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11.授業



 地下にあるレストランで伊藤と夕食を取った後、再び部屋に戻り、結衣はベットの上で寝っ転がりながら画面をタップして足をパタパタさせている。


「私のクラスはF-4かぁー、ペット連れて来た人は一緒に連れて来てくださいって何かするのかな? ……まいいや、アニメでも見よっと。っあ……きなこも一緒に観る?」


 私は反応こそしないがずっと結衣を見つめ、結衣はそれ肯定と受け取ったのか。虫かごから私を取り出し、一緒にベットの上でアニメを観てその日は終わる。

 

 翌日、早速結衣が着替え、ドローンにより運ばれてくる朝食を食べて学校に向かい歩き出した。学校に入るとまずホールが合って両脇にエスカレータがあり奥に10クラス、それが15階分ある感じだ。


「F-4は2階かー」


 エスカレーターを昇り教室に入り彼女の名前が書かれていた席を見つける。どうやらまたも伊藤は隣らしい。


「おはよう中院さん、また隣だねー」


「……おはよう、本当に単純な感じで決まってるみたいだね」


 結衣は私を机の上に置き、自分の席に腰を下ろす。


「それにしてもきなこって前から大人しいよね。ネズミってもっとチューチュー鳴くものかと思ってたー」


 伊藤は虫かごの中に入っている私を見ながら言ってきた。


「私も1回も鳴いた声聞いたことないもん」


「っえ、なんかの病気なの?」


「ううん、病院に連れてったけど特に病気も持ってないんだって」


「ふーん……そこまでいくと聞いてみたくなるよねー。こいつの鳴き声……特に病気もないなら持っても大丈夫なんだよね?」


 伊藤は虫かごをトントンしながら結衣に問いかけた。


「うん、大丈夫だよ」


「じゃちょっと持っていい?」


「いいよ」


 伊藤はふたを開け、私を片手で取り出し。両手で触り始めた。別にわざわざ鳴く必要もなかったから鳴いてこなかったが、ここで鳴くというのもそれはそれで怪しまれるような気がするので鳴きはしない。


「すごーい、全身触っても全然抵抗しないじゃん。でもここまで動かないとぬいぐるみと大差ないね……」


「そんなことない。ちょっと暖かい……それに食べ物を目の前に持っていくと動く」


 ……二人とも思ったことがすぐに口に出るタイプのようだ。


「へぇ……ちょっとクッキーあげてみてもいい? ちょうど朝ごはんについていたの持ってたんだ」


「別にいいよ」


 伊藤はローブのポケットからクッキーを取り出し4等分ぐらいに割り、ひとかけらを私の前に差し出してきた。私はそれを両手でつかみ口に運んだ。


「ガリガリ……モグモグモグ…………ガリガリ……モグモグモグ」


「……ねぇ、中院さん」


「何?」


「私ね……今初めてこいつのこと可愛いと思ったよ」


「……それまでは?」


「……ただのー……汚いドブネズミかなぁー」


「モグモグモグ……バリ……モグモグ……」


「へぇ……、じゃ私のことも汚いドブネズミペットにしてる変な人って感じだね」


「えへ……否定はしないかなー。…………でもうん、今変わったよ。こいつは結構かわいいね」


「……私は?」


「いや、中院さんはまだ変な人でしょ」


「そんなことない。私ほど常識を持った人はそういない」


「常識持った人が下着姿でドア開けないって……」


「ちゃんと羽織ってた」


「うんうん……そうだねー。あれはなかなかエロティックだったよ」


「パジャマもなかったし、あれで寝ようかなと思ってたところだったの。仕方ないの」


「っま、初日だから仕方ないもんね。ちゃんとパジャマ買った?」


「うん、今日届くと思う」


 私はとうに食べ終わり、伊藤の両手でぷにぷにされるだけだった。


「そっかそっかー、それにしてもネズミって尻尾が一番気持ち悪いポイントだよね。そこがハムスターと一番違うし」


「……そうだね」


「…………切っちゃう?」


「………………いや」


 結衣は貯めに貯めた後、否定した。長くてただただ邪魔なので正直私はどちらでもいいが。


「そこは即答してやろうよ可哀そうだよ」


 後ろに座っている赤髪の整った顔立ちの男の子が机から身を乗り出して話しかけてくる。


「あー、俺はムーア・エリアス。よろしくね」


「っあ、中院さん見て今度こそ外国人だよ!」


 伊藤が結衣の袖を引っ張りながら興奮気味に言う。


「……いや、名前からもう分かる」


「あはは……二人とも名前はなんていうの?」


「私は伊藤 香苗」


「中院 結衣」


「伊藤さんと中院さんね。 ところでそのネズミ僕にも触らせてもらえない?」


「……なんか一人称が俺だったり僕だったりするね」


「翻訳のミス?」


 翻訳? ムーアは言語が違うのか?


「あー、そうだった……」


 ムーアはこめかみに指を当ててから何やらいじり。再び会話に参加した。


「僕僕僕僕……どう? 僕になった?」


「うんうん、ちゃんとなったよ」


「でさ……僕もそのネズミモフりたいんだけどいいかな?」


「っあ、これ中院さんのペットだから……」

 

「触らせてもいいよ」


 伊藤は結衣の確認を取ってからムーアに渡した

 


「へぇ…………本当におとなしいね」



 伊藤の次はムーアにもみくちゃにされた。



「これクマネズミだよね」



「よく分かったね……」



「っあ、そうなんだ」



「実家がペットショップだったからちょっと詳しいんだ」


「へぇ……」


 結衣と伊藤の声がハモる。心底興味ないらしい。


「興味なさそうだね……」



「私はどうでもいいかなー」


 

「私も」



「っはは、二人ともバッサリ来るね」



「だってそんな明らか構ってほしそうな雰囲気出されても面倒だよ。ね? 中院さん」



「面倒くさかった」



「ふ……ふふ…………はっははは、あーーーあ、僕は二人のこと好きになったよ」



「おー、いきなり二股発言をしてくるね」



「クズ」


「はっははは。It's not LOVE, it's LIKE、自動翻訳はそこらへんがまだ駄目だよね」


「「知ってる」」



 ムーアがいきなり聞いたことない言葉をしゃべりだした。なるほど、普段は言語が変えられているような感じか。



「からかうねー、……っあ、ネズミは返すよ。もう授業もそろそろ始まるしね」


 ムーアは結衣に私を渡した。虫かごに入れるかと思ったが、そのまま机の上で私をぶにぶにしてくる。




 そしてチャイムが鳴り扉が開き、教師が入ってきた。



 「皆さんこんにちわ。今日からF-4のクラス担任になった神田(かんだ) 心春(こはる)です。 名前の通り日本人ですが、っま国なんて小っちゃいこと気にする人はいないよね。どの国だろうがある程度意味は通じちゃうしー」


 

 白衣を着た金髪ショートの女教師はそう言いながら教壇の上に座った。



「ひと昔前なら一人一人自己紹介してただろうけど、80人ぐらいいたらみんなも覚えていられないでしょ。というわけでみんなの画面に顔写真と国と名前、趣味それぞれ送っといたから見たかったら適当に見といてよ。……っあ、その間ペット連れて来ている人は私のところに来てー。えーと中院さんだけかな?」


「中院さん、がんばってー」

 

「んー……頑張ることなんてある?」


 隣の伊藤が結衣のことを応援し、結衣は私を手に持ったまま教壇の前まで行った。


「中院さんだね。よし、じゃ早速そのネズミを教壇の上に置いといてよ」


「うん、分かった」


 結衣は私を教壇の上に置いた。すると私の視界がガラリと変わり、黒い箱型の中にいて無数の小型サイズの魔法陣が辺り一面動き回っている。


「何したの?!」


 結衣の声だけが聴こえるって言うことは傍にいてこれは映像か何かか?


「別に魔法陣を見せてるだけよ。魔法が使える魔獣なら目に魔法陣の残像を残せば消した時に、魔法陣が起動して小さい球か何かが出てくるわ」


 私が魔法が使えるってことがバレてしまう……いや目を閉じればいいじゃないか。そう思い、目を閉じた瞬間。耳元に爆音がなり、とっさに飛び跳ね目を開けてしまった。この音は最初に街の道路に出たときに聴こえた奴と同じだ。


「なんで飛び跳ねたの? 傷つけないで!」


「目を閉じたから音をちょっと出して、驚かせただけよ。大した音量じゃないから気にすることじゃないわ」


 ――このくそが、平気でうそを吐いた。何が大したことないだ。鼓膜が破れるほどの大音量だ。というかこっちの姿はあっちに見えているわけか。まだ魔獣の定義が曖昧でよくわかっていない状態で魔獣だってバレるのはリスクがデカすぎる。

 

 アニメで見た馬鹿みたいに、あれ? やっちゃいました? で済むわけがない……


 こいつらの見たこともない魔法をうっかり使ってしまったら、高額で売却されるか、結衣を殺してでも奪い取られるかして、さんざん実験されたあと殺されるに決まっている。 


 知名度があるならまだいい、死んだら目立ってしまうからだ。


 だが秘匿されたこの島でそんな甘い思考は考えてはダメだ。もう好き勝手出来てしまう。なぜなら私ならそうするからだ。しかもたとえ逃げれたとしてもこの全てが記録される世界では逃げるのも容易ではない。ずっと監視されてるようなもんだ。


見ない方法。そういえば私目が悪かったので視力補助の魔法陣を目の後ろに入れている。これを応用し、光を認識しするところの魔法陣を少し変更し狂わせるだけで……全てが真っ暗になる。



「……急に動かなくなったわね」


「まだ? 先生」


「……うん、もう大丈夫でしょう。 これでだめだったら魔法の適性がないってことね」


「…………、何も起こらない」


 もう終わったのだろうか? 魔法陣を元の形に戻して周りの確認したが、先ほどの魔法陣が消えたようだ。


「残念だったわね、中院さん。この子は魔法が使えないただのネズミよ。もし魔獣が欲しかったら学園には魔獣のペットショップもあるからそこで値段は高いけど犬か猫でも買ってきたらどうかしら?」


 なかなかうまくいったようだ。しかし、魔獣のペットショップまであるとは。


「別にいらない。もう戻っていい?」


 結衣は少し機嫌が悪くなったようで教師を少しにらみつけていた。


「あーうん、もういいわ。一応ペットには検査させる義務があるのよ。恨まないでよ」


 結衣は私を抱き上げそそくさと席に戻る。しかし危なかった。もう少し遅かったら目に魔法陣の残像が残るところだった。


「中院さん、どうだった?」


 伊藤がそんなことを聞いてきた。


「見てなかったの?」


「中院さんがあっちに行ったらステンドガラスみたいに曇った壁が出てきたから全然中で何してたかわかんなかったよ」


「そう、きなこがいろいろいじめられた」


「え? 何かされたの?」


「きなこが見たこともないぐらい飛び跳ねてた」


「へぇ……この普段何されても抵抗しない子がね……それは結構だね」


「うん、あの先生嫌い」


「私も苦手かも……」


「あれは僕と同族のにおいがするんだよね」


 ムーアも途中から身を乗り出し話に参加しに来る。


「「同族?」」


「当たり障りのないことを言って明るくふるまうのさ。それだけでこの世の中何でも上手くいくんだ」


「それはまた、嫌な奴だねー」


「面倒くさ」


「だから、僕は君たちのことが好きなんだよ。君たち、知らない相手は傷つけていようがなんとも思ってないだろ?」


「そうだね、どうせ知らない人なんだし別にどうでもいいかなー」


「私は違う……」


「っあー……、うん。中院さんは知っていようが知っていないが傷つけていくんだろうね」


 ムーアが苦笑いしながら言う。


「そんなことない」


「いや……うん、まぁ……そうだね」


 そして諦めたかのように肯定する。伊藤もう結衣に慣れたかのように特に口を挟まないようだ。


「で? それがどうしたのー?」


「何も考えなくてもいい人ってのは貴重ってことさ」


「……馬鹿にしてる?」


「これはしてる」


「ふーん、っで? ムーアはあの先生が明るくふるまって、実は居酒屋とかに行くと悪口しか言わない女だってそう言いたいんだね」


 伊藤が教卓にいる先生を指さしてわざと聞こえるように大声で言ったようだ。


「いや違うよ、あの人の場合だけどたぶん吐き出すことなんてしてないんだと思うよ。だから優しくそして見透かしたようなことを言うとチョロっと行っちゃうのさ。 強がってるんじゃないとか適当な言葉を吐くチャラ男に惚れちゃって〜」


「…………あ゛の゛さぁ、 黙って聞いていれば随分好き放題言ってくれるじゃないか。Elias Moore くんたちよ」


「「え゛」」


 教壇の方を見てみると神田が物凄いニコニコしながらこちらを向きながら話してた。


「別にー、教師の悪口を話すのはいいんだけどさー。全部聴こえているからねーー」


 腕を組んで一見落ち着いているように見えるが、指に落ち着きがなく腕を結構な速さでトントンしていた。


「はは……どうです? 私合ってましたか? 先生」


 ムーアは全然びっくりしてないのかまだニコニコしながら問いかける。


「いいや、間違いだらけさ。」


「…………そうですか、僕は嫌いではないですよ。そうゆう分かりやすいの」


「っは、何を言う。君こそ分かりやすいな優男くん」

 

 なるほど、全部聞かれていたならばムーアが最も大きい的になれば結衣たちには被害が少なくなる。その為にさらに煽っているのか。それに声をかけられた時も一人だけ驚いていなかった。


「はぁ……まっ、今回は聞いてなかったことにしとくよ」


 神田はそういい、教壇から降りる。


「本当ですか? ありがとうございます」


 ムーアの声が聞こえているのか聞こえていないのか分からないが、神田は適当に手を振りながらそのまま教室を出ていく。

 

「おー、ムーアが先生に勝ったね」


「……怒られるかと思った」


「ヒヤヒヤしたよ。だって最初っから先生ずっとこっち見てたのに、二人とも悪口言い始めちゃうんだもん。生徒一人一人の会話内容ぐらい聞こうと思えば聞ける世の中だから、ちゃんと次からは気をつけてね」


 おでこを拭きながらムーアがゆっくり胸に手を当てながら息を吐いて、結衣たちに忠告する。


「「はーい」」


 二人とも特にムーアの言葉を気にすることもなく返事をし、こうして1限目は終わった。

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