紅と死の真相
あの時、俺は嘘をついた。
探偵の出血量は多く、尋常な量じゃなかった。
…でも、あの時。
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俺は探偵に近寄った。
探偵が、薄らと目を開けた。
腹を抑えていた、血に塗れた腕をこちらに伸ばす。そして、何かを言いかけて…
ぱたっ、とその腕が血溜まりに没した。
探偵の身体が一度、小さく痙攣した。
慌てて腕を取り、脈拍をとった。
…脈拍はなかった。
「…くそっ!」
地面を叩いた。犯人に対する唯一の切り札が喪われた以上、これ以上殺人が続く場合、もう殺人を阻止することなどできない。
「…どうすれば…」
「こうすれば良いんです。」
そう、突然声が聞こえて。
「…探偵が、生き返る。」
目の前で探偵が、「よっこらせ」と上体を起こした。
「え?…はぁっ?!」
お前さっき脈拍なかったよな?血も致死量ギリギリまで出てるよな?さっき…死んだよな?
状況の飲み込めない俺に、探偵は
「…まずは手当してください。…話はそれからです。」
そう言って探偵は、ナイフで刺されたような深い傷のある腕を見せて微笑んだ。
…俺は拙いなりに傷口をできる限り止血し、手当を終えてから、俺は探偵に説明を求めた。
彼曰く、
「あの子に被害が及ぶのは避けたかったので動かないように指示しました。
その後、入ってきた犯人はナイフを持っていました.所謂、口封じですね。やろうと思えば逆にこちらが排除することもできたんですけどね。」
探偵はさらっと言った。
「え?」
俺は探偵の顔を見た。探偵の目も俺を見た.
怖い、と思った。
『排除する』……そう呟いた彼の顔は当たり前のことをそのまま言っただけ、と言うような顔だった。
探偵はそんな俺に気づいたのか気づいてないのか、話を続けた。
「もし僕が殺せなかったら、犯人が次に狙うのは和十です。だから、僕は死ぬ必要があった。暗い中襲い掛かってきたので、ナイフは出鱈目に僕の腕に突き刺さりました。あっ、ついでに窓もその時割れました。花菱さんに謝っといてください。」
「うん、どーでもいいから続けろ。」
「犯人は僕が胸を刺されて死んだと思っていたのか、その後すぐ逃げていきました。…僕なら絶対、とどめを刺すまでは油断しないのに。
僕は、その状況を逆に利用し、死んだふりをしました。幸い、血は本物だし、上腕部をきつく縛って脈拍をないように見せて…君の叔父さん方を騙すため。」
ほらね、と探偵が紐を見せる。
よく見たら,窓のカーテンを止めておく紐だった。
まあ、貴方が1番の難関でした。あ、でも結構痛いです怪我。頭が失血でグラグラしてますし、ホンネを言うと、もうしたくないですね。」
「俺が難関…?てか、なんで騙す必要があるんだ?」
「死んだと親族の皆さんにも思わせるには、医療関係者の誰かにそう思わせる。
…本当の犯人が叔父さん達の中にいた場合のためです。…だから、これが1番の方法です。」
その内容を3回脳内で繰り返して、それでようやく理解した。でも一つ、引っかかったことがある。
「なぁ、探偵。…お前は探偵じゃないのか?」
こいつはさっき、
『本当の犯人が叔父さん達の中にいた場合』
と言った。つまり、こいつは
「まだ誰が犯人か分からない」と言うことになる.
「根拠は?」
探偵は静かに笑っている。
「…和十のさっきのセリフ」
『まだ言うなって言ったろ!!』
あの台詞が、「和十が本物の探偵だから出た」としたら。
こいつは、探偵ではない。
「はい。…僕は、探偵助手です。よく気づきましたね。」
腕の傷は相当痛むはずなのに、探偵は妙にへらへらとしている。
「和十は、状況を理解してると思います。僕が生きてることも、犯人も。僕は動けません。死体だから。いなくなったら、怪しまれます。それに、和十はああ見えて僕が指を切っただけで包帯を持ってくるような子なので、僕がこんな怪我をしたらそれこそ怒りますよ。」
そして、俺にこう言った。
「怒った時のあの子は、無敵です。だから、協力してください。」
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俺は、探偵に言われた通り、アリバイを叔父さん達から聞き出し、それを「本物の探偵である」和十に伝えた。和十はそれから推理した。
そうして、この推理の舞台が完成した。
「さぁ、みなさん。クライマックスです。」
カナデが宣言する。
「犯人に登場してもらいましょう…タケミチさん?」