟き,こちらに向き直った。その目には涙が浮かんでいた。

「ええっ!すみません何かご無礼がありましたか」

 と狩魔は焦りながら聞いた。神を泣かせたなんて知られたら栖界でも殺されるかもしれない。

「いえ,驚かせてしまったね。でも許してくれないか。驚かずに聞いて欲しい,其方には私の旧友の神力が備わっていたんだよ」

 と帝真は言った。神の旧友の神力...一体どんな壮大な力なんだろうと狩魔はわくわくしながら

「あの...俺にはどんな神力が宿っているんですか?」

 と興味がない素振りをしつつも心ではニタニタしながら聞いた。

「友の...満祇の神力は物質を強化するものだった。君にも今の段階だと物質を強化する神力が宿ってるんだ。でも満祇は神力を進化させようとしてたからね...強化以外にもできるかもしれない」

「あの...神力って進化出来るんですか?」

「うんできる。まあ進化というよりも元から神力ができたことを使えるようにするだけだけどね。技の引き出しを増やすんじゃなくて元ある引き出しを開けれるようにしてるって言い方が正確かな。ともかく満祇はそれをして神従鬼の中でもトップクラスの成績だったんだ。だけど...いや,いい。話が逸れてしまったね。ええとどうしようか。神力については終わったから...試練だね。よし,じゃあ場所を変えようか」

 そう言って帝真は持っていた水晶玉を元に戻し,代わりに一枚の白く輝く30㎝位の縦長い結晶を手の平に乗せながら「転処」と言った。

 すると白い帝社の床からふわっと足が離れたかと思うと,次に着地をしたのは黄色い砂が地面に固められた,スタジアムの様な場所だった。周りを見渡すと観客席があり闘技場に転送されたことが分かった。

「神様,お待ちしてましたよ。後はお任せください。」

「うん。ありがとう乱屠」

帝真が誰かに話しているのに気づいて振り返った狩魔は度肝を抜かれた。帝真と親しく話していたのは紛れもない狩魔を殺した紫髪野郎だったのだから。

「おい!この前の紫髪!よくも...」

「ん?ああー!この前のー。誰だっけ。稲妻かりま!」

「ちげーよ稲村狩魔だ!」

「今無理競馬?」

「い・な・む・ら・か・る・ま・だ!!」

「いなびかり海馬?」

「てめえわざとやってんだろ!!!」

「落ち着いて二人とも。すまないが乱屠を許しておくれ。彼は私の命令でやったんだ」

 口喧嘩を止めるべく帝真がなだめる様に言った。

「殺したのは100歩譲って仕方ないにせよこのクソガキ感が癪に触るな...」

「クソガキはどっちだよー」

「あ?」

「ん?」

「試練...」

「てか僕の名前は乱屠だ。神従鬼として先輩なんだから乱屠さんぐらい言えよおー」

「ランドセルみたいな名前だな。ガキにはぴったりだ」

「はあー?あり得ないー。キモイ奴の試験監督者なんてごめんだね」

「うるせーな童顔クソガキ」

「栖界でも死にたいみたいだな人間くんよお」

「じゃあ試験を始めようか」

帝真は無理矢理試練を開始し始めた。

「ルールはなんでもありだ,殺さなければね。あえて神力の発動の仕方は教えない。感覚のみでどう動くかを見させてもらうよ」

そう言った後帝真はあの結晶を持ってもう一度「転天」と囁き消えていた。

「よしじゃあやるよー。あーだりい」

「真面目にやれよ!俺はここで神従鬼になれるか決まるんだろ!」

 威勢よく話す狩魔を驚いた様子で乱屠は見ていた。

「成界であんなに死にたくなさそうだったのにいきなりどうしたんだよー。キモイぞ」

黒く輝く弓を背中から取り出しながら乱屠は聞いた。

「雉羽さんに聞いたんだ。厄鬼の中に神力をいじれる奴がいるって,そいつを神従鬼になって見つけて俺から神力を取り出したらまた元の日常に戻れるかもだろ?」

狩魔は自信満々に言い放った。しかし...

「へっ。今までそんな神力見たこともないね。あと仮に見つけたとして相手は厄鬼だよ?おとなしく従う訳ないじゃないか。神様に歯向かう厄だから厄鬼なんだし,それしてくれるんだったらそいつは神従鬼だよー馬鹿だねー」

乱屠の口から返ってきたのは非情な現実だった。

「それに...君弱そうだし神従鬼になれるか怪しいよ?」

そして悪口だった。

「はあああ?クソガキに負けるかボケが」

「乱屠だ!雉羽さんにはさん付けしてたのになんだよこの差はあー」

「雉羽さんは大人だ。クソガキじゃない」

「よーいドン」

次の瞬間,俺の心臓に矢が迫っていた。


 





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