01 前世を思い出した
私の名はエルザ・バートレット。とある乙女ゲームの悪役令嬢だ。
この世界は、私が前世でプレイしていた乙女ゲームの世界。舞台は貴族の子供が通う学園だ。私はそこの3年生である。
乙女ゲームのヒロインはソフィア・グリーン。彼女もこの学園の3年生である。彼女は庶民として平和な村で暮らしていたが、ある日突然村に公爵が押しかけてくる。実はソフィアは公爵家の隠し子であり、公爵はソフィアを実の娘として引き取りに来たのだった。
そうして庶民から公爵令嬢になったソフィアはこの学園に入学するのだが、貴族としての作法もなにもないソフィアは学園では落第生であった。そのため貴族の娘たちは彼女を遠巻きにし、ひどい者は彼女に悪質な嫌がらせをしかける。
自分のいるべき場所はここじゃない、もうこんなところにいたくない、私の村に帰りたい——毎晩故郷を思い泣き濡れるソフィア。そんな彼女に攻略対象たちは深く同情し、やがて恋に落ちていく、といったストーリーだ。ラストのシーンでソフィアが「私の居場所はここなの」と全てを受け入れ前を向く姿など、涙なしでは見れなかった。
そして、私エルザ・バートレットはソフィアに悪質な嫌がらせをする生徒の筆頭である。エルザは気高い生まれながらの公爵令嬢であるため、庶民あがりのソフィアを嫌っていた。
そうして卒業式の日、ソフィアとその相手は嫌がらせを繰り返していた私を断罪し、私は身分剥奪の上国外追放となる。それはソフィアの攻略対象が誰であろうと変わらない、乙女ゲームの決定事項であった。
——と、いうのを、私は先ほど唐突に思い出した。
「まずいわ、どうしましょう......」
突如思い出した前世の記憶。それは自分が今まで生きてきた世界は前世でプレイしていた乙女ゲームの世界であり、私は悪役令嬢であるというにわかには信じがたいものだった。
しかし記憶の中のゲームと現実はばっちりと一致している。間違いないだろう。
「っていうかこういうのってもっと早くに思い出すものじゃないの!?」
だんっと理不尽な世界への抗議を込めて机を叩く。......両手が痛いだけに終わった。
そう。
私やソフィアはもう3年生。断罪イベント——卒業式まで、あと半年もなかった。
先ほど唐突に前世を思い出すまでの私は乙女ゲームの内容通り立派な悪役令嬢で、ずっと取り巻きたちと一緒にソフィアに嫌がらせをしてきた。断罪イベント回避はもはや不可能と言ってもいいだろう。
「身分剥奪、国外追放...。身分剥奪はともかく国外追放は困るわね、私この国の外のことなんにも知らないもの」
うーん...と腕組みをして、私は考え込んだ。
公爵令嬢として生まれた私は今まで蝶よ花よと大切に育て上げられ、国外に出たことなど無いに等しかった。いきなり国外に追放されたら、右も左も分からずのたれ死んでしまうだろう。
「それは嫌!」
ぐっと拳を握りしめ、立ち上がる。
国外追放はもはや逃れられない。——なら、国外追放された後のことを考えなければ!
まず大切なのは国の外のことを知っておくことだろう。残念なことにエルザの国外追放先がどこであるのか、私は知らない。だから手当たり次第に知識を詰め込むしかない。
幸い、学園内には大きな図書館があった。そこで周辺の国について調べ上げ、国外追放後どうするかの計画を練らなくては。
私は決意した。
こうなったら悪役令嬢として、国外追放先でしぶとく生きてやる!と。