6.少女の兄
私は今秋山と呼ばれたメイドに持ち運ばれている……別に私はトイレをしてないわけではない。
ただ排泄物は全て影で屋敷のトイレの排水溝のヒの字の下の湾曲している箇所に送っているだけだ。闇に適正がない生物を生きて送り込むことはできないが、糞や尿はずたずたになったところで問題ない。まぁ、そのせいで結衣が嘘つきみたいな扱いをされたがどうでもいい。
今はそんなことよりも先ほど結衣が親父と話していた魔獣と魔法やらのほうに興味がそそる。この世界では魔法はないと思っていたのだが……あの話を聞くに少なくとも犬や猫の中には魔法が使える奴もいるってことだろう。
人の中に使える者はいないのだろうか。
「やぁ、秋山さん。その様子だと結衣は結局出てこなかったんだね」
と屋敷のホールらしい場所に差し掛かった時に二階から降りてくる結衣と同じように白制服に黒いローブで胸のワッペンだけ蛇の柄になっている物を羽織った爽やか金髪イケメンが下りてきた。こうゆう男は嫌いだ。誰が見ても好感度が高い人間ほど屑か馬鹿かの2通りの人間と私は思っている。
「こんにちわ、中院明人様。いえ、出ては来てくれたのですが、お嬢様は野生のネズミをどこかで捕まえ、内緒で飼っていたようで……学園のほうにペットとして一緒に連れて行くんだおっしゃいまして。現在、結衣様は万が一を考えて旦那様が病院に連れていかれました」
「ッ病院?! 結衣は大丈夫なのか? お前の持っているその糞ネズミが話のネズミか? 結衣はこいつから何か病気でも移されたのかッ!!」
結衣が病院に行ったと知った明人は面食らった顔をしたあと、そのまま人でも殺しに行きそうなほど顔をこわばらせながらメイドの秋山に詰め寄った……先ほどまでの飾ったような顔は面影も見えないほど慌てふためきおまけに口も悪くなった。彼は2通りに収まらない例外のようだ。
「ッお、落ち着いてください明人様。結衣様は現在、特に症状は出ていませんからとりあえず大丈夫だと思いますからっ!」
「本当か? 本当に大丈夫なんだろうな?」
「はいはい、とりあえず私は行くところがありますからどいてください」
秋山は慣れたように明人の横を通り抜ける。
「すぅ……はぁ、待って、少し待ってください、秋山さん。もしそのネズミを処分するのでしたら私に任せてもらえませんか」
「っえ?」
「僕の可愛い妹の身に危険を与えたんだ。秋山さんの代わりに私が溺死をさせてあげます。いや、させてください! もはやその糞ネズミを見るだけで俺は殺意の炎が燃え上がるのを感じているんだ。そのネズミの死体を見るまでこの気持ちを抑えきれそうにない」
っあ、結衣の観ていたアニメで見たことがある。これが世にいうシスコンというものか。初めて見たが中々、腹の内がすぐわかるいい人ではないか。うん、そうゆう分かりやすい人嫌いではない。
「いやm、待ってください。こちらは結衣様からちゃんと動物病院に連れて帰ってくるって約束しているんです。殺しちゃったら私は怒られるだけで済むかもしれませんが、明人様は結衣様に嫌われてしまいますよ!」
明人は驚愕したようで口を開けたまま止まり、やがて意識が戻ったようで再び動き出した。
「く……忌々しいネズミだ。 妹からの愛を一身に受けておきながら恩を仇で返すとは」
ただただ一緒に部屋にいただけなのだが……試しに結衣を殺す想像をしたが、今でも何の躊躇もなく彼女の首を斬り飛ばせる。つまるところ私はそうゆう人間、ネズミなのだろう。だが、かといって殺すかと言われると殺さない。殺す理由がないからだ。実験をしていたころなら迷いなく生きながら実験体にして殺しただろうが、今ではその理由も消えた。
「仕方がない、結衣もそのネズミが菌まみれと分かったら諦めてペットショップの犬か猫を飼う気になるだろ。秋山さん、引き留めて悪かった。気を付けて行ってらっしゃい」
「はぁ……ありがとうございます。では行ってきます」
明人は先ほどまでの乱れを想像もできないような爽やかな笑顔に戻し秋山に向け、彼女もまた失笑を向けるのだった。
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「ふむ、……特に問題ないですね」
「っえ?」
「だから、このネズミは特に病気を持ってなかったですし、排泄物も普通に出されてます。もしかして、どこかの餌用のネズミが脱走してお嬢さんのところに行ったのかもしれませんね」
私は今、電気でプロペラを動かして移動する4人用のドローンで颯爽と病院屋上に着陸し、そのまま動物病院に連れてかれ口やらに綿棒を入れられたり、血を抜かされた後。結果を聞かされていた。
この体は特に病気持っていなかったのか……どうやら運のいい個体に転生できたみたいだ。
「ただ……、お嬢さんからの話だと見つけたときからこれぐらいの大きさで飼ってから半年なんですよね?」
「えー、そう聞いてます」
「このネズミはクマネズミと呼ばれる種類で寿命は1年から2年程度なので、見つけたときには大人ってことも考えるともういつコロッと死ぬか分からないと伝えといたほうがいいんじゃないんでしょうか」
ッ?! てっきり1~2年は生きれるのかと思ったのだがもう寿命で死ぬのか。
「ぇ、もう死ぬのですか? お嬢様はペットにして飼うつもりなのですが……」
「まぁ、所詮ネズミですからね。長く生きられないのもお嬢さんも分かっているでしょう」
「ぇ、ぇぇぇ、え、そ、そうですか、分かりました……ありがとうございます」
ふたたび、屋上に行きドローンに乗ったが。秋山メイドはずっと落ち着かない様子だった。
「どこからどう言えばいい? たぶん餌用が逃げ出して病気はなかった? クマネズミで寿命でもういつ死ぬかわからない? そんなこと言えるわけないだろぉおが!」
秋山が髪の毛を両手でかき乱しながら叫びだす。
「よし、寿命のことは黙っておこう。どうせコロッと死ぬんだ。事前に悲しませる必要もないでしょッ!」
屋敷に着地し、一番に秋山を迎えたのは嬉しそうに駆け寄ってくる笑顔の結衣だった。