006.大会ルール確認と会場下見
結局グリもフルールも合格だったらしい。
この時ばかりは僕も2人と一緒に喜びを分かちあった。
特にフルールの喜びようは凄かった。踊り狂って呼吸困難になっていたので、自分自身に“心を落ち着かせる”魔法を掛けさせたら今度は泣き出すし、本当に情緒不安定だった。
「クオン君!! グリ君!! おはよう!!!!」
うん、次の日になってもまだ凄そうだった。朝っぱらからとってもうるさい。
今日はそのまま魔法学園に集合した。
なんでも、入学式前に先に寮があてがわれるので、その手続きがあるという。
学び舎から少し外れたところに寮はあった。かなり綺麗な外装で、正直僕とグリが泊まっていた宿なんかよりずっと清潔そうだ。フルールの屋敷にも劣らない。まぁ、主に貴族が住むんだからそりゃそうか。
寮は男子棟、女子棟、管理人棟のみっつに別れていた。僕達は管理人棟で入寮の手続きを済ませ、それぞれ自分達の部屋へと向かった。
部屋は2人部屋だ。つまりこれから2人で共同生活していかなくてはならない。そりの合わない人じゃ無ければいいんだけど。
自室の扉を開けると、ルームメイトは既に入室しているようだった。
「クオンです。これから4年間、よろしくお願いしますね」
「シラビだ。こちらこそ、よろしく頼むよ」
金色の瞳。グリと同じ気属性か。
メガネを掛けた優しそうな風貌の普通の人……と言いたいところだけど、ひとつだけ大きな特徴が。
丸坊主だ。というか髪の毛が一切ない。つるつるだ。こんな人初めて見た。相手の目を見ようとしても、ちらちらと視線が頭に移ってしまう。
「気になるかい?」
「いえ、気にしないようにします」
「はは、そうして貰えると助かるな」
あとは二言三言交わして、彼との会話はこんなものだった。朗らかで気さくな良い人なんだろうが、それだけだ。聞いてみたところ《マギ・アゴナス》にも出る気は無いようだし、とくに気にかけることも無いだろう。
◇
寮が宛てがわれたということは、僕はもう学園の生徒だということだ。大会が行われるのは夏。あまり時間が無い。すぐに行動を起こすべきだろう。
というわけで、僕は一人で図書館へと向かった。《マギ・アゴナス》についての資料が無いか探す為だ。
メノラトスの魔法学園の図書館はかなり大きかった。ありとあらゆる様々な知識がこの場所には詰め込まれている。普通の人では閲覧不可の禁書庫なんかもあるらしい。
そんな広すぎる図書館から、目当ての資料を探すのは骨が折れるだろう。
というわけで、大きな魔女帽を被り、カウンターに突っ伏して、ぐでっと寝そべっている司書の女性に聞いてみることにした。
「すみません、ひとついいですか?」
「んあ〜……大会の資料はあっち。歴代の優勝者なんかが知りたいならそっち。あとは……時属性の資料はここにはないね。リーベルトが持ってんじゃないかな。んじゃおやす」
「なるほど、ありがとうございます」
まずは大会の資料からかな。僕は司書に示された場所に向かおうとして……違和感。
……僕なにか喋ったか?
確かに大会の資料や歴代優勝者の傾向なんかを知りたいと思っていたし、ついでに時属性の魔法の資料があればな、なんて思ったかもしれない。
だけど、それを声に出した記憶がない。
「顔に書いてあったんだよ。細かいこといちいち気にすんなよハゲるぞ。……えいっ」
……そうかもしれない。そんな気がしてきた。
まぁいいか。とりあえず向かおう。
◇
あらかた調べ終わった。
《マギ・アゴナス》は各学年において一定以上の成績を収めた者が、その参加資格を得ることが出来る。参加は任意で、毎年の参加人数は大体100名程度だ。
実際の内容としては、予選と本戦の二つに分かれている。
予選で参加者をある程度絞り、トーナメント形式の本戦にて優勝者を決定するのだ。
予選は参加者全員での星の奪い合いが行われる。
参加者には予めひとつ星型のシンボルが配られ、それを所定の数集めて、会場のどこかにあるモノリスに触れた者が本戦への出場権を得られる。
必要な星の数は参加者の人数によって決定される。参加者が多いほど、より多くの星を奪う必要があるのだ。
本戦については特筆すべき点はない。単純なトーナメント形式の決闘によって勝敗が決する。
そこまでを調べ、いろいろと作戦を組み立てていく。純粋な魔法の練度では上級生に適わないだろう。本戦よりは、予選であらかたの強い人を落とす必要がありそうだ。
と、ここで歴代の《マギ・アゴナス》の優勝者や本戦出場者のリストがあるコーナーへとたどり着く。そこには優勝トロフィーがズラーっと並んでおり、名前が刻まれている。
傍らにある資料を覗いてみる。どうやら、優勝者はそのほとんどが3年生であり、4年生もちらほら優勝を飾ってはいるが、そもそもあまり大会自体に出場していないらしい。
おそらくは就職活動に忙しくて、大会に出ている余裕がないのだろう。優勝賞品は魅力的だが、それを貰えるのが一人というのも、出場を渋る理由なのかもしれない。
しかし、一点だけ。
去年の優勝者は2年生、つまり今年の3年生だった。
名前は“スオル・メノラトス”。このメノラトス魔法学園を作った“空の大魔道士”の、血族。
去年優勝したということは、今年も出場するのなら優勝する可能性が高いだろう。警戒しておこう。
そこまで調べて、僕は図書館を後にした。
◇
《マギ・アゴナス》の予選会場へとやって来た。地理の把握は重要だろう。できることなら罠を貼ったりなんかの“仕込み”も考えたいところだったが、空の大魔道士による空間固定の魔法がかかっているらしく、会場に何かしらの影響を与えることは出来なかった。
会場は広い森になっている。木々が視界を遮るように立ち並んでおり、潜伏や奇襲を行いやすい地形になっている。まぁ、僕に奇襲は効かないけれど。
しばらく木々の配置を頭に入れるように森を散策する。広場の様な場所にたどり着いた。こういうところにモノリスが置かれるのだろうか。そういうのは上級生に聞いてみればわかるかな。
なんて考えていると、何者かの足音が聞こえてきた。
その方向に振り返ると、そこには1人の女性が居た。
瞳は銀色。“金属性”の色だ。
瞳と同じ銀の髪を肩まで伸ばしている。
メノラトス魔法学園の制服を着込んでいるということは、学園の生徒、つまり先輩なのだろう。
先輩はこちらを一瞥し、訝しげな瞳を向ける。
「あなた、ここの生徒じゃないでしょ」
「生徒ですよ。今年入学の」
まだ入学式も終えてないけど、受験に合格したんだから生徒のはずだ。とくに立ち入り禁止でもなかったし、ここに居ることも問題ないはず。
そんな僕の言葉に、先輩は、そう、と一言だけ呟き、話を続ける。
「大方会場の下見でもしてるんでしょうけど、そんなことしても無駄よ。毎年大会が始まる直前に会場の地形は変わるから」
先輩が吐き捨てるように言い放つ。なんだか語気が強い。あまり得意なタイプじゃないな。でも、教えてくれたのだから感謝はしておこう。
「……なるほど、親切にありがとうございます。クオンです。よろしくお願いしますね、先輩」
「貴方とよろしくするつもりは無いわ。邪魔だからさっさとどっかいってちょうだい」
はぁ?
思わず声に出そうになったが、グッと堪える。名乗りもしないのは流石に失礼じゃないだろうか。僕が平民だから舐められているのかな。この学園では貴族平民に限らず皆平等に接するっていうのが表向きのルールだったはずだけど……やっぱり実態はこんなもんか。しかし、ムカつくのはムカつく。
「それはあまりにも横暴では? そもそも先にこの場所に居たのは僕なんですけど」
「そんなこと関係ある?先輩の言うことには従っておきなさい」
なんだそれ。あくまでも貴族ではなく“先輩”を盾にするのか。ならこちらも対処のしようがある。
「可愛い後輩に場所を譲るとかないんですか。というか、僕は別に先輩に帰ってほしいなんて思ってませんし。居たければ居ればいいと思いますよ」
しばし沈黙。先輩が考えこむように首を傾け、やがてこちらに向き直る。
「なら、ここで勝負しましょう。負けた方は帰るってことで」
どうしてそうなった。後輩相手にそこまでするか。
どうしよう。正直会場の地形が毎回変わるなら、ここに居続ける意味もあんまりないんだけど。
「……いいでしょう。受けて立ちます」
だけどまぁ、上級生のレベルをこの時点で測れるのはありがたい。まさに渡りに船だ。勝てるとは思わないけど、闘ってみる価値は十分にあるだろう。
「逃げないことだけは褒めてあげる」
「はぁ、それはありがとうございます」
そう言って、先輩は《メタル》と金属性の基礎魔法を発動してコイン状の金属の塊を創り出した。
「これが落ちたら開始」
コインを上に弾く。
落ちる。
「──《アクセル》!!」
「──《メタルボール》」
今回の1行まとめ:寮の説明を受けて《マギ・アゴナス》のルール確認と会場の下見をした。
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