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白銀のヒーローソウル【WEB版】  作者: 鴨山 兄助
第三章:巨人と騎士と宣戦布告

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Page75:黒騎士フルカス①

 ペンシルブレードを構えて、フレイアはフルカスを睨みつける。


「ゲーティアって事は、アンタもこの国に何かするつもりって認識でいいのかな?」

「答える義理は無い。俺はただ、自分の使命を全うするだけだ」


 素っ気無く返すフルカスに、フレイアは苛立ちを覚える。

 しかし相手は、あのガミジンと同じゲーティア。

 ここで放っておけば何をするか分からない。

 フレイア達が戦闘に突入するタイミングを見計らっている中、スレイプニルは小さな動揺を覚えていた。


『(なんだ……あれは……)』


 滲み出る邪悪さと、強者の威厳。

 戦騎王と呼ばれた獣だからこそ分かる、敵の厄介さ。

 だが一番の動揺はそこではない。


 漆黒の鎧に身を包んだ悪魔の姿。

 鎧から出ている、紫色のマントが邪悪さを際立たせているようにも見える。

 だが一番の特徴はなんと言っても、頭部から生えている一本角だろう。


 スレイプニルは、その鎧に既視感があった。


『(あの鎧、あの角……まさか、そんな筈はッ!?)』


 スレイプニルの中で疑惑が膨れ上がり、動揺を膨らませていく。

 その心の揺れは、変身しているレイにも伝わってきた。

 あのスレイプニルが動揺しているという事実に、レイも混乱するばかりだった。


 そんな中フルカスは、淡々とこちらを見定めてくる。


「一番強い者からこい。俺を楽しませてみろ」

「アンタの楽しみなんかどうでもいい。この国の人達に何かしようってんなら、倒すだけよ」

「ほう、威勢の良い娘だな。ならばお前からかかってこい」


 漆黒の鎧から、フルカスの殺気が溢れ出す。


「最初から本気でこい。指輪持ちの操獣者よ」

「後悔させてやるッ!」


 フルカスの殺気にてられたフレイアは、ペンシルブレードに獣魂栞ソウルマークを挿入した。


「インクチャージ!!!」


 ペンシルブレードに炎が纏わりつき、巨大な刃を形成していく。

 余波で、周囲が凄まじい熱気に包まれる。

 レイが新しく作った剣のおかげで、刀身が悲鳴を上げる事もなかった。


 一撃で終わらせる。

 フレイアはペンシルブレードを構えて、フルカスへと駆け出した。


 フルカスは棒立ちのまま。これは勝負あったか。

 誰もがそう考えていた。

 ただ一人、制止の声を上げた者を除いて……


『駄目だフレイア嬢ッ! その男に近づくなァァァ!』


 銀色の獣魂栞から声を張り上げるスレイプニル。

 突然の事に驚くレイ達であったが、時既に遅かった。

 必殺技の発動に入ったフレイアは止まらない。


「必殺! バイオレント・プロミネンス!!!」


 強力な炎の刃が振り下ろされる。

 今までこの技を防いだ者はいなかった。

 炎が迫ってきても避けるそぶりを見せないフルカス。

 ならば今までと同様、この一撃で倒せるだろう。


 フレイアはそう考えていた。

 だが直後、それは幻想であったと思い知らされる事となった。


――ガキンッ!――


「なっ!?」


 フルカスの行動は、誰しもの相続を軽く超えていた。

 フレイアの必殺技、無敵の炎の刃を、フルカスは片手で掴み取っていたのだ。

 あまりの出来事にチームの面々は言葉を失う。


「……なんだ、これは?」


 フレイアはペンシルブレードを抜こうとするが、フルカスの握力が強すぎて抜けない。

 そんなフレイアを、フルカスは静かに見下ろす。

 そしてその声色には、失望の感情が多分に含まれていた。


「俺は本気でこいと言ったのだぞ? なのに、なんだこれは?」


 失望は徐々に怒りへと変化する。

 ペンシルブレードを掴んでいる手にも、力が入っていく。


「断じてッ! このような稚技を見せろと言ったのではない!」


 フルカスは手に思いっきり力を込める。


――パリーン!――


「えっ?」


 無情な音と共に、フレイアのペンシルブレードは、粉々に砕け散ってしまった。

 必殺技を片手で受け止めてられて、剣を砕かれたフレイアは一瞬放心する。

 その一瞬が命取りであった。


『逃げろッ! フレイア嬢!』


 スレイプニルが叫ぶ。しかしフレイアの耳に届くのが少し遅かった。

 拳を握りしめたフルカスが、フレイアに狙いを定める。


「散れ」


 そう短く呟くと、フルカスは目にも止まらぬ速さで拳を叩き込んだ。

 凄まじい衝撃波を伴ってフレイアに打ち込まれた拳。

 回避する間もなかったフレイアは、そのまま近くの民家を次々に破りながら、吹き飛ばされてしまった。


「フレイアァァァ!」


 レイの叫びが夜の首都に響く。

 だが遠くに吹き飛ばされたフレイアから、返事は返ってこない。


「ガミジンを討ったというから期待していたのだが……拍子抜けだな」


 鎧越しに、フルカスはレイ達を見据える。


「次はお前達だ。本気でこい」


 再び放たれる殺気。

 その殺気に中てられて動いたのは、ジャックだった。


「このッ!」

「待てジャック! 迂闊に動くな!」


 レイの制止を聞き入れず、ジャックはフルカスへの攻撃を始めてしまう。


「捕縛しろ! グレイプニール!」


 固有魔法で生成された無数の鎖が、フルカス目掛けて放たれる。

 だがやはり、フルカスは避ける気配を見せない。

 されるがまま、鎖に縛られるフルカス。


「そのまま顔を穿ってやる!」


 固有魔法で一本の巨大な鎖を生成するジャック。

 躊躇う事なくそれを、フルカス目掛けて射出した。

 だが、猛スピードで迫り来る鎖を前に、フルカスは静かなものだった。


「脆い」


 小さな一言が聞こえてくる。

 次の瞬間、フルカスは自身を縛っていた鎖を易々と引きちぎった。力を込めた様子もない、ボロ布を破く様に容易そうに引きちぎった。

 想定外の展開にジャックは驚愕する。


「破ァ!」


 蹴撃一閃。

 眼前に迫ってきていた鎖を、フルカスはたった一発の蹴りで砕いてしまった。

 渾身の一撃を易々と無効化されて、呆然となるジャック。

 その隙をフルカスは逃さなかった。


「弱い」


 まるで最初から距離など無かったかのように、フルカスはジャックの眼前に迫っていた。

 そのまま容赦なく拳を振り下ろすフルカス。

 フレイアの時と同様、凄まじい衝撃波を伴って、ジャックは地面に叩きつけられてしまった。


「ジャック!」


 小さなクレーターが出来上がった地面。

 凄まじいダメージを受けたジャックは、変身が解除され、完全に気を失っていた。


「こんのーッ!」


 仲間を倒され、激情したライラがフルカスに攻撃を仕掛ける。

 固有魔法で生成した雷のクナイを、フルカスに向けようとするが……


「遅いな」


 超スピードで振り下ろしたクナイは空中を突き刺す。

 フルカスの姿が突然消えた。

 どこに消えたのか。ライラがそう考えるよりも早く、答えは現れた。


 背後に現れた殺気。

 咄嗟にライラは振り向くが、既に遅かった。


「破ァ!」


 フルカスの一撃が、無情にもライラに叩きつけられる。

 絶大な破壊力を伴った拳によって、ライラは地面に叩きつけられてしまった。

 声を出す間もなく、変身解除に追い込まれたライラ。

 クレーター状に砕けた地面の上で、気を失っていた。


「弱い、弱いぞ」


 苛立ちを隠そうともしないフルカス。

 次の獲物は誰だと振り向いたが、マリーの姿が見えなかった。

 直後、フルカスは背後に魔力の気配を感じ取った。


「後ろか!」

「正解ですわ!」


 クーゲルとシュライバーに魔力を込めて、必殺技の発動準備に入っているマリー。

 そしてフルカスの正面には、イレイザーパウンドを構えたオリーブがいた。


「インクチャージ! マリーちゃん!」

「二人同時の必殺技なら」


 イレイザーパウンドに黒い獣魂栞を挿入するオリーブ。

 二人は同時に必殺技を放ち、フルカスを倒そうとしていた。


「シュトゥルーム・ゲブリュール!」

「タイタン・スマッシャー!」


 魔力で出来た螺旋水流の砲撃。

 そして圧倒的な破壊力を込めた大槌による一撃。

 二人はフルカスを挟み込むように、それらを放った。

 だがフルカスに動揺はない。回避する素振りも見せない。


「少しは考えたようだが……無駄だ」


 フルカスは左手で障壁を展開し、マリーの攻撃を受け止める。そして右手で、イレイザーパウンドごとオリーブの攻撃を受け止めた。


「う、うそ!?」


 固有魔法で強化した一撃でさえ、容易く受け止められた事に、オリーブは驚く。

 だがそんな彼女の事などお構い無しに、フルカスは力任せにオリーブをマリーへと投げつけた。


「きゃぁぁぁ!」

「オリーブさん――きゃっ!」


 一瞬の隙ができてしまう二人。

 フルカスは容赦なく、二人の元へと接近した。


「まとめて散るがいい!」


 一撃を叩き込むフルカス。

 たった一発の拳で、オリーブとマリーは近くの民家を突き破りながら、吹き飛ばされてしまった。


「オリーブ……マリー」


 レイは目の前の光景が信じられなかった。

 あれだけの実力を持った仲間達が、こうも容易く撃破されていく事が中々理解できなかった。


「残るは……貴様達だけか」


 呆然とするレイに、フルカスはゆっくりと歩みを進める。

 レイは思考が停止していた。

 動かなくてはならないと理解していても、身体が言うことを聞いてくれなかった。


「レイ、逃げて」

「……ダメだ。アイツを放っておけない」


 戦わなくては。この悪魔を止めなくては。

 意思はある。だが身体が動かない。

 フルカスの持つ圧倒的な力を前に、レイは無意識的に怯んでいたのだ。

 そんなレイを逃そうと、アリスは魔法を発動する。


「コンフュージョン・カーテン! レイ今の内に――」

「この程度の幻覚で、俺が止められると思ったのか」


 アリスの幻覚魔法が込められた霧。

 それをものともせず、フルカスは迫ってきた。


 そこから先の出来事は、レイにはスローモーションに見えた。

 拳を握りしめたフルカスが、その拳をアリスに叩き込んだ。

 声を上げることもなく、近くの壁に叩きつけらるアリス。

 眩いミントグリーンの光が一瞬輝いて、アリスは強制的に変身を解除させられた。

 そのままアリスとロキは、ぐったりと地面に倒れ込んでしまう。


「アリス!」


 名前を叫ぶ、しかし返事はない。

 アリス達は完全に気を失っていた。


「あ……ぁ……」


 それは、ほんの数分にも満たない間での出来事だった。

 若き操獣者達の渾身の技は一切通用せず、傷一つ与えることができなかった。

 あまりにも実力差がありすぎた。

 目の前の悪魔は、想像を絶する強さを持っていた。


「全、滅……した」


 レイはその事実を理解した瞬間、恐怖を覚えた。

 目の前の敵に勝つ自分が、完全に見えなくなっていた。


「弱い……弱すぎるぞ」

『これは流石に期待外れだったね、フルカス』

「そうだな。剣を抜くまでもなかった」

『でも指輪を回収するなら、このくらい楽な方がいいんじゃないかい?』


 フルカスの中から、ケラケラと笑う声が聞こえる。

 彼の契約魔獣だろうか。

 だがその声を聞いた瞬間、スレイプニルの様子は大きく変わった。


『その声と気配。そしてその鎧……まさかとは思ったが、やはり貴様だったのか!』

『アハハ。やっと僕に気がついたんだね』

『戯れるな! これはどういう事か説明しろ!』


 スレイプニルの怒号が辺りに響き渡る。

 それは、レイが今まで見たことの無かった、スレイプニルの怒りだった。


『そこに居るのだろう! 答えろ! グラニ!!!』


 スレイプニルがその名前を叫んだ瞬間。

 目には見えなくとも、レイはフルカスの中で何かが笑ったように感じた。

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