13.魔法
「はいはい静かにー。……じゃ、最初に魔法の授業を始めるわよ」
片手に持っていたチワワを地面に置き
「まずは……魔獣の説明から、みんなも知ってると思うけど人間以外で魔法が使える動物が魔獣と呼ばれてるの……お座り」
チワワはすぐに座り、神田の方を見つめながら相変わらず嬉しそうに尻尾を振っていた。
「F4、水」
神田がチワワにそう呟くだけで、チワワの口元からは先ほどだ比べ物にならないほどのヨダレが溢れ出し、地面にはヨダレで水たまりが出来ていた。
「きたな……」
それを見ていた生徒たちのうちの一人からぽつりとそんな声が聞こえた。
「ちょっとそんなこと言うんじゃない。この子だって一生懸命やってるんだからね!」
神田は慰めるようにそっとチワワの頭の撫でて言う。…………ただその間もチワワの口からはヨダレが溢れ出ていた。
「…………F4、やめ。」
神田がそういうと、チワワから溢れてるヨダレの勢いがようやく収まり、口から糸が引かれる程度のヨダレしか出なくなった。
なるほど、この魔獣はどうやら頭は良くないらしい。だとしたら私の世界で死んだらこの世界の動物に意識が移るという考えは捨てたほうがいいな。
「……もっと上のSクラスの生徒たちに見せる魔獣なら火の球やら槍を飛ばしたりすることができるけど、このクラスはFだからこの程度の魔獣なのよ」
上のクラス……? クラスによって見せる魔獣を変えているのか?
「犬も人間も魔法を使う時は特に変わらないわ。水の適性が高ければ体から水を出したり、水の魔法陣で飛ばしたりできるようになるわ。……そして熟練者になると適性に応じた物を操れるようになる。」
神田がそこまでいうと片手を上げた。その手のひらの上には小さな竜巻が回っていた。
生徒たちからはちらほらと歓声が聞こえる。結衣は特に驚いてはいなかったが、伊藤とムーアは見入っているようだ。
それより私は神田の言葉が気になった。…………熟練者になっても操れるだけか? 同化は出来ないのか? 私のいた世界では同化こそが最高峰であったがこの世界では違うか……?
「…………ただ、ペットを買うとしたら適性が低くても魔獣の方がいいわよ。小さい魔獣であればあるほど長生きするもの。このチワワの場合は普通は20ぐらいだとしたら……40年ぐらい生きられるんじゃない? まっ、小さい魔獣ほどレアで高価なのが問題だけど」
…………は?
なんだと? 私は耳を疑った。人間以外の動物が魔法が使えるからと言って小さければ小さいほど長生きするというようなことは私の世界では決して無かったからだ。一体どうゆうことなのだろうか? ……世界のルールがまず違う? いや、私が普通に魔法が使えることをなどから考えるとルールが違うということはあまり考えられない
「……っあ、別に人間の場合は魔法が使えようが使えないがあまり変わらないわよ」
というか、そうなると私の寿命はもっと長くなるわけか?神田は小さければ小さいほど寿命が伸びると言った……つまり私は少なくとも40年以上生きられるということか?。
「先生、一つ質問いいですか?」
ここで結衣の隣に立っていたムーアが口を開いた。
「いいよ、何?」
「長生きするってその生物の本来の寿命とか関係無いのですか?」
「そうね、例えるのなら生まれて1ヶ月で死ぬ動物も300年生きる動物もサイズが同じだったのなら魔獣である時点で同じ寿命、50年だとしたらそれになるわ」
「そうですか、ありがとうございます」
魔力と体の大きさで寿命が変化する? なぜ? だが、私の寿命が一年で終わらないとするならば不死になる方法を探る時間が生まれる。
待てよ。体を小さくしたら寿命が伸びるのなら同化をしている間の私は限りなく小さいということにならないか? 私も永遠と同化をしてみたことがないので分からないが、もし体が小さくして寿命がのびるのならばこれをすることで私は死ぬことが無くなる。今すぐに試してみたいと思うが、流石にずっと何もせずに岩や木の中に入って時を待つのも苦痛である。
人の体に入って操ることも出来るにはできるが、操られた奴の意識までは奪えない。ストレスで死ぬこともあるだろう。
ちょうどいい死体か、…………動物? 私はそこで先程のチワワを見た。人間ならば行動が変わったりしたら怪しまれるだろうが、チワワなら問題にはならない……か? ちょうど結衣たちに知能が高いことがバレ始めたみたいだし、ここら辺で離れたいが突然ねずみが消えたら消えたで騒ぎになってしまう…………運良く死ぬような出来事があれば結衣から手放され、騒ぎにならないかもしれない。だが、そんな都合のいいことは起こらない。
「じゃ次はあなたたちの番よ、とりあえず最初に使ってみましょう。」
神田はいまだに座って待っていたチワワをカゴの中に入れながら言った。
「それぞれ目の前に適性の高い魔法陣が表示されていると思うけど、それをまず目に焼き付けといて」
結衣たちを見ると皆一点を見つめたままでいた。私が教室で見たような魔法陣が目の前に表示されているのであろう。そしてしばらく時間が立つと生徒の目の前に一つ、また一つと球が浮かび始めた。
「……うんうん、とりあえず問題はないみたいね」
結衣の目の前もまた光の球が浮かんでた。だが、彼女の笑顔は周りと比べるとどこか悲しそうな笑顔であった。光か。
「中院さん、見てみて! 私の球黒い!」
結衣が自分の出した光の球を眺めていると伊藤が絡んできた。黒い球ってことは伊藤は闇か
「っあ、中院さんは光なんだね」
「うん」
伊藤は会話しながら自分の球を結衣の球の隣に並べた。
「……なんか光と闇が揃うとかっこいい感じがするね」
「ふっ……そうだね」
気が付くと結衣の表情はいつも通りのものとなっていた。
「ちなみに僕は水だよ」
ムーアはやはり水適性高いようで水の球を浮かばせていた。
「はい、じゃみんな覚えてね。それは球を出す魔法陣だから、次はそれを限界までそれを遠くに飛ばしてみて」
皆、それぞれ魔法陣を手元から離し、遠くにやるがその距離は体から6〜8メートルほどであった。
「それがあなたたちが精密にコントロールできる限界。これ以上は飛ばしたりしないと届かないわ。……こうゆう風にね」
神田は目の前に魔法陣を出し、それに伴って現れた風の球を遠くのグランドの地面に撃ちつけた。
「おーー」
「「……」」
生徒たちと伊藤は驚いていたが、結衣とムーアは特別驚くことはなかった……明人もこの学園の制服を着ていたし、昔に見たことがあるのだろう。
「これは後々教えるとして、では魔法陣がなぜ想像しただけで出るのか。について説明するね」
こめかみを指しながら神田は言葉を続けた。すると大きい画面が神田の後ろに出現し、話の内容に合わせて変化していった。
「まず、空気中に魔力は漂っていて、それはたとえ真空状態にしたとしても魔力は残っている。ただ重力には影響されるようで宇宙空間には存在しないことはわかっている」
箱の中に魔力と酸素や窒素が書かれた球が浮いていて、機械に酸素や窒素は吸い出されたが魔力は微動だにしていなかった。
「そして、重力以外で魔力を電気信号のように頭で使える人があなたたちよ。それぞれ火やら水やら使えるものが違うのはDNAの問題だったりすると思われるわ」
魔力は暗ければ暗いほどそちら側に行くはずじゃ? 宇宙というのは見たことがないが、ニュースなどを見るに少なくともここよりは暗いはず。ならばこちらではなく宇宙のほうに行ってもおかしくは無いと思うが、重力というのはそこまでに強い力なのだろうか。
考えていると何やら音が聞こえ。見ると校舎の方から無数の小型ドローンたちが飛んできてそれぞれ生徒の上に止まった。
「っあ、ちょうどいい時間だし。もう教室に戻ってもいいわよ。じゃまた三限にねー」
校舎の方に歩き出し、後ろ姿で手を振りながらチワワが入ったケースを持って神田は戻って行った。 その上にもついて行くように1台のドローンが一緒に飛んでいく。そしてその後ろ姿を生徒たちが眺めていると突然雨が豪雨が降り始め、グランドを濡らしていく。
「中院さん、傘ドローンだよ! 傘ドローン! すごいね!!」
「移動用があるんだから別に傘があってもおかしくないと思うけど……」
「移動用は前からあったけど傘は最近出たばっかりでどこも数が足りないって言われてるの! それがこんなにいっぱい用意しているなんて……!」
「へぇ……」
結衣は興味なさそうに頭上を飛んでいたドローンを見ていた
「財力があってのことだよね、学費は無いし、ほんとどこからこんなお金が出てくるんだろうね」
「各国からお金でも貰ってるとか?」
「それが妥当だと思うよ、なんせいろんな国の人がここに集まっているからね。それより戻ろ? 僕たちだけが取り残されてるよ」
周りを見てみるともうグランドには結衣達しか残っていなくて、皆校舎の方に歩き出していた。続くように結衣とムーアも校舎に向かって歩き出した。
ドローンを眺めていた伊藤を置いて。
「…………あっ! 待ってよー」




