013.新入生歓迎会
昨日の優勝宣言、形成魔法も使えない僕が言うのってどうなんだろう。今更ながら少し恥ずかしくなってきた。
まぁ、優勝はするんだけど。
……じゃあいいか。自己解決だ。
さて、今日も午後の授業は魔法実技だ。テイラー先生に促され、全員整列する。
「今日はいよいよ新入生歓迎会だぞ」
新入生歓迎会……?
初めて聞くんだけど、聴き逃してたかな。
周りを見渡してもみんな困惑している様子だ。
「え、なんですかそれは」
「あれ、言ってなかったか……? まぁいい。第四修練場に集合だから行くぞー」
僕の言葉にとぼけて返すテイラー先生。この人やっぱり教師としてダメなのでは?
いやまぁ大体の想像はつくけどさ。要は上級生との交流会だろう。
道中で話されたテイラー先生の手短な説明によると、2年生と2人1組のペアになって気になっていることや学園での悩みなんかを話たりして交流を図る会だという。
……フェール先輩みたいな人とペアになったらやだなぁ。ていうかフェール先輩とペアになる人がいるのか。可哀想に。
なんて事を思いながら、会場へと歩を進めた。
◇
「えー、組み合わせはあらかじめこちらで決めているのでそれに従うこと。では順番に呼ぶから呼ばれたら来ーい」
修練場には既に2年生が揃っていた。どうやらクラス毎に別の修練場で交流会を行うらしく、第四修練場に1年生は僕らのクラス以外には居なかった。
テイラー先生によって次々に名前が呼ばれ、新入生と2年生のペアが完成していく。2人組になった彼らは修練場に散り散りになり、自己紹介などの交流を行っているようだった。
程なくして、というか1番最後に僕が呼ばれる。
必然的に最後まで残っていた先輩が僕と組むのだろう。
肩まで伸ばした黒髪に、泣きぼくろ。どこか大人っぽい印象を受ける。
そして青い目……“水属性”の青だな。昨日フェール先輩に言われた言葉を思い出す。水属性と時属性は同じ“流れる”ものだから似通っているという言葉だ。
ちょうど良かった。形成魔法について聞いてみよう。
「クオンです」
「ラック・シュトロームだよ。よろしくね、クオンくん」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
いい人そうだ。みんながみんなフェール先輩みたいな人じゃないんだな。まぁあんな人が何人もいてたまるかって感じではあるけど。
「フェールから話は聞いてるよ。生意気な新入生が入ってきたー、って」
「はぁ……?」
なんでここでフェール先輩が出てくるんだ。困惑する僕を見たラック先輩が首を傾げる。
「あれ、聞いてないの。フェールと私は友達なんだよ」
「えぇ……」
本当はいい人じゃないのかもしれない。
もの凄く失礼な言葉が頭を掠める。
だってフェール先輩の友達だよ。てかあの人友達いたんだ。……これ凄い失礼だな。
まぁいいか。
「フェールってちょっと当たりが強いからさ、私以外に仲良くしてくれる人が居て嬉しいな」
「ちょっと……? かなり当たりが強いような……」
「そう? でもそんなところも可愛いよねぇ」
あぁ、ダメな人だ。にこにことフェール先輩について語るラック先輩を白い目で見る。気づいてないようだ。
その後も少し話をしたが、どうやらフェール先輩とはかなり仲がいいらしいけど、ラック先輩については普通にいい人そうだ。世の中には不思議な人もいるんだなぁ。
「っと、ごめんごめん、ちょっと話過ぎちゃったね」
「いえ、先輩は話しやすいのでこっちもついつい話が弾みますね」
これは本音だ。
上級貴族の息女であるらしいけど、それなのに平民の僕にも気さくに接してくれるのはかなり特殊な人だと思う。普通はどうしても貴族としての振る舞いをしてしまうはずだし。
「ふふ、だったら嬉しいな。でね、この催しは毎年行われてて、授業で分からないこととか最近の悩みとか聞いてたげたりとかするんだけど……どうかな。学園は楽しい?」
「そうですね……楽しい、とは違いますけど、充実はしてます」
楽しんでる余裕はあまりないけど、日々学ぶことの多さに充実した日々を送っている。僕の扱う魔法は良くも悪くも我流だったから、体系化された魔法の知識が入るのはそれだけで練度の底上げになる。
「うんうん。私は去年のこの時期まだ学園に全然慣れなくてさ。でもフェールが色々引っ張ってくれて……」
「それより、1つ質問があるんですけどいいですか?」
「うん? なにかな」
またフェール先輩の話が飛び出しそうだったので軌道修正する。気づいたら結構時間が経っていたし、そろそろ本題に入りたい。
フェール先輩の時みたいに形成魔法を教えてと言っても相手が困るだろうから……あと恥ずかしいから。
「水属性の形成魔法ってどういうイメージで作ってます?」
よし、シンプルに聞いてみよう。イメージさえ掴めれば発動はわけないはず。魔法はとにかくイメージが大事だから。
僕の言葉に、うーんと唸り出すラック先輩。
「そうだねぇ、もう無意識に使っちゃってるからなぁ……うーん、ボールの形になるように水が流れてるイメージ、かなぁ」
「なるほど……」
フェール先輩も言っていた通り、水属性も時属性も同じ“流れる”ものであるならば、形成魔法を作る際には同じ考え方ができる。
となると、“時”がボール状になるように流れる……?ダメださっぱりわからない。
そもそもの話、時は流れを視認出来るわけじゃないし、こちらからの干渉で物理的に流れを変えることが出来る訳でもない。
仕方ないので素直に形成魔法が使えないことを伝えてみる。ついでに時属性であることも。
「えぇ、時属性……初めてみた。すごいなぁ、この眼が特異属性の色かぁ……」
まじまじと僕の瞳を見つめるラック先輩。必然的に見つめ合うことになって頬が赤くなる。
「ふふ、赤くなって可愛いね〜」
「からかわないでくださいよ……それより、時の流れのイメージって何か思いつきますかね。何かきっかけさえあれば閃きそうではあるんですよね」
「時の流れかぁ……時計なんかはどう? イメージしやすいんじゃないかな」
時計、時計かぁ。時関連で“目に見えるもの”といえばやっぱり時計だけど、どうにも上手くいく感じがしない。
でもまぁやってみよう。えーと、時計……1日を再現するイメージで……。
「タイムボール」
唱えてみるが、平べったい円状の魔力が放出されただけだった。魔法としても見なされなかったようで、力の籠った“呪文”にすらならない。
「うーん、ダメですね」
「いや、それでも円状にはなったんだから、考え方は間違ってないってことだよ。今度はこれを球に出来るようにイメージしてみて」
円を球に……円の中心線を軸に時計がぐるっと回せばまぁ球になるよな。そんなイメージで時を循環させていく。
「……タイムボール」
「球にはなった! 今度はもっと“時の流れ”をイメージしながら同じ形を作ってみて」
時の流れ……そうだな。今いるこの場さえ、過去と比べたらまったく別の場所なんだ。そう考えれば、僕は今時の流れを感じられているような気分になる。
それを、循環させる。まるで時計のように。そして無数の時計が球を成すように。
「《タイムボール》」
今度は“呪文”として言葉に力が籠った感覚がある。
つまり魔法は発動したということだ。
果たして、僕の手のひらに球体となった時が出現した。
無数の時が、中心を軸にグルグルと循環している。イメージが難しい。少し気を逸らしたら、ボールの形が歪み、遂に解けて消えてしまった。
「成功!やったね!」
「結構あっさりできた……」
「考え方次第だからね。こんなものだよ」
「あとはこれを“壁”の形状にしたり“矢”の形状にしたりするイメージを持てれば、形成魔法はバッチリだよ。やってみて」
やってみてって……無茶言うなぁ。丸だから簡単だった訳なんだけど。
……いや、でも時計だって丸だけじゃない。色んな形があって、どれも時を刻むものとして機能している。
あとはもう感覚だ。一度ボールが使えた今、“そういうもの”だと強く意識すれば、きっと問題ないはずだ。
「ふぅ……《タイムアロー》」
“時の矢”が完成した。
「……えいっ」
また直ぐに消えそうだったので、今度は近くの木に放ってみた。が、何も起こらない。少し成長したりとかしてないかと思ったがそんなことも無い。あとで木属性の人に聞いたから間違いない。
「うんうん、掴んだね。これでもうあとは数をこなせば形成魔法にも慣れていくはずだよ」
「はい。とても参考になりました。ありがとうございました」
「ふふふ、先輩だからね。なんでも頼っていいんだよ」
優しく微笑む先輩が凄く頼もしく見える。
でも、やっぱり《タイム》がどんな魔法なのかはよく分からなかったなぁ。
ともあれ、できたものはできたので、そのままテイラー先生に形成魔法を見せに行く。無事に合格を貰えてほっと一息つくことができた。
「どうだった?」
「合格貰えました。成績も下げられずに済みそうです」
「よかったね。私もほっとした!」
なぜか先輩まで一緒になってほっと胸を撫で下ろす。一緒に喜んでくれるのは素直に嬉しい。
「っと、そろそろ時間ですね」
「えぇ、もうそんな時間かぁ。もっとお話したかったなぁ」
まぁ、別にこれで終わりって訳でもないし、また会うことは可能だろう。
「あ、最後にひとつだけ。ちょっとお節介かもしれないけど、怒らないで聞いてくれると嬉しいな」
他のペアの人達もまばらに解散を始めている中、ラック先輩が今日1番真剣な顔でこちらを見据える。
なんだろう。
「なんていうか、クオン君からはフェールと同じ様なものが見え隠れするんだよね」
それは……ちょっと嫌なんだけど。確かにそれは怒るかもしれにい。そういう意味ではないか。
「大事なことは一人で全部抱え込んで自分だけで何とかしようとする感じ……フェールはそれでも何とかしちゃうんだけど、普通の人はそれじゃ潰れちゃうから」
まぁ、フェール先輩みたいな人はそうだろうな。でも、僕も人に言えるようなことじゃないしなぁ。
ルポゼの呪い、そして寿命。その為に《マギ・アゴナス》を何としてでも優勝しなければならないこと。
こればかりはフルールやグリにも言うつもりは無い。
「あまりこんを詰めすぎたらだめだよ? ガス抜きも必要だからね。相談なら何時でも聞くから、先輩を頼るんだよ」
じゃあまたね、と手を振ってラック先輩は2年生の方に戻って行った。
最後まで良い人だったなぁ。合計2回も頼っていいと言われてしまった。そんなに1人で抱え込みそうに見えるのかな。
人を頼る、か。《リピート》も2人の力無しじゃ完成しなかっただろうしなぁ。
少し考えてみよう。
今回の1行まとめ:新入生歓迎会でラック先輩と知り合い、形成魔法について教えてもらった
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