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第二話 魂の廻り方

 雲を超えた山の山頂にローマにある神殿の様な立派な建造物が建っている。それを樹海が隠すように周りを覆っているこのだだっ広い場所に狩魔はいつの間にか立っていた。一瞬理解が追い付かなくなったが,現状を理解するのにそうそう時間はかからなかった。あの紫髪の鬼に矢で射抜かれたせいでこんなおかしいところに来てしまったんだ。

「あいつ殺してやる...」

と凄んでもここがどこだか分らない上に狩魔が着ているのはいつの間にか白装束になっていた。なんだこれ...これじゃまるで本当に死んでるみたいじゃないか。

 すると背後からいきなり「ようこそおいでくださいました」と低く渋い声で声をかけられた。

「お待ちしておりました,稲村狩魔様。私は雉羽と申します。今回稲村様が新しい神従鬼になるための登録のお手伝いをさせていただく事となりました。立ち話も何ですから目の前にございます帝社に向かいながら話しましょう」

 もう意味が分からなかった。コンビニにアイスを買いに行っただけなのにいきなり神の命で紫髪の鬼に矢で撃たれるわ,気づいたら白装束を纏い知らない場所にいるわ,そして今度は頭が雉みたいな奴がツダケンボイスで話しかけてくるわ...もうここまでおかしな状況になってくると意外に頭は冷静になってきていた。

「あの...雉羽さんでしたっけ。ここはどこなんですか?」

 雉羽は手を顎に添え(いや手羽先か?)少し考えた後,

「そうですね...まず率直に申し上げますと,ここは狩魔様達の言葉で言うとあの世でございます」

 と狩魔にとっては少々残酷な真実をさらっと告げた。この一言は狩魔の既に一杯な精神をへし折るには十分すぎた。

「あ...あの世ですか...つまり俺は死んだと?」

「ええ」

 狩魔はその場にへたり込んだ。もう立つ気力も残ってない。狩魔に手を差し伸べながら雉羽は

「まあ死んだと一言で申しましても様々な種類があります」

 と言った。そして雉羽はこの世界のことについて話し始めた。

「まず狩魔様が生前居られました世界,私共は成界とと呼んでおります。そして私達がいるこの世界,これを栖界と呼びます。と言いましても,成界と栖界,あまり大きな違いはございません。狩魔様が今まで暮らしておられた成界とほぼ同じ環境でございます」

「あの...よくわからないんですけど,死んだら天国に行ったり地獄に堕ちたりとかではないんですか?」

 雉羽は頷きながら

「はい。一般的には成界で死んだ者は栖界に魂が戻り,栖界の赤子に所謂転生をします。逆もまた然り,栖界で死んだ者は成界の赤子へと転生します。これを繰り返しているのです。一般的な漫画やアニメと違うところは,転生する際記憶や生前持っていた体の特徴は全て無くなります。魂はつまり,生きるための回路の様なものなのです」

 狩魔は初めて聞く世界の在り方を受け入れようとしていたが,一つ大きな違和感があった。ではなぜ俺は記憶を持ち,前世の肉体を持ったまま栖界へこれたのか。

 狩魔の疑念を察したのか,雉羽は話を続けた。

「これが一般的な魂の廻り方ですが,例外もあります。一つ,死んだ者が神力を持った者であること。二つ,特殊な神力での干渉を受けた者。三つ,自殺をした者。そして狩魔様は一つ目の例でございますね。神力をお持ちであるから乱...」

「いや待ってください」とここまで聞いて我慢できなくなってしまった。あの紫髪も言っていたこと...

「俺に神力というものがあるとは思えません。今までずっと平凡な生活をしてきていたんです。神力なんか今まで一度も使ったこともないです。なんで俺がそんなものを持ってるなんて...」

 すると,雉羽の表情がわずかに曇った。

「神力を持つ者が死ぬと普通は記憶や肉体がそのままで成界や栖界に転移します。これは問題ないのですが,例えば先ほど申しました特殊な神力や神が他に力を与える為の「社」に何らかの...バグとでも言いましょうか...が起こると神力が持ち主が離れて他の者に移ってしまったり,本来持つはずでなかった者に神力を付与してしまったり,記憶や肉体の情報が消えて魂に神力だけがついたままで赤子に転生したりすることが稀に起こるのです」

 聞けば聞くほど狩魔は自分の運の無さに呆れていた。それさえなければ今頃平穏で普通の人生を送れていたのに何で...。気が付くと狩魔の瞳から涙が零れ落ちていた。情けないと思いつつもほろほろと流れる雫はどうしても止められなかった。

 すると傍に歩いていた雉羽がゆっくりと口を開いた。

「魂と神力をどうこうする神力は滅多にないうえに悪用する者も限られますし,社のバグは社に何かない限り起こりえません。しかし,神力を悪用し,栖界と成界を脅かそうとする者は一定数います。祖奴らが恐らく狩魔様に神力を付与される状況を作り出した可能性があります。狩魔様が何の神力をお持ちか分からないので何とも言いかねますが...」

 そこまで言うと雉羽は目尻をニヤリと曲げた。

「我々神従鬼は死亡した者を神従鬼にするための案内や,神力を持った者を殺害して庇護下におく仕事,そして両世界の平和を乱す鬼...厄鬼を殺害する仕事があります。幸運にも狩魔様が神従鬼として神に任命されれば,狩魔様に神力がある原因となった厄鬼が見つけ出し,神力と魂を切り離す手立てが見つかるかもしれません。我々もこれ以上の神力持ちの人間を殺す仕事を減らすためにもそれを探しているんですよ。ぜひ私達と一丸となり神従鬼として戦う事をご検討ください。ああもう帝社に着いてしまいましたね。それでは狩魔様,ご武運を」








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