007.VS金属性
「──《アクセル》!」
「──《メタルボール》」
両者の魔法宣言が同時に行われる。
僕はいつもの“時が速くなる魔法”を自分に。
先輩はそんな僕に金属の球体をぶつけようとしていた。それを加速した時の中で何とか避ける。流石に速いな。グリやフルールとは訳が違う。
「《メタルレイン》」
僕が避けている間に先輩は新たに魔法を構築。先輩の手のひらから上空へと向けて、円錐状の金属の塊が放たれる。
それは空中で分散し小さな粒となると、重力に逆らうこと無く僕の方へと降ってきた。
「《ディレイ》っ!」
小さな金属の雨に向かいディレイを放ち、速度を落として右へ跳ぶ。
地面を見れば無数の小さな穴が空いている。額から一筋の汗が流れるのが分かった。
「《メタルアロー》」
その間にも先輩が攻撃の手を緩めることは無い。すぐさま次の魔法を構築すると、僕目掛けて放つ。
「はぁ!? 《ディレイ》!」
僕は悲鳴を上げながらも鉄の矢を《ディレイ》で遅くし、右に避ける。
が、その行動を予測してたかの様に、左右に鉄の塊が飛んでくる。
「《ディレイ》っ!」
鉄の塊を遅くし、更に右に避ける。チッと音がし、鉄の塊が左頬を掠めた。やっぱり無理があったか。
「あなたはそれしか使えないの?」
心底不思議そうな瞳で問いかける先輩に僕の胸が高鳴る。端的に言ってムカつく。
「先輩こそ同じ魔法しか使ってないじゃないですか」
「……それもそうね」
先輩だって《メタル》の形状を変化させただけの……いわゆる形成魔法しか使っていない。分類上は全て同じ魔法だ。
それよりも、先輩が隙を見せたのでそのまま突撃する。速さならこちらが上だ。
しかし、その隙は作られたものであったらしい。こちらに対応するように両手を左右に突き出す。正面からは来ないという読みか。当たってるよくそっ。
「《メタルスタンプ・火撃》」
聞いた事のない魔法。警戒を強める。名前からして潰すタイプ……なら!
「《アクセル・モデラート》!」
僕の速度が元に戻った。《モデラート》は速度を元に戻す魔法だ。変に解除するよりはこっちの方が速い。そしてタイミングが合わなければ、押し潰されることは無い。
果たして、両手から突き出された金属の柱は、近くの木にぶち当たり、そして。
木の幹から炎が上がった。
「はぁ!?」
驚愕。
ありえないだろ。この人別属性の魔法使ったぞ。先輩はどう見たって“金属性”で、今発生した現象は、どう見ても“火属性”だ。
「何を驚いているの?」
そりゃあ驚くだろう。別属性の魔法を使うだなんて、“無の大魔道士”か、そうでなかったら“風の大魔道士”の扱う魔法陣くらいしか……?
「《メタルスタンプ・地撃》」
「《ディレイ・ラルゴ》!」
次は地属性。《ラルゴ》によってゆっくりと僕の付近の地面に叩きつけられたソレによって、地面が炸裂する。
しかし、こんどは捉えたぞ。
「なるほど……魔法陣」
《ディレイ》で遅くして金属の表面がくっきり見えた事で気づけた。あの幾何学的な文様には見覚えがある。それはリーベルト先生が見せた魔法陣のそれに良く似ていた。
「ふうん。初見で気付く人あんまりいないよ」
「褒められてる気がしないですね……っ!」
別に褒めてないし、なんて言いながら再びのスタンプ。地面が炸裂し、足元が覚束なくなる。
気付けはしたけれど、どう対処すればいいのか。そもそもただでさえ複雑な魔法陣を魔法で再現だなんて、常人にそんなこと可能なのか?そんな思考は切り捨て、目の前の相手に集中する。
「《アクセル・プレスト》!」
再び速く、こんどは3倍速まで速度を引き上げる。そして広場を出て、森の中へと逃げ込んだ。
「なっ」
「フィールドの指定はしてなかったですよね!」
3倍速で紡がれたその言葉が先輩へ伝わったかは定かでは無い。でも、ルールにないんだからやってもいいだろ。文句は受け付けない。
「ちっ。《メタルキャノン》」
舌打ちと共に放たれた巨大な金属の砲撃によって木々がなぎ倒され、そして巻きもどるかのように元に戻る。“空の大魔道士”の空間固定魔法によって、形を変えた地形は自然に元に戻っていくのだ。
だが、巻き戻る直前に僕を目で捉えた先輩が魔法を行使する。
「《マグネティク・エンチャント》、《メタルアロー》」
何か二つ魔法を唱えたはずだが、こちらに声は届かない。というか届いてもおそらく遅すぎて聞き取れないだろう。
とにかく避けなければ。既に元の配置に戻った木々の隙間を縫うように真っ直ぐに飛んでくる金属の矢を、木の枝に跳んで掴まるようにして避けた。はずだった。
《アラート》。
なんだ。どこだ。
何かが起こる。
何かが分からない。
《ディレイ》を──
「──あがっ!?」
顎に強い衝撃。
痛い。
なんでだ。
矢が曲がった?
金属に起動を曲げる特性はないはずだ。
ぐるぐると思考が巡り、動きが鈍る。
「はい、おしまい」
気づけば、間近まで迫っていた先輩が、人差し指を僕の眉間に当てていた。
……僕の負けだ。
魔力消費の多い《アクセル・プレスト》を使ったことで既に魔力も限界に近い。魔法を解除し、両手を上に挙げる。
「……参考までに、最後は何が?」
「貴方に教える義理はない……と言いたいところだけど、教えてあげる」
先輩が指を眉間から離す。
先輩の話では、《マグネティク・エンチャント》という“磁力を付与する魔法”を《メタルアロー》に使用し、僕に向けて放つことによって誘引したらしい。
「でも、僕は金属なんて身につけてないはずですけど……」
「貴方の左頬に付けておいた」
そう言われて左頬を触ると、確かに極小の金属の感触があった。一体どこで……一度が左頬を掠ったあの時か。初めの方から既に布石を打っていた、という訳だ。
「なるほど……完敗ですね」
上級生との差は大きいとは思っていたが、これ程か。手の内を隠すために、意図的に《アクセル》と《ディレイ》しか使わなかったとはいえ、負けるのはやっぱり悔しい。
「でも、時属性の貴方なら、他に戦いようはあったはずでしょう」
先輩が言いたいのは“時を止める魔法”なんかをなぜ使わないのか、という意味だろう。同じ最高位魔法の“時を戻す魔法”なんかとは違って、“時を止める魔法”は魔力さえあれば簡単に使える魔法……だと歴史書に書かれていた。僕魔力ないけど。
まぁ使えないのは黙っておこう。
「ていうか、僕が時属性であることに驚かないんですね」
水色と青色で魔力の色が似ていることから、初見の人は大体“水属性”と勘違いするんだけど。グリもフルールも最初は驚いていたし。
「リーベルト先生から一通りの特異属性についても学んでいるし。どんな魔法を使うかも、大体頭に入れてる」
リーベルト先生か。確かに“風の大魔道士”なら特異属性にも精通してるだろう。というか特異属性の試験官だったし、問題を考えているのも多分あの人なんだろう。
それにしても、対応が手馴れていた。たしかに、いくら避けるのが速くても追跡されれば関係は無い。来るのが分かっていれば避け続ければいいんだろうけど、初見だったというのも大きい。最良のタイミングで使われたからこそ、最大の結果を出された。
ああ、悔しいなぁ。
「はぁ、先輩方ってこんな強いひとばっかなんですか」
「私が2年で1番賢くて1番強いだけ。リーベルト先生の弟子も私だけ」
なるほど。最大値が相手だったのか。それでも2年生か。3年生はもっとすごいのだろうか。
「3年生でも、私より強いのは生徒会長くらい。あとは全員雑魚よ」
僕の思考を読んだようにそう答えた先輩は、ふん、と鼻を鳴らした。言い切るなぁ。すごい自身だ。
「貴方がまだ手の内を隠しているのは分かってる。次は全部引き出してあげるから」
「……そんな大層なものはありませんけどね」
言うだけ言って満足したのか、先輩は倒れ込む僕を放置してその場を後にした。
……あれ、勝った方が広場使っていいみたいな感じじゃなかったっけ。そんなことをぼんやりと考えながら、僕の意識はブラックアウトした。
次は負けない。
今回の1行まとめ:上級生に負けた
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