5 片思い
キーンコーンカーンコーン…
「誠っ、一緒に帰ろ!…あ、あとね、お兄ちゃんが新しいゲーム買ったから今日遊びに来いって言ってたよ」
「ゆず!マジかー行きたかったー。ごめん、今日は無理なんだ」
誠はゆずという女子生徒の話を聞いて悔しそうに答える。由美子と話す時とは違ってフランクな話し方である。
「そっか…じゃあ今度また来なよ」
ゆずと呼ばれた女子生徒は、少し寂しそうな表情で、そう返す。
「うん、いくいくー!」
誠はゆずに対し笑顔で答えると、クラスメイトの男子が冷やかしてきた。
ヒュー、ヒュー♪
「アツアツだねぇ、見せつけやがって!」
「今日も一緒に下校すんの?お前らもう付き合っちゃえよ!」
「うるせー!そーゆーのじゃないし!友達だっての!ったく!お前らヒマだなぁ」
誠はウザったそうにクラスメイトに言い返す。ゆずはそんな誠を見つめると、俯いた。
〜帰り道〜
「誠、私達明日日直じゃない?一緒に早めに学校行かない?」
「あー、ごめん、ゆず。朝はいつも一緒に行ってる人がいるから…」
「ああそっか、あの近所のお姉さんと一緒に行ってるんだっけ?」
小学生のとき、2 3回会った事があるっけ…あれ?でもあの人…
「ねぇ、あのお姉さんって、もう社会人になったんじゃなかった…?」
「そうだけど…俺が毎日会いたいからさ」
ドキン、とゆずは嫌な胸騒ぎがした。
「っ毎、日、会いたい、って…?」
緊張で、上手く口が回らない。
「……まぁ、ゆずになら言ってもいいか。」
ゆずの問いかけを聞いた誠は少し考えてから答えた。
「俺、小さい頃からそのお姉さんに片思いしてるんだ」
「……、そ、う、なんだ…」
「?ゆず…どうした?なんか…、顔色悪くない…?」
ゆずの顔色が変わったのに気づいた誠は、心配そうに顔を覗き込んだ。
「俺の話なんかしてる場合じゃなかったね、大丈夫?気づかなくてごめん、家まで送ろうか?」
「…うぅん、大丈夫!私、体調悪くないよ?」
「…そう…?気のせいか」
「心配ありがとう!
用事あるんでしょ?私ここ右だから、バイバイだね。じゃあ、また明日ね」
「うん、また明日!」
小走りをして角を曲がると、ゆずは歩みを止めた。
…誠に、好きな人が居たなんて…小学校から近くにいたのに気づかなかった…出会いなんて学校以外でもあるよね。どうして、学校内だけって思ってたんだろ…。
あんな顔して好きな人の事は話すんだ…片思いの相手が自分以外って結構キツイな…
小さい頃っていつから?
早く想いを伝えていたら変わっていた?
あぁ…後悔が溢れ出す…。
下向きな気持ちを振り払うようにゆずは首を左右に振った。
弱気になるなゆず!
片思いって事はまだ間に合うはず!
だって好きだし…諦めたくないよ!
私…、今まで学校の女子で一番誠と仲が良いからって自惚れてた。
まずは意識してもらえるように頑張らなくちゃ。
社会人のお姉さんなんかに負けないんだから…!!
〜〜〜
…はっくしゅ!!
「…また十条さんが私のこと貶してるのかな。」
社内でデスクワーク中にくしゃみをした由美子は、ムスッとしながら呟いた。
十条さんていえば…あの人の言葉にカッとして、つい合コン参加を決めちゃったけど…軽率だったなぁ。
ホントはそういうの苦手だし行きたくない…。
あぁ、というか明日、また誠くん来るよなぁ…。どうしたら、私のこと諦めてくれるんだろう…。
由美子は心のなかで大きなため息をついた。