4.引きこもりの少女
屋敷を飛び出したはいいが……結局食べ物も手に入らなかった。
しかしあの光の壁は何なのだろう。あの家の侵入を拒む防御の魔術なのだろうか? 手動で操作するにしては余りにも機敏に反応していた。でもとりあえずこの世界にも普通に魔術もあるようで安心した。
仕方がない。屋敷の生け垣の中を通り屋敷正面に回り込み、道路でも歩いて食べ物がある家でも探そうと道路に飛び出た。
まさか飛び出て道路に着地した瞬間にまたあの光の壁が出現するとは……しかも、今回は正面だけではなく左右と天井まで展開され、それが後ろの山の方に続く1本の道を作るように展開されていた。
山に帰れという意味だろうか?
ネズミがそのまま意思を汲んでくれるとでも思っているのだろうか。私は最初に目覚めたときに見たネズミの真似を最大限してみる。意味もなく歩いたり、鼻をピクピクさせながら頭を無駄に動かしながら左右確認する。……ネズミ用に作ったであろうこの魔術に対してネズミの真似をしたところで意味がないのではないか? と冷静になったところで変化が起こった。
突然、頭をハンマーで叩きつけられたかのような衝撃的な爆音がながれたのである。いくら頭を地面に擦りつけて耳を塞いだところでそれが和らぐことはなかった。苦痛に耐えかねて身をよじっていたところ更なる追い打ちが来る。前方で道を塞いでいた光の壁が徐々に迫り来ていたのである。このまま山のほうまで後ろにある一本道で帰れというのだろうか。だが、せっかく街まで来たのに食べ物も手に入れられずには帰れない。
そう思っていたところに脇目で綺麗な黒い服を着たおじさんが買い物かごを持ちながら、こちらを気にするそぶりもなく横切っていたのが見える。どこかの屋敷の執事だろうか。ふと屋敷の外から中に入るのがダメなら中からならどうだろうと思いつく。自分の影に意識を集中させ地面の中を通り、執事の影の中に入った。
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魔法というのだから影の中はさぞかし楽と小さい頃は思っていたが実際のところ寝っ転がっているとこに横から全力でキックされながら転がって運ばれていくような感覚だ。
しかも途中から執事は何やら乗り物に乗ったようで、速度が速くなりキックの感覚が物凄く早くなる。経験したことがないくらいの速度が出ていて、流石に吐き気がしてきている。
しばらくしたら目的地に着いたようで影は止まる。私は視力補助の魔法陣を応用した極小の魔法陣を出し、外の様子を見てみた。様子を見ていたが、どうやら執事は瓶やらが飾ってある豪華な廊下の一室の前で何やら中に向けて話しかけていたようだ。しかし、中から返事がないからか落胆しながら、持っていた買い物かごをドアの前に置いて立ち去って行った。
私? 私は買い物かごの中に果物のようなものが見えたからすぐに執事の影から果物の影に移っていた。誰もいなくなり、私の腹もそろそろ限界だからと外に出て果物でも食べようかと思った時――扉が小さく開き、中から水色の薄着を着た11歳ぐらいの銀髪の少女が短めの髪の毛を揺らしながら出てきた。そして買い物かごを持って笑顔で再び中に入っていった。
中の日差しが布で遮られ物が散乱し食べ途中の物がそこらへんに散乱していた。だが少女は全く気にすることなく買い物かごを入口のそばに置き、中から果物を一つだけ取り部屋の真ん中にある唯一何も置かれていないところに座った。
『霑大ケエ縺ョ遘大ュヲ謚陦薙�蜷台ク翫�縺吶∋縺ヲ荵��逋コ髮サ縺ョ縺翫°縺偵〒縺ゅj縺セ縺吶ゅ↑繧薙→縺�▲縺ヲ繧よ怦縲�ク莠コ蠖薙◆繧�1000蜀�〒荳也阜荳ュ縺ァ髮サ豌励′菴ソ縺�叛鬘後↑縺ョ縺ァ縺吶°繧会シ�』
突然音が鳴ったと思ったら、少女の目の前に光の壁が出現し、その中で人が映りだされていた。音は中の人の口に合わせて聴こえているようだった。光と風の魔術か? いや、魔法陣のようなものは特に部屋に見えない。 ――しかしまさかこの少女は遠距離にいる相手に魔法でそんな高度なことができるのか?
「莠後▽縺ォ蛻�¢縺ヲ」
少女が何かを呟いたと思ったら、光の壁は二つに分裂し。片方は先ほどと同じだが、もう片方が何やら絵のようなものを映し出されていた。少女の行動も大変興味深いが……今の私にとって腹が減っていることのほうが重要だ。
食べ物を探さなくては。
影の中から魔法陣で部屋の中をくまなく見て部屋の端っこに粉で作られたような何かがあるのを見つけた。
私は少女に気が付かれないように買い物かごの影から肉体を出す。光の壁が出現するかもしれないと思ったがどうやら今回は大丈夫なようで無事部屋の端っこまで行くことができた。
落ちていたのは小麦で作られたおやつのようだった。私は万が一のために少しだけちぎって肌につけたり少量を口にくわえてパッチテストのようなことをしたが特に問題を感じないので安心して食べ始めた。そして少女の方を見るが彼女は箱状に生えている茸のようなものを操作しながら先ほどの果物を食べていた。
さて、これからどうしようか。人間だったころは死から逃げたくて、研究やら実験ばっかやっていたが結局のところ死んでしまった。このネズミの体ではろくに実験もできないだろう。何よりこのネズミの寿命では実験するほどの時間もない。だいたい長くても2年生きると考えても、このネズミはもうすでに成熟している。あと1年ぐらいと考えておこう。
「……ガリガリ……モグモグ」
しかしそれでは私はこの短い命。何を目的に生きればいい? 大体のネズミは何を考えて生きてるのだろうか。食って寝て子供産んで死ぬ、そんなことを考えて生きていけるわけがない。
「……バリ……ガリ……モググ」
どうせ長くもないネズミの命ではすることもないから適当に生きて死ねばいい。
「……バリバリ……ガリ……モグモグ」
腹も満たされたことだしこの部屋の本棚後ろか、ベットの下にでも行って眠るか。
そう思って粉が付いた毛や手を掃ったのだが――
「菴輔%縺ョ蝗ウ縲�@縺�ロ繧コ繝�」
突然近くに聴こえた声に私は先ほどまで少女がいたところをみたが、当然そこにはいない。ゆっくりと正面を向くと少女は私の前にあと一歩のところに立っており彼女と目が合った。
「逶ョ縺悟粋縺」縺溘�縺ォ騾�£縺ェ縺��繝サ繝サ閧昴∪縺ァ蠎ァ縺」縺ヲ縺�k縺ョ縺ュ」
少女は何を思ったのか先ほどまで食べていた果物の一部をちぎって私に投げてきた。
それを前脚で器用にそれをキャッチした。投げてきたということは私にくれるのだろうか?
少し柑橘系のにおいがするが万が一ネズミにとっては毒かもしれないと思い、少しだけ口に含んだが甘酸っぱい味がするだけで特に痛みとかは感じなかったのを確認でき、ガツガツと齧り付き全部食べる。
そして私を見ていた少女は何かを思いついた様子で手を胸の前で叩き、部屋にある散らかっている山の中に手を突っ込み中から埃だらけの透明な箱を取り出し、それを私の前に置いた
「蜈・縺」縺ヲ��」
少女は何かつぶやきながら箱を指でトントンと叩いた。
飼うつもりなのだろうか。しかし私が言うことでもないが、ネズミの体は菌が大量にいて少女が感染する可能性もあると思う。だが、かといって私は少女の身を心配してこのチャンスを逃すつもりはない。
感染したら感染しただ。また別のところを探して行けばいい。それにもし、飼うつもりがなく実験やら何やらで使うとしても私は四方八方を光で閉じ込められない限り影から逃げられるため逃げ出そうと思えば逃げ出せる。ということでここは、大人しく箱の中に入った。
にへぇと少女は笑顔になり。すぐに私が入っている箱に蓋をし、壁際に置いた。先ほど箱を持ってきたガラクタの山にまた体を突っ込ませ何やら液体が入ったもの複数個、持ってきて先ほどまで私がいたところに向かっていろんな液体を吹きかけていた。
消毒だろうか? 一応汚いということは理解しているみたいだ。
――そしてこれから少女とネズミの生活が始まるのだった