2.RNA、全ての始まりの物語(異世界における太陽の描写を削除、帝国の目的を描写:2020/12/4)
雲が風に流され一つまた一つとそこから溢れ出る心地よい日差し、これを両手を広げて浴び……はぁ、私は、私は何のために生きたのだろうか。
そう思った瞬間、甲高い音が聞こえ、体に激痛が走った。
魔力を使いすぎたか? いや、魂の秤は魂だけでなく死体から魔力までも吸収するはず。この私が魔力で疲労することなどありえない。
ではなぜ……そして私は気がついた。
体中に光の柱が突き刺さり宙に浮かされ、鳥籠のように私が丸い球体の中に閉じ込められていることに。その鳥籠の外側に白いローブを着た人達が次から次に光のように現れることに。
私の口からは血が吹きこぼれ呼吸しようにもうまくできずにポコポコと音が漏れるだけ。
不覚、大型の光の魔法陣がない時点で警戒するべきだった。こいつらは今までは雲の上にでも身を隠していたのだろう。下にいた奴らは囮? 考えれば殺した後にタイミングよく雲が消え始めたのも可笑しいことだ。わざと油断するように水魔法か何かで曇らせていたのだな。
「帝国所属闇系統最高責任者、ラルク。貴方は隣国や帝国から数々の老若男女、エルフやドワーフ、魔族を誘拐。身勝手にも魔術の実験を数々行っていました。その数は3万を超えています。バルリ帝国や隣国各国の協力により討伐組織が結成。今、目的を達成しました」
秘書のような恰好をしたエルフが分厚い報告書を読みながらそう喋った。
「コポぅ、グァぁー」
試しに喋ろうとしてもやはり声にもなりはしない、痛みが増すばかりだ。周りにいるローブの奴らは心なしか笑っているようだ。よく見てみるとその中にはエルフやドワーフ、魔族なんかもいた。
「私たちは光系統のスペシャリストのため、貴方が闇に逃げ逃亡される恐れがあるのも完璧に考慮しました。だから作ったのです。このわずかな暗闇すら作らぬ光の鳥籠を」
悪いのは全て私か? 誘拐も私?
違う、私は欲しいものを伝えただけだ。手引きをしたのは帝国のはずだ。なのに私だけが悪なのか? 3万もの人を殺した覚えもない。多くても二千人以下のはずだ。当たり前だ、精々研究所にいた期間は五十年しかいなかった。ならば毎日一人以上は殺さなければ計算が合わなくなる。
「ふっ、ふふふふッ」
自然と笑いがこみ上げてくる。だが、そんなことはもうどうでもよかった。私はあることに気がついてしまった。
「貴方……何を笑っているのですか?」
何を笑っている? ははっ、もう笑うしか無いだろう。これを最後に死のうとしたのに最後の最後で最高の実験の場を見つけてしまったのだから。
前から私は魔力の圧縮をしようと考えていた。私の影に囚われた魂と魔力を一点に集める。意味は特になかった。知的好奇心というやつだ。
だが、実際にそれをやろうとしたがどうしても自分の力では半径5cm以下にしたところで魔力が溢れ小さい爆発が起きたり、私の体の中に魔力が逃げ出したりした。
——だから諦めた。
だが、今私は光の球体の中にいる。これでは圧縮しようとし、逃げていた魔力でさえ逃げ場はなくなる。このまま光の球体が私の体の中に逃げていくであろう魔力ごと圧縮してくれれば自分では到達できなかった最高の結果になるだろう。ニヤリと口角が上がる。
「もういいです。皆さん、鳥籠を最高出力のまま閉じてください。彼には肉片になる価値すらありません」
私の入っている球体が急速に狭くなっていく。
体中の骨が悲鳴を上げながら折れていく音が聞こえ。
折れ曲がった足が自分の肺に突き刺さる。
背骨も折れ、腕もあられもない方向に曲がり、骨が次から次に体に刺さり壊れていくのを感じる。
ついに首からも音が聞こえ始めた。
もう、意識を保つのも精一杯だ。
ここでただ一つ残念なことがあるとするのならこの圧縮の結果を私が見ることができないこ――
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光の球体は先程まで人が入っているサイズとは思えないほどの3cmサイズの小さな球になった。光の厚さも考えると中身は1mmもない。そこまで行って平原で白いローブを着た人達は安堵した。
帝国の行った数々の行いをラルクに着せ、秘密を知る大多数の兵士、そして隣国の軍隊を大幅に排除することができた。
「やりましたね。隊ちょ――」
そこにローブの人たちはいない。
死体が転がっている平原もない。
空を飛ぶ鳥もさえ、さえずりで心地よい歌を醸し出しながら塵と化す。
光の球体はおろか周囲にあったものは一瞬で消え、全てを焼却するほどの熱量を持った衝撃波が辺り一体を包み込んだ。その半径は約30km。
世界の歴史に名を残すには十分すぎるほどの爆発であった。
『砂時計は壊れ、砂が落ち始める。
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決して交わるはずのない世界へと』
――痛い
――痛い……
――痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
「――――」
声にならない叫び声が出て、あたりを転げ回る。
「ッキー! キィ」
「——ハァハァ、スゥ、ハァ……」
やっと落ち着いたが体中にガラス片が散りばめられているかのように動かすたびにまだ痛みが走っている。
「キィ、キィッ」
私は、私は……あれ、私はなぜ思考できているのだ?圧縮されて死んだはずだ。
「ッキィ、キィ」
さっきから聴こえてくる鳴き声に重たいまぶたを開けると——大きく、動く黒い物体が目前にいた。瞬時に立ち上がって距離を取ろうとしたがうまく立ち上がれず再び倒れこみ、また全身に痛みが突き抜ける。
そして倒れた瞬間に体が毛に包まれていることに気が付いた。
しかも遠くのものを見ようにもうまく見えない。元々良くなかったが比べ物にならないほどひどくなっている。
前にも使っていた視力を補う用に作った魔法陣を頭の中で思い浮かべ、それを眼球の後ろになるように距離を調整して設置した。これで意識しなくても視力は補強されるようになった。
そしてゆっくりと視点が中心に向かって鮮明に見え行く中、気が付いた。鼻が異様に前に見えることに。しかも色や形まで変わっている。疑問に思いながら痛みに耐えながら自分の手を目の前に持っていく。
毛深く……鋭い爪を持った4本指がそこにはあった。
これは一体何の生物なのだろうか…………私は一体どうしたのだろうか。