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02

 お姉様たちの前世の話を聞きながら、のんびりとお茶会をしていた。するとロレッタお姉様が立ち上がり、準備をしなくちゃと走って行ってしまった。どうしようかとルージュお姉様を見ると、私に手を差し伸べていた。


「周りに見えないよう魔法をかけるから、見に行こうか。今回は聖女と王子の出会いだな。」

 ルージュお姉様と手を繋ぐと、体の中に何かが流れてきた感覚がした。どうやら周りから見えなくする魔法をかけたみたいだ。自分の体も、手を繋いでいるルージュお姉様も普通に見えるので、私は本当に見えていないのか疑問に思った。


 キョロキョロとする私の姿を見て、ルージュお姉様はクスリと笑った。そして高等舎の中へと入り、高等部の先生と廊下をすれ違った。初等部の私をみたら声をかけてくるはずなのに、声をかけてこなかった。つまり、見えていないと言うことだろう。


「…すごいね、ルージュお姉様!」

「ありがとう。それと、普段くらいの声であれば聞こえないから、気にしなくていい。」

 周りに聞こえるかなと小さい声で言うと、そう返された。魔法ってすごいなぁ。私もいつか魔法を使えるようになれるかな。


 目的地につくまで何人かとすれ違ったけど、誰も私たちに気がつくことはなく、無事に目的地までついた。聖女様と王子が出会う場所は、校舎裏の大きな木がある場所だった。その場所に着くと、ルージュお姉様は木の一ヶ所を指差した。そこにはロレッタお姉様がいた。木に登っているロレッタお姉様。その枝の先には子猫がいた。


 ルージュお姉様によると、聖女と王子の出会いは、聖女が木から降りられなくなった子猫を見つけ、助けようとするところから始まるそうだ。子猫を抱き上げた時に足を滑らせ、聖女が落下するが、それを助けたのが偶然にも王子だったという、ベタな物語。


「…実際、今のロレッタは動物と話せるから木に登らなくてもいい。しかも木から落下しても足の自由がきくなら、見事な着地さえできる。全ては原作のためだな。」

 偶然起こるはずの恋愛を無理矢理起こす事が目的だから仕方ないとは言っても、ロレッタお姉様が見事な着地をするシーンも見たかったな。元勇者様だし、格好良く着地してくれそう。


 そう思っていると、そこに黒髪と金色の目をもつ男子生徒が現れた。この国の王子、アルバート・グラヴィタス様だ。寡黙そうに見えるが、軍を率い、国政を担うカリスマだ。セシルお兄様と同い年だから、17歳か…かっこいいな。


 アルバート様はロレッタお姉様の姿を見て、首を傾げていた。この学園のお嬢様たちは木に登らないし、さらに聖女様が木に登るなんて、アルバート様は思いもしなかっただろう。私でさえ、ロレッタお姉様と関わりがないままだったら、首をかしげることだろう。


「きゃっ!!」

 そんな時、ロレッタお姉様が原作のために木から落ちてしまう。本性を知らなければ聖女様が可愛らしい悲鳴とともに落ちているのだが、私にとっては運命の出会いを果たすために必死になる恋愛脳な女子である。出待ちするファンのような…素晴らしい行動力だ。


「…風よ。」

 アルバート様が魔法で風を操り、ロレッタお姉様と子猫を助け、お姉様はきょろきょろと周りを見た。アルバート様に気が付くと、微笑んで駆け寄っていた。美少女が微笑んでくれて駆け寄ってくれるのってうらやましいな。ちらりと隣にいるルージュお姉様を見ると、優しい顔で2人を見つめていた。幸せそうなのに、どこか寂しそうなルージュお姉様の顔を私は見なかったことにしてしまった。


「あの、ありがとうございます。」

「聖女が怪我をすれば問題となる。誰か呼ぶといい。聖女の望みとあらば、皆、手を貸すだろう。」

 そういうとアルバート様は去っていく。これで出会いのシーンは終わりなのだろうか。ロレッタお姉様は子猫とお別れをして、その場を離れた。つまり、これで終わりなのである。乙女ゲームに関して詳しいわけではないが、主人公と王子の出会いはもう少し、王子の気を引く何かイベントが起きてもいいものではないか。意外にあっさりとしていて、物足りない感じがした。


「では、戻ろうか。」

 ルージュお姉様はにやりと笑って、私の手を引いて歩きはじめた。

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