Detective!
翌朝、皆が食事をするために集まった食堂は、水を打ったように静かだった。
かちゃ、かちゃと食器を擦り合わせる音だけが響いていた。
和十は肉を小さくナイフで切って、そしてそれを突き回している。一口も食べた様子はない。
俺もあまり食欲が湧かなかった。
無理矢理口に押し込んで、事務的に片付けていた。
十数分もそんな沈黙が続き、ぼそっと、誰かが呟いた。
「…俺達、皆死ぬのかな?」
「…そんなことないわよ。…多分。」
…そろそろ、頃合いか。
俺は立ち上がった。
名を、呼ぶ。
「和十。…謎解きの時間だ。」
和十がぱん!と手を叩いた。
一昨日の昼、ソウがそうしたように。
みんなの目線を浴びて、和十は、にっと「笑った」。そして、言う。
「まず、俺はみんなに謝んなきゃならねぇな。」
和十は、その目立つ茶髪の髪に手をかけて、一気に、剥がし取った。
茶髪のかつらの下から現れたのは、肩まで届く、黒髪。
華麗に、優雅とまで思える仕草で一礼する。
その顔つきは、少年のものから、あどけなさを残す少女のものへと変わっていた。
少女は手の平を俺達に見せるように掲げると、人差し指を残して握る.
「はじめまして、みなさん。私は皆さんに三つ、嘘をつきました。まず、私の名前は村木和十ではありません。私の名前は、謝岩奏。謝るに岩、奏でると書いてしゃがんかなで、です。さっきまで男装してました。中々上手かったでしょう?」
和十が…カナデが二本、指を立てる.
「そして、二つ目。私は探偵助手ではありません。私は探偵です。ソウは…本当の「村木和十」こそが探偵助手。私達は役職を取り替えたのです。全ては犯人を騙すため、そして殺人を阻止するためです。」
「殺人を阻止?もう起こってる、遅すぎなんだ!!!」
ポカンとしていたミチル叔父さんが、その言葉に異常に反応して、苛立ちまぎれに言う。
「いいえ、寧ろ、早すぎます。」
指を唇にあて、カナデが微笑む。
「そして、三つ目。彼は死んではいません。
…きて。「ワト」。」
かつて、自分が名乗っていた名前を、本当の名前の持ち主に返すが如く、カナデが呼ぶ。
きいっ、と食堂の扉が軋みながら開いて、
その奥に、探偵を名乗った青年が立っていた。
飄々とした笑み。
前と違うのは彼の右腕に包帯が巻かれていることくらいだろうか。
「!!!」
目を見開く、俺とカナデ以外の人間。
青年…ワトが、カナデの隣に立つ。
そして、告げる。
「はじめまして。探偵助手のワトです。」
ワトがにっこりと笑った。
瞳に氷のような冷たさをたたえて。