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14.意思疎通



 午後の授業は特に特別性を感じるような内容でもなく、教室で数学や国語が続き終了。私はというと未だに結衣の腕の中にいた。そこに後ろからムーアが話しかけてきた。


「中院さん、伊藤さん。この後に誰の部屋に集まることにする?」


「うーん、……普通に中院さんのところでいいんじゃない?」


「僕は構わないけど、中院さんはそれでも問題ない?」


 ムーアが結衣に目線を配り聞く。


「うん、大丈夫」


「ok、じゃ中院さんの部屋の番号を教えてもらえる?」


「……このまま3人で一緒に行けばいいんじゃない?」


 結衣は少し間を空けてから提案する。


「いいのか?」


 ムーアは意外そうな顔を結衣と伊藤に向ける。


「伊藤さんも別にそれでいいよね?」


「うん、別にいいよ」 


 授業も終わり。クラスの人達も今日1日で大体の友達グループが出来上がって、それぞれ一緒に雑談をしながら教室を出ていく。結衣たちもその流れに乗って寮に帰っていった。


「へぇ、やっぱり僕の部屋と大差ない感じなんだね」


「まだ1日しか経ってないんだから当たり前でしょ」


 ムーアの言葉に伊藤が呆れたように答える。


「……っあ、ダンボール来てる」


 結衣が部屋に入りベランダにある箱を見つけると私と虫かごをテーブルの上に置き。すぐにベランダまで走っていき。置いてある箱を開けて中からパジャマを取り出し広げる。それはいつも前の部屋で着ていた白いフード付きのもこもこパジャマ。


「おー、可愛いね。それ」


 伊藤が自分の腰に両手を当て、そう口に出した。


「そう?」


 結衣は問いかけながらパジャマを伊藤が見やすいように両手で広げながら見せつける。


「ん……いや、やっぱり普通?」


 伊藤はムーアと結衣の表情を見てから少し困惑しながら訂正する。

 

「そう」


 結衣はパジャマをそのままクローゼットの中にしまい、話を続け。


「私の部屋に来たけど具体的にはどうするの?」


 結衣はムーアと伊藤の顔を交互に観てそう問いかける。私は何をされたって別に反応は示さない。

リスクをこれ以上大きくすることはやめたい。それに別にこいつらが死ぬのは全く持って──構わない。だが、私が実験動物にされることだけは回避しなくてはいけないのだ。


「あー、それなら僕に考えがあるんだ。これでどうだろう?」


 ムーアがこめかみに指を当て操作するとすると私の目の前。机の上にアルファベットや数字が表示される。


 英語……?


「……きなこ、英語出来るのかな?」


「私と一緒にアニメとか見てたから日本語の方がいいと思うけど……」


「っあ、そうだよね、日本語だよね。ごめん、変えるよ」

 

 それにしても机に表示させたこれで一体何をさせたいのだろうか。


 Aの文字が表示されているところを触って見るとアルファベットにエフェクトが発生し、今度は空中にAの文字が浮かんだ……なるほど、文字を打って会話。


「あっ、待って! 何か打とうとしてる」


 伊藤が私の行動を見てそんな事を言う。別に打とうとしてるわけでもない。


「A?」


「……?」


 誰一人微動だにしない時間が生まれる。


「あれ? たまたま触っただけ?」


「……そうみたいだね」


 一瞬、手が止まったムーアだったがそう言って再び手を動かし、机の上のアルファベットは消え次にひらがなが出てきた。


「これなら日本語が分かればいけるね」


 伊藤がそう言いながら私を持ち上げ、ひらがなが並んでいる真ん中に置きなおした。


 確かに理解できるし、打とうと思えば打てる。


 だが、私は不動。

 

「……動かないね」


 1番に口を開いたのは伊藤。


「うーーん、ダメかー。文字は分からないのかもしれないし、違っても、もともと隠していると考えると協力的にはならないか」


 ムーアは文字を消してから腕を組み、悩ましそうな表情をし考え込む。


「どうするの?」


 結衣の質問に、ムーアは何とか捻り出そうとし出た言葉は。


「とりあえず中院さん、このネズミに画面の共有の権限でも与えてみたら?」


「……分かった」


 画面の共有?


 ムーアの言葉に今度は結衣がこめかみに指を当てた後操作をしだした。


 すると視界の右上に数字が表示される。


『15:47』


 時間か?


 画面共有、なるほど……結衣に目に表示されているものだろうか。


中院 結衣

「あげたよ」


 しかも、会話をしている結衣の方を見てみる頭の上には名字が表示されていた。

 ……なるほど、これなら名前を間違えることなどない。


 しかし、なぜ他の人は名字だけなのに結衣だけはフルネーム何だろうか。


 本人だからか?


伊藤

「特に驚いてないね」


 ムーア

「……普通びっくりするとかもっと反応するはずなんだけどね」


中院 結衣

「……」


 …………失敗した。最初の時のボロ屋にいたネズミみたいにジャンプを繰り返して回避行動を取るのが正解だったか。だからと言って今からでもやると嘘臭くなってしまう。しかしやらないとしてもそれはそれで、動物的にもおかしい……うーむ、一応やったほうがいいか? 右上に向かって1回ゆっくり噛みつく。


中院 結衣・ムーア・伊藤

「「「……」」」


 だがしかし、結衣たちの目は変わらない。あまつさえムーアに至っては苦笑いまでし始める始末。


 ──やめろ、そんな目で私を見るんじゃない。落ち着け。落ち着くんだ。すぅ……はぁ…………これなら何も行動をしない方がマシだったのかもしれない。

 

 ムーア

「……じ、じゃ気を取り直してもう1回やろうか」


 もう一度机の上に文字が表示される。


 …………ふぅ、もうこうなってしまってはしょうがない。



 迂闊(うかつ)に殺して騒ぎになるよりはマシか

 

 私は机の上に表示されている文字を触って言葉を作った。


 『ひみつに』


伊藤

「おー、文字打ってる。……ひ…………み…………つ……にぃ…………?」


ムーア

「本当に知性が高いんだ……」

 

中院 結衣

「秘密にして欲しいの……?」


 私は結衣の方を向き、頷く。


中院 結衣

「そう……、みんなもそれで大丈夫?」


ムーア

「そうゆう話で進んできたんだしね。僕は大丈夫だよ」

 

伊藤

「すごいなぁ。……あ、私もそれで問題ないよー」


 例えこの中で話す人がいて学園に知られたとしても、今ここで三人を殺して学園に知られる方がまずいだろう。


 前者は少なくとも知能があるのを知られるが、後者は殺すことまでできると言うことが知られることになる。

 

 そうなると私の魔法は光にとても弱い。生前もそうだが光の壁に囲まれて殺された場合なす術も無くなってしまう。


 慎重に動かなくては……


ムーア

「ところで君には、名前などはあるのだろうか?」


 ふむ、生前はラルクと呼ばれていたが今とは関係ないだろう。


『いや、ない』


中院 結衣

「いつから言葉が分かるようになったの?」



 『きみとであつてから』



伊藤

「じゃ最初は分かってたわけじゃないんだねー」



ムーア

「排泄物は今までどうしてたんだ?」


 

 っ……さてどう答えたら良いのだろう。

 影でトイレのパイプ部分まで送ったと言ったら魔法が使えることがバレてしまう。


 ――別に答えなくて良いか。


 『わからない』


ムーア

「自分でもわからない? じゃ何で僕の手の上で?」


『やつてみたらできた』


ムーア

「……なるほど」


 ムーアは顔に手を当てて何やら考え始めた。


伊藤

「してもしなくても良い感じの体なのかな」


中院 結衣

「最初に私の部屋に来た時、何でいたの?」


『きがついたらあそこのへやにいた』


 嘘……だが本当のことを言えとは言われていないし、これは至極どうでも良いことでもある。気がついた場所が違うだけだ。嘘をついても構わないだろう。


中院 結衣

「気がついたら……?」


伊藤

「そんなことある?」


ムーア

「うーん、まだまだ謎が多いね。君は魔獣なのかい?」


『まほうつかえない』


伊藤

「……本当に?」


 伊藤は机に伏せながら人差し指で私をちょんちょんと突っつく……鬱陶しい、触らないで欲しい。


中院 結衣

「一限に神田先生に確認されたから確かなはず」


ムーア

「あー、呼び出されたあの時か」


伊藤

「そういえばあの時何されたの?」


中院 結衣

「魔法陣見せて目をつぶったらちょっと音を出して驚かせたみたいな魔獣の検査だって話だったけど……」


『こまくがやぶれるほどだつた』


伊藤

「へぇ、それでちょっとなんだねー」


中院 結衣

「話と違う……」


 

 結衣の雰囲気が先程と変わり、少し怒っているようだ……ふむ、面倒くさいな。他人のたかが鼓膜が破れる程度で何をそんなに怒る必要があるのだろうか。


ムーア

「まぁ、先生もバレると思ってもなかったからついた嘘だし、このまま先生に突っかかってバレたらネズミも困るでしょ。中院さん抑えて抑えて」


中院 結衣

「うん、そうだね……」


伊藤

「で、これからどうする?」


中院 結衣

「どうするって?」


伊藤

「このままここに居たいかどうかよ」


中院 結衣

「っえ……」


うーん、人の死体が都合よく手に入れば実験しながらそれで自由に動き回ることもできるが、肝心の死体が無いしな。無闇にあちらこちらを学園の中を監視された中歩き回るよりかはこっちの方が自由だろう。たがしかし、嫌ならば別に一緒にいなくてもかまわない。



『どちらでもかまわない』


中院 結衣

「じゃ、これからも一緒にいよ」


結衣はそう言い私を両手で掴み胸に抱きしめた。その光景を後ろにいる伊藤とムーアはただただ眺めていた。


伊藤

「……中院さんは本当にあのネズミこと好きだよね」


ムーア

「…………そうだね」


 そうか、この二人もまた他の生徒の視線には気づいているのだろう。

 

 『ピンポーン』


 結衣とムーア、伊藤の二人の間に出来ている見えないが確かに存在する曖昧な壁を切り割くようにブザーが鳴った。

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― 新着の感想 ―
[一言] セリフの前に誰が言ったか一目でわかるのはとても親切で読みやすいですね。 雰囲気も相まって劇の台本みたいで素敵です!
2020/05/03 02:26 退会済み
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