答え合わせ
教師「はい、そこまで! 鉛筆を置いて!」
静かだった教室に声が響いた
ケイタ「ふぅーーー」
俺は大きく息を吐くと同時に、背もたれに体を預けた。
梅雨が明けて、カラっとした晴天。 少しだけ涼しい風が窓から入ってきたが、
額には汗が滲んでいた。 30分?ぐらいは経った気がした。
ほぼ丸刈りに近い頭を掻き、額の汗を腕で拭った。
今日の数学の小テストは、計算問題と簡単な文章問題の繰り返しだった
所要時間も告げられず、トレーニングだと教師は声を荒げた。
数学教科担当で担任でもあるこの教師はクラス全体の学力を嘆いていたのかもしれない。
意外と簡単な問題もあったが、量がハンパなかった。
途中まで気を良くして解いていたが、謎のタイミングで残り5分の通告。
その時点で全体の半分にも満たない回答数・・・。
元々汚い字はさらに乱れ、少し汗ばんだために、
答案用紙にシワが入ってしまっている。
序盤に力が入り、筆圧によって用紙はボコボコ。
テストとなると力み過ぎるのは悪い癖かもしれない。
俺はケイタ 中学校3年、バスケ部。 ポジションはガード、運動は得意。
バスケ部の練習以外にも朝にはランニングを欠かさないし、
自宅での筋トレも毎日やっている。
体育館の競技なのに、年中日焼けしているような俺。
中々伸びないのは身長と、成績。
もっとも身長は伸ばす気満々で、毎日牛乳と小魚を取っているし、
最近はプロテインも飲み始めた。
勉強は、まぁ・・・それなりに。
このテストはどうなるのか、成績も少し気になりだした今日この頃。
教師「今解いた問題の内容自体は、普通の中学3年ならば簡単な計算問題ばかりだったな?それを「どれだけ多く、正確に解けたのか?」が、今回の小テストの狙いだ!」
先生はニヤリと得意げな顔で声を張り上げた
生徒A「えーーなんだよそれ、どうりで問題数が多すぎると思った」
生徒B「全然解けてないし! 一問一問 確かめちゃった・・・・」
ほとんどの生徒が苦戦していたようだ
そんな声を聞いて少し安心した。
中には動じない強者もいるようだが、こんなの本当にテストか、とすら思える。
ケイタ(なんてテストだよ、意地悪過ぎるだろ? 最初に言ってくれたらもっとちゃんとやったのに・・・)
と心にもない事を考えてた。
ナツキ「ケイタ! 面白いテストだね、これ めちゃくちゃ性格とか出るやつじゃん」
隣の席のナツキが小さな声で囁くように言った。
寄り添う彼女の肩が少し二の腕辺りに少し触れた
ナツキは女子バスケ部のキャプテン。
身長も俺と同じぐらいで165㎝はあるし、運動神経も抜群。
同じバスケ部、練習仲間って事ぐらいで、これまでバスケ以外の接点は無かったけど、
3年生になって同じクラスになり、席が隣りになった間柄。
・・・と言う距離感の俺が、人生で一番好きになった子。
バスケ部に入部した頃からずっと、可愛いなーって思っていた。
田舎にはよくある事だが、去年先輩達が引退して、練習相手不足になり、
男女合同練習が行われるようになってからは、ドンドン好きになっていった。
これまで好きな子が出来た事はあったけど、「初恋」とはこれの事を言うのだろう
ケイタ「なんだよ?! 俺は真面目で純粋な性格だから、正解率が高くて、回答数は少ないんだよ」
肩がヒジに触れている事を意識せずに、その体温だけを少し感じながら、
前を向いたまま、俺はそう返した。
ナツキ「そうなの? 必死に解いてるクセに正解も、回答数も少ない、ざんねーーーんなタイプかと」
そう言ってナツキはこちらの顔を軽くのぞき込み、笑いかけてきた
目線だけをそちらに向けると、ショートカットで黒髪を耳に掛ける仕草が、絶妙に男心をくすぐってきた。
ケイタ「そういうお前の方こそ、給食とか・・・えーっとアイドルとかの事ばっかり考えて、大して解けてないんだろう?」
ちょっと噛みそうになりながら、そう答えると
ナツキ「考えないし♪ そんなの」
と余裕な顔をして前を向く
ケイタ「あ、問題解いてる俺に見惚れて、テストそのものが手につかなかったとか?」
体をナツキ側に向けて、指をさして、ズバリ!言ってやった(笑)
ナツキ「あ・・・それは無い」
ナツキはつーんと上を向いて、冷徹表情を浮かべている
横顔を見ると整った顔と鼻筋が際立つ。
ナツキ「あ、でも!でもね?! 珍しく真面目に勉強してるなぁーって思ったかも?」
ナツキはまたこちらを向いて、無邪気に笑った。
教師「それじゃ、答え合わせするぞー! 隣同士 答案用紙を交換して!」
担任教師は、いつの間にか腕まくりをして教壇に手を付き、大きな声を張り上げた
生徒C「えーーー!交換するのかよーー」
生徒D「うわっ!それは無いって!先生!」
クラス全体がブーイングだ
そういう俺自身も、ナツキに勉強が苦手なのがバレるのは嫌かも
教師「グズグズするなー、遅いペアは公開するぞーー! お隣さんに自分がどうだったか知ってもらえーー!」
生徒E「最悪ーーー」
生徒F「そう来ますかーー先生」
悲鳴や愚痴を言いながらも、皆観念したように答案用紙を交換している。
ナツキ「楽しみですねーー、ケイタ選手の性格を拝見させて頂けるなんて(笑)」
ナツキまた笑顔とともに、自分の答案用紙をこちらに両方の手を添えて差し出してきた
スラリとした長い腕の内側はめちゃくちゃ白い。
ケイタ「お前の方こそ、どんな性格のヤツか俺が「答え合わせ」してやるよ?!」
俺も自分の答案用紙をナツキの机の上に置いて、ナツキの用紙を受け取った
ナツキ「ん?それ・・・どういう意味??
私の答案用紙からどういう性格か、っていうテストでしょ? 」
あ・・・まずいか? 知ってる前提で喋ってしまった!!
・・・俺は知っている。
ナツキはいつも真面目で、元気で、おせっかい。
バスケ部では後輩達はもちろん、同級生の事もいつも気に掛けてて・・・
試合に勝っても、負けても泣いてしまう所があって、責任感もあって。
で、去年卒業した男子バスケ部キャプテンだったユウヤ先輩が好きだった事も。
そんな好きな人の前では、赤くなったり、小声になったりする事も。
「知ってるよ? 大女で、男子を蹴散らす怖いもの知らずだってね」
・・・危ない危ない
いつものイジリ調子でなんとか誤魔化せたかな
ナツキ「うわー!ヒドイ言い様ですね、ケイタ選手!
そういう自分は凄い答案用紙になっているんでしょうネ?」
ナツキは軽くヒジを腕にぶつけてきた。
「痛っ! ファール!ファール!」
俺はナツキとのこんな感じのやり取りが好きだ。
教師「おい!そこ! 公開されて良いのか! 」
先生から注意を受けた
二人「すいません」「すいません」
調子に乗りすぎたようだ。
ナツキまで誤らせてしまった。
すごすごとナツキの答案用紙と赤ペンを構える
「さてと、大荒れ女の書いた答えはーーーっと」
そう言いながら答案用紙に目を向けると、俺は息を呑んだ・・・
ナツキの答案用紙はとてもキレイだった。
達筆で、細めの数字のキレイさはもちろん、筆圧、文字間、
定規を使って線でも引いたかのように整った列、消しゴムで消した跡が一つもない。
それでいて、回答数も・・・80まで答えてある。
窓から入る少しの風で、彼女の答案用紙は少しだけ浮き上がり、
差し込む陽の光で、彼女の答案用紙は俺に少し眩しく光った。
邪魔にならないように筆箱とシャープペンを机の端へと寄せ、
風に飛ばされないように、消しゴムを答案用紙の隅にそっと置いた。
答えが〇か×か、を見るよりも、彼女の答案用紙を上から眺め、
そして初めてじっくりと目にするナツキの答案用紙、その美しさに見惚れてしまっていた。
声「オイ!ケイタ! 早く取れって!」
声を聞いて我に返ると、前の席のヤツが「答え」が書かれた用紙を持って、
こちらを睨んでいる
ケイタ「・・・あぁ、 すまんすまん。」
慌てて俺はその用紙をナツキの答案用紙に重ならないように並べた。
ナツキ「何してるの? ちゃんと「答え合わせ」してよね?」
その様子を見てナツキは笑いかけてきた、
ナツキ「ケイタの答案用紙、なんかボコボコ・・・でも良いね、一生懸命やってるもんね。
うん・・・「答え合わせ」要らないかも」
ナツキは俺の答案用紙を手に持ち、書かれた文字を指でなぞるように触りながら、そう呟いた。
たまに恋愛モノが書きたくなり、
コメディー的なオチを思いつく事が良くあります。
この話も ナツキが赤ペンで 0点!!って書いて返して、
進研ゼ〇中学講座を始める・・・って話がベースでした。
なんとか踏み留まってよかった?