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桜色の罪  作者: 小菅銀吉
8/10

桜は人の血を吸って桃色に染まるから。

「犯人に登場してもらいましょう。…タケミチさん?」

しん、と静まり返った広場に、その声はよく響いた。


「…カナデさんは優秀だね。」

従業員用の出入り口から、見覚えのある姿が出てくる。

きっちり着こなしたスーツ、赤いネクタイ。

死んだ叔父、タケミチだった。


「なっ…?!」

「生きていたのか!!」

叔父さん達が叫ぶ。

「種明かしです。

皆さん、あの桜の樹の上の死体、あれを本物だと確認できた人はいましたか?」

芝居がかった仕草で辺りを見回し、

「いないでしょう?

…なぜなら、高すぎるからです。死体を下ろして調べられないからです。あの時は辺りが暗く、死体がよく見えませんでした.血が本物だから、という理由で貴方たちはその死体がタケミチさんであると決めました。それこそが犯人…タケミチさんの狙っていたことだったのです。

皆さんの間でもこういう議論があったのではないですか?

『何故あんな高いところに』

成人男性の平均体重は62キロだそうです。

タケミチさんがそれより少し軽かろうが重かろうが、

それほどの体重の男性を高い木の上に登って、放置した。何故そんなことが出来たか。答えは簡単です。」

口を閉ざしたカナデに代わって、タケミチ叔父さん本人が口を開く。

「血は…俺は畜産関係の仕事をしているから、そういうのは簡単に手に入った。死体は、蝋人形。中身だけくり抜いた.友人に蝋人形作るのが得意なやつがいて、…作ってもらった。大雑把でよかったんだ。

 暗い夜、しかも死体とくればみんなまじまじと見ようなんてしない。桜の枝が覆い隠している中で、死体だとバレる確率は低かった。それに、最初さえバレなきゃ、後は皆死体を見ようともしない。カーテンを閉めて。」

…確かに。

俺たちは死体を見まい、とカーテンを閉めていた.

人の心理の裏をつかれた。


「…最初さえバレなきゃよかったんだ。」

そう言ってタケミチ叔父さんは力無く笑った。


「そういうことです。スマホは繋がるようだったので、ハセガワタケミチさんの名前で検索させていただきました。出てきたのは、募金を募る広告です。

…娘さんが珍しい病気に罹っていらっしゃるとか。

…貴方の犯行動機は、それですね?」


「ああ。…すまない。お前らも、本当は…ころ……。

…だが、こんなことをして手に入れたとして、娘がそれを許容するわけがないな。…すまない。」

騙された被害者側であるはずのミチル叔父さんも、カネコ叔母さんも、それを聞いて辛そうな顔をした。

そんな中、

「ああ、それと。」

カナデが言う。

「皆さんと話していてもう一つ、違う推理が思い浮かびました。先ほどよりこっちの推理の方が現実的です。…私の助手は、間違えて、割れた窓硝子の破片で腕を切ってしまったそうです。

私としては事件を疑いたいところなのですが、本人が否定したのでしょうがありませんね。

木の上の死体は.…桜が見せた幻覚でしょう。

だって桜は、人の血を吸って桃色に染まるのですから。」

ぽかん、とした様子の俺たちを見渡して、探偵は満足そうに微笑んだ。

「タケミチさん、お疑いして申し訳ありませんでした。…そのお詫びとして、一つ忠告させていただきます。『正義のための犯罪』は、自分を納得させるためだけの言葉で、自己満足です。何のためであろうが、犯罪は犯罪です。」


そこまで言ってから、カナデは一つ息を吐いた。

それから、満開の桜のような笑顔で、言った。

「これにて推理遊戯は終了です。いつかまた、お会いいたしましょう?」

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