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白銀のヒーローソウル【WEB版】  作者: 鴨山 兄助
幕間の物語Ⅱ

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PageEX06:無理しなくていいんだ

 フレイアと別れたレイは、オリーブのベッドへと足を運んでいた。


「おーいオリーブ、大丈夫か?」


 仕切りのカーテンを開けて、中にいる筈のオリーブに声をかける。

 しかし、ベッドの上に患者の姿はなかった。

 居るのは四人の子供たち。オリーブの姉弟達だ。


「なんだよ、ちびっ子どもしか居ねーのか?」

「あ、レイ兄ちゃんだ」

「よぉコウル。元気してるか?」


 一番最初にレイの存在に気がついたのはコウル。

 以前レイが助けた子供にして、オリーブの弟だ。


「あー! レイ兄ちゃんまた怪我してるー!」

「してるー!」

「アリス姉ちゃんに怒られてそー!」

「そー!」

「やめろやめろ。今回は俺もダメージがデカいんだ」


 無邪気にレイを弄るのは、小さな双子の姉弟。

 ライムとオレンジ。オリーブも手を焼いている悪戯好きの二人だ。

 手に持った棒でレイの身体を突いて遊んでくる。


「ギャス!? お前ら、怪我人には優しくしろ」

「レイ兄ちゃんはいつも怪我人じゃーん」

「じゃーん」

「畜生、なにも言い返せねぇ」

「こらー! ライム、オレンジ。レイお兄ちゃんが困ってるでしょ!」


 幼い叱責の声と共に。双子の頭に拳骨が落ちてくる。


「いたーい」

「たーい」

「もー。レイお兄ちゃん、大丈夫?」

「いてて、ありがとなチェリー」


 双子の首根っこを捕まえながら、レイを心配する少女。

 オードリー家の次女、チェリーである。

 オリーブが不在の時は、下の姉弟の面倒を見ているしっかり者である。


「なぁチェリー。オリーブは何処にいるんだ?」

「オリーブお姉ちゃんなら、広場に行ったよ。ゴーちゃんの様子を見に行くって」

「……そっか。ありがとな」


 ジャックの言葉を思い出す。

 フルカスの攻撃によるダメージが酷いのだろう。

 レイは微かに痛む身体を押して、広場へと足を運んだ。





 医務室の外にある広場。

 ここでは怪我をした魔獣が、救護術士の治療を受けている。

 何体かの魔獣の前を横切ると、見覚えのある黒い巨体の魔獣が現れた。

 オリーブの契約魔獣であるゴーレムだ。

 魔法鉱石でできた身体にはあちこちひびが入り、欠けている箇所もある。


「こりゃ酷いな……」


 身体の頑丈さで言えば、魔獣の中でも上位に食い込むゴーレム種。

 それがこうも大怪我を負っているという事実に、レイは異質なものを感じていた。

 魔獣がいるなら、契約者も近くにいる筈。レイが辺りを軽く見回せば、お目当ての人物はすぐに見つかった。


「そこに居たのか、オリーブ……と、マリーも一緒か」

「……あ、レイ君」

「レイさん。怪我の方は大丈夫なのですか?」

「それはこっちのセリフだよ。二人はどうなんだ?」


 オリーブ、マリー共に、頭や手首に包帯が巻かれている。

 救護術士の治癒魔法が効いているとはいえ、まだまだ傷は癒えきっていない。

 痛々しい傷跡が見えたようで、レイは少し目を逸らしたくなった。


「私達は大丈夫なんです……だけどゴーちゃん達が」

「ゴーレムの傷、そんなに酷いのか?」

「命に別状はないんです。だけどしばらくは鎧装獣化しちゃダメだって」

「そうか……」

「それよりも、マリーちゃんの方が……」


 オリーブは静かに目線をマリーに移す。

 マリーは何も言わず、顔を俯かせるばかりだった。

 何があったのだろうか。もしやと思い、レイがゴーレムの後ろを見てみる。

 するとそこにはマリーの契約魔獣ローレライの姿があった。

 複数の救護術士から治癒魔法をかけられているローレライ。その身体はあちこちに傷ができており、周辺は血で汚れていた。

 その壮絶な光景に、レイは一瞬言葉を失ってしまう。


「おい、マリー……あれ大丈夫なのか?」

「……命だけは辛うじて助かりました。今は回復待ちです」

「命は、か」


 苦虫を嚙み潰したような表情になるレイ。

 素人目で見ても、今のローレライに戦う力は残っていないだろう。

 鎧装獣化はおろか獣魂栞ソウルマークになる事も困難な筈だ。

 契約者であるマリーの心情は計り知れない。


「あのゲーティアの攻撃を受けた時に、ローレライが守ってくださったのです」

「それであのダメージを」

「わたくしが、もっとしっかりしていれば……」


 自分を責めるマリー。

 契約魔獣を傷つけるとは、操獣者にとって最も恥ずべき事の一つ。

 まして、ここまでの重症を負わせてしまったとなれば、マリーの自責も人一倍だろう。


 影が落ちる。

 マリーだけではない。オリーブの心にも深い影が落ちている。

 それを薄っすらと感じ取ったレイは、何と言葉をかけるべきか迷っていた。


「私達って、無力ですよね」

「オリーブ、それは……」

「新聞、見ました。みんな死んじゃったって」


 歯を噛み締める力が強まるレイ。

 脳裏に浮かぶのは、壊滅したブライトン公国の光景。そして、皇太子の遺体。

 救えなかったという事実が重く圧し掛かっているのは、オリーブやマリーも同じだった。


「レイ君。私達が出会った人たちは、生きてましたよね?」

「……あぁ」

「みんな生きてたのに、もういないんですよね」

「そうだな」

「嫌だなぁ……色々、やだなぁ」


 オリーブはその場に体育座りし、両膝に顔を埋める。

 嫌な気持ちは、レイも同じだった。

 負ける事も、仲間が傷つく事も、誰かが死ぬ事も……受け入れられるものは何も無い。

 それでも自分たちは、この感情を乗り越えねばならないという事を、レイは重々理解していた。

 とはいえ、いきなりそれを押し付けるのはあまりにも酷だ。

 レイはしゃがみ込み、オリーブに向き合う。


「俺がこう言うのもなんだけどさ……オリーブがそんなに気負う事はない。悪いのは全部ゲーティアの奴らなんだ」

「わかってます……わかってるんですけど……」


 自分の中で折り合いがつかないオリーブ。

 強い罪悪感と自責に飲み込まれかけている。


 そんなオリーブの頭を、レイは静かに撫でた。


「まぁ、いきなり折り合いはつかないよな」

「……レイさんは、これからどうするおつもりですか?」

「戦争、はじまるんですよね」


 弱々しく聞いてくる二人に、レイは自分とフレイア達は戦うつもりだと告げた。

 数秒の沈黙が広がる。


「なんと言いますか、フレイアさんらしい答えではありますね」

「あの、レイ君は……怖くないんですか?」

「……怖いさ。でもアイツらを放っておく方が、もっと怖い」

「レイ君は、強いですね」

「強くなんてないさ。何も守れなかったんだからな」


 再び沈黙。そして傷が痛む。

 痛みは心身に及び、フルカスとの戦いがフラッシュバックする。

 オリーブとマリーは微かに身体を震わせた。

 それが恐怖心からのものだという事を、レイは容易に察知できた。


「わたくしは……皆様と同じように戦えるか、わかりません」

「マリー……」

「ごめんなさい。私も、まだわからないです」


 戦意は無い。

 マリーに至っては震える腕を抑え込んでいる。

 心の傷はレイの想像以上に深いらしい。


「その、なんだ。無理に一緒に戦おうなんて言わない。今は全員傷を癒す事が最優先だからな」


 返事はない。

 あるのは無言の戸惑いと、震え。


「無理しなくていんだ。俺はただ、自分ができる事をしたいだけだからな」


 立ち上がる。

 ひとまず二人の無事を確認できて安心したレイは、その場を後にしようとする。


「二人はこれからどうしたいんだ?」

「私は、少し時間が欲しいです」


 小さく呟くオリーブ。一方のマリーは無言のままであった。

 答えが無くても、それを咎めるつもりは無い。

 これから先どのような答えが出ても、レイはそれを尊重するつもりだ。

 今はただ、時間が必要なだけ。


「オリーブも早く戻ってやれよ。ちびっ子たちが待ってるからな」

「……はい」


 か細く、力の無い返事。

 ひびだらけの心は、そう簡単には戻らない。


 二人の様子が心配だが、今はこれ以上踏み込むのも憚られる。

 どこか不安なものを抱きながら、レイは広場を後にした。





 医務室に戻ったレイは、同じく戻って来たフレイアと鉢会った。

 お互いに浮かない表情をしている。


「フレイア、ライラの方はどうだった?」

「レイの方は?」


 フレイアはライラの様子を、レイはオリーブとマリーの様子を伝えた。

 三人共、心身に大きなダメージを負っており、戦線復帰は難しそうだという事が共有された。

 医務室の真ん中で、レイとフレイアは難しい顔をする。


「どうする、フレイア」

「……とにかく今は、みんなが治るのを待とう」

「フレイア、もしもの時は――」

「わかってる。もしもの時は、戦える奴だけで戦おう」


 言葉面は強がっているフレイアだが、その声には些か力がこもっていなかった。

 二人揃って、ついつい最悪を想像してしまう。


「……なぁフレイア、戦えるか?」

「何度でも言ってやる。戦う」

「その心、折らないでくれよ」


 不安が混じるが、今はそう言うしかない。

 諸々の感情から逃れる為にも、今はできる事をしよう。

 レイは頭の中でフレイアの新しい剣の事を考え出すのだった。

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