7.報告して出発 (学園の名称をラリエル魔術学園から魔術学園『アヴァロン』に変更。父が明人に放つ発言に目立つからすぐに鼠を殺せを追加:2020/12/15)
「秋山、どうだった? やっぱり病気いっぱいあった?」
ドローンから降りた秋山に笑顔で駆け寄ってきた結衣だがやはり不安なのだろう。その表情は話しながら次第に曇っていた。
「大丈夫でした、お嬢様。 こちらのネズミは餌用だったみたいで特に菌は持っていませんでした。良かったですね」
「本当?! じゃ触っても問題ない?」
「はい、大丈夫ですよ」
秋山の報告を聞いた結衣は、途端に満面の笑みを浮かべ虫かごの中から私を持ち上げ、掲げ上げた。
「おっおー、思っていたよりふさふさしてる」
「はっはは! なんだ、餌用だったのか。よかったよかった……しかし飼われてたとしてそのネズミ、持ち上げられてるのにずいぶん落ち着いているな」
結衣の後ろから父親が落ち着いた声色で語りかけた。
「最初に見つけたときも、こんなずっと感じでふてぶてしい態度だったんだー。鳴き声一つ出さないし」
返事をしながら、結衣は私の体中を両手でぶにぶにさせていた
「っそっかそっか、それより結衣。もう二度とこんな真似しちゃだめだぞ。今回はたまたま運が良かっただけ、でもしかしたら結衣は死んでいたかもしれないんだから」
父親の言葉に先ほどより少しばかり力が入っているのを感じ取った。
「わかった。次からはちゃんと言う」
うんうん、と父親はうなずき。結衣の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「お父さん、結衣はそれ嫌いなんですからやめた方がいいですよ」
っと、次はお兄さんの登場みたいだ。
「そろそろ結衣を連れて行かないと入学式に間に合わなくなってしまいますよ。病院で結構時間を食ってしまったからね」
「おっと、そうだな。秋山、すまないが結衣を送って行ってくれないか」
「分かりました」
秋山はそう言い、ぺこりとお辞儀をしてから、結衣の手を引いて再びドローン向き歩き出した。
私? 私は当然まだ結衣の片腕の中で抱かれている。
ドローン発着場のDマークの上では、普段の4人乗りドローンより2倍長くなった真っ黒いドローンが止まっていた。結衣も気が付いたようでドローンに向け指を指した。
「あれに乗っていくの?」
「はい、そちらで合っています。学園専用のドローンが学生一人一人のところに来てくれるんです。」
「ふーん、じゃ速く乗ろ」
結衣は特にドローンに興味がないのか。せかす様に秋山を引っ張りながら黒いドローンの前までついた。ドアが自然と開き私たちは中に入った。
先ほど乗った4人乗りの時とあまり中は大差なく2人ずつ対面になる形で置かれていたソファが布ではなく革ソファになっただけとトイレの個室が付いているだけ変化だった。
扉が勝手に閉まり全員がソファに座ると中央に妖精サイズの小人が浮かび上がり話し始めた。
『こんにちわ、中院 結衣様、秋山 紬様。そして確認ですが中院 結衣様が抱えているクマネズミは貴方の所有物で間違いありませんか?』
メイドのフルネームは秋山 紬か。
「うん、私のペットなの」
『承知いたしました。では、これより魔術学園『アヴァロン』に向け飛行を開始いたします。』
っえ? 魔術学園? 結衣はこれから魔術学園に行くのか? ってことは魔法が使えるのか?
妖精が言い終えると同時に車内が少し揺れたので地面から離れたみたいだ。場所を確認したがったがこのドローンには窓というものが存在しなかった。
『これより学園の確認事項にも記載されていたと思いますが、3分後に車内から催眠ガスが噴出されるされるため、御手洗いなどは事前に行かれることをお勧めいたします』
催眠ガス? 強制的に眠らせることで時間の感覚を狂わせることが目的か。
「結衣様、御手洗いは事前に行かれましたか?」
「うん、大丈夫」
「それなら良かったです。でも我慢しないでくださいね? 昔に漏らしてしまった子もいたらしく起きた後も大変だったみたいですから」
「――もう1回行ってくる。秋山ちょっとネズミ持ってて」
結衣は私を丁寧に抱きかかえ秋山に渡し、トイレに入っていった。私を渡された秋山はというと
「私たちが寝てた時に潰れちゃうかもしれないから虫かごの中に戻しておきましょ」
と言いまた虫かごの中に入れられてしまった。丁度結衣も虫かごの蓋を閉まったタイミング戻ってきた。
「ネズミ、戻しちゃったの?」
「はい、寝てるときに潰してしまう危険性がありますから足元の虫かごの中に入れておいた方が安全でしょう」
「……そっか、そうだね」
結衣は残念そうに言い、ソファに座りなおした。
『時間になりますので、車内に催眠ガスを噴出させます。全員が起きたタイミングでまた学園の説明などをさせていただきます。では、おやすみなさいませ』
車内天井の4か所から白いガスが噴き出し、あっという間に部屋に充満し。ソファに座っていた二人とも横になって眠ってしまったようだ……私もだんだん眠くなっ…………。
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屋敷の主である父とその息子、中院 明人は、飛びだっていく結衣たちの乗ったドローンを眺めていた。
「行ったな……これでこの屋敷はもっと寂しくなるなー、あっちの寮でも元気でいてくれるといいが」
「…………」
「一緒に行かなくてよかったのか? 結衣の入学をお前も楽しみにしていただろう」
父の言葉を聞き、明人は息を吸い、漏れるように吐き出しながら答えた。
「ええ、楽しみで楽しみで仕方がなかったです。でも私がいたらきっと結衣はまた傷ついてしまいます」
「そうか、あまり気に留めるんじゃないぞ。あと言わなくても分かると思うがあのドブネズミは結衣がいない間にすぐに殺したほうがいいぞ。目立つからな」
「うん、ありがとう。それは分かってるよ」
父はそう言い屋敷に戻り、明人はすでに結衣たちが乗ったドローンが飛び去った後の青い空を眺めるだけであった。