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白銀のヒーローソウル【WEB版】  作者: 鴨山 兄助
第三章:巨人と騎士と宣戦布告

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Page74:未来を夢見て

 ブライトン公国からゲーティアは去った。

 失った者、傷ついた物は決して少なくはない。

 だが、宮殿の中にも、首都の中にも彼らの姿は無かった。


 それでもレイ達は念を入れて、宮殿内や首都の中を隈なく調べ上げた。

 ゲーティアの悪魔は姿を消し、あれだけ居たボーツも綺麗さっぱり姿を消していた。

 ゲーティアの誰かが回収でもしたのだろうか。

 ライラとガルーダの魔法も使って、首都全体を調べる。

 やはりもう、敵の姿は見えない。

 これはもう完全に去ったのだろうと確信したフレイア達は、一先ず胸を撫でおろすのだった。


 一方、レイとジャックは些か引っかかりを感じていた。


「……ジャック」

「うん」

「本当にアイツら、逃げたと思うか?」

「どうだろう。少なくとも僕は、そう簡単に逃げるような連中じゃないと思うな」

「だよなぁ……」


 調査の帰り道に、レイとジャックが交わす言葉。

 一国を乗っ取るという、壮大な計画を実行に移すような者達が、こうもあっさり獲物を捨てるのは不自然に思えた。

 もっと何か反撃が来てもおかしくはないのに、今は異様に静かだ。

 そしてレイには、もう一つ気になっている事もあった。


「(あのザガンって奴が言ってた言葉……)」


 最後に絶望するのは貴方達。

 ただの負け惜しみか、それとも何かの罠か。

 レイはその言葉の真意を理解しかねていた。


「二人とも、なーに難しい顔してんの!」


 一仕事終えた明るさで、フレイアが絡んでくる。


「いや、色々と気になる事が――」

「レイは難しく考えすぎ」

「そうッスよ。これだけ探しても居ないんだったら、きっともう逃げてるッス」

「……そうだと良いんだけどな」


 確かにライラの言う通りでもあった。

 彼女は固有魔法で首都と宮殿を隅の隅まで調べ尽くしている。

 どこかに隠れていれば既に見つかっている筈だ。


「(とは言っても、あの空間の裂け目に逃げられた場合はどうなるか、まったく分からないんだけど)」


 レイが一番懸念している事だった。

 現状、あの空間の裂け目は完全に正体不明。

 対策も何も思いつかない状態だ。


「(まぁ今は……二度と出てこない事を祈るか)」


 少なくとも今は、奴らが去った事を祝おう。

 そう前向きに考えながら、レイは宮殿へと戻っていった。





 宮殿に戻ると、広間には大勢の人が集められていた。

 魔僕呪中毒になった首都の住民達である。

 ジョージ皇太子、そしてオリーブとマリーが集めてきたのだ。

 集められた住民には、アリスが治療魔法をかけている。


 広間の人々を見て、フレイアは思わず息を漏らす。


「ふぁぁ~、凄い数の人ね」

「だけど言い換えれば、この広間に収まる程度の人しかいないって事だ」


 レイに指摘されると、フレイアの中で見方が変わる。

 広間の人の数では、せいぜい少し大きな村程度しかない。

 ここに集まれなかった人は既に事切れていたか、ボーツに喰われたかだろう。


「これしか、生き残ってなかったんスね」


 ライラが切なげな声を漏らす。

 その感情はレイ達も同じだった。


「違うよ。こんなにも生き残ってくれたんだ」


 奥で昏睡した住民を看ていたジョージがこちらに来る。


「確かに死んでしまった民は多い。だが決して根絶やしにされた訳ではない」

「皇太子様」

「民が一人でも生きているなら、為政者である僕に役目はある。そうだろう、レイ・クロウリー君」

「……そうですね」


 ジョージは広場に横たわっている住民達を見渡す。


「まだ滅んでないさ。彼らが生きている限り、まだこの国は死んではいない」


 その声色には、決意が込められていた。

 その瞳には、未来への生が燃え滾っていた。


「長い、長い道のりになるとは思う。だけど僕は必ず、彼らを治療して、この国を未来に繋げるよ」


 国の再興を誓うジョージ。

 そんな彼の背中を見て、レイは少し安心感を覚えた。


「レッドフレアの皆、本当にありがとう。僕だけだったら、きっとここまでは来れなかった」

「良いって事ですよ、皇太子さん。困っている人を助けるのが、ヒーローの仕事なんだから」

「……俺は、礼を言われるような事はできなかった」


 俯き気味に、レイは言葉を紡ぐ。


「結局ザガンの奴には逃げられた。元凶を倒せた訳でもない。殆どなにもできなかったですよ」

「だけど君達がいなければ、今頃この国は本当に滅んでいた。十分胸を張って良いと思うよ。それにもう、ゲーティアの悪魔達の姿は無いのだろう? きっと大丈夫さ」

「……だと良いんですけどね」


 活躍は認められたものの、レイの中ではモヤモヤしたものが残ってしまう。

 理想が高過ぎると言えばそこまでだが、目指す背中はまだまだ遠いのだ。

 急いてしまう自分に、レイは少し嫌悪感を抱いてしまう。


「大丈夫だ、ここから先は僕達自身の手で国を守っていくよ。たとえ最後に滅びが待っていようとも、その瞬間が来るまで足掻き続けてやるさ」

「でも、またゲーティアが襲ってきたら……」


 オリーブが不安げな声を出すと、ジョージは少し笑いながらこう言った。


「そうだな。その時はまた、君達に助けて貰おうかな」

「言われなくても! 叫んでさえくれれば、アタシ達は何時でも助けにくるよ!」

「本当に、頼もしい操獣者達だ」


 それから数時間後。

 アリスが住民達の治療を終えた後、レイ達は宮殿を後にする事にした。

 今ここに残っていても、できる事は何も無い。

 一先ずの平穏が訪れたので、大人しく帰る事にしたのだ。





 誰も居なくなった首都の道。

 空には無数の星が輝いていた。


「もうこんな時間か。今から魔獣に乗って帰るのも辛いな」

「じゃあ何処かで野宿でもしてから帰る?」


 フレイアが気軽に野宿を提案してくるが、レイは苦い顔しかできなかった。

 もしそうなれば、晩飯がアリス担当になりそうだからだ。

 特にサンドイッチだけは避けたい。そして想像もしたくない。

 舌の上に味が再現され始めたレイは、すぐにでも話題を変えたくなった。


「そういえばフレイア、少し気になったんだけどさ」

「なに?」

「あの合体魔獣、(ブイ)キマイラの合成獣キマイラは分かるんだけどさ。Vってどういう意味なんだ?」


 本当に素朴な疑問だった。


「五体合体、だからV! カッコイイでしょ!」

「想像以上にしょうもない理由だったな」

「せめて勝利ビクトリーのVと言ってくださいまし」


 マリーが呆れながら、額を抑える。

 どうやら命名者はフレイアらしい。


 そんな他愛のない話をしていると、レイの心も少し軽くなった感じがした。

 ずっと悲観していたのだ。この国の事を。

 ジョージ皇太子は前向きに進もうとしていたが、おそらくこの国の未来は……。


「レイ、あんまり背負い過ぎないでね」

「アリス……」

「アリス達にできる事から始めよう」

「……そうだな」


 アリスに諭されて、少し落ち着きを取り戻したレイ。

 そうだ、まだできる事はある。

 とりあえずは、ギルドに戻ったら今回の事を報告しよう。

 きっとギルド長が問題にして、何か動いてくれる筈だ。

 その為にも、早くセイラムシティに戻ろう、

 レイがフレイア達に、それを提案しようとした……その時だった。


「ん?」


 夜更けの道。もうレイ達意外に誰も居ない筈の首都。

 そこに現れたのは、一つの人影。

 レイ達の前に忽然と現れたその影は、身長二メートルくらいの、大柄なシルエット。腰には剣らしき何かを携えている。


「旅人……それとも、生き残りか?」


 もしも生き残りだったら奇跡だ。

 レイ達の中に微かな希望が生まれる。


「おーい、アンター!」


 フレイアは希望を持って、その人影に声をかける。

 人影は静かに、こちらに近づいて来た。

 月の光に照らし出されて、人影はその全容が明らかになってくる。


「……あの男の人って」


 オリーブ、そしてレイは、その男に見覚えがあった。

 黒い剣を携えて、紋入りのマントを羽織った、四十代くらいの男。

 最初は気のせいかと思ったが、近づくにつれて確信を得た、

 間違いない、バミューダシティで出会ったあの男だ。


「あれ? レイとオリーブの知り合い?」

「いや、知り合いっていうか……何というか?」


 バミューダですれ違った程度の相手なので上手く表現しにくい。

 レイが口をもごもごさせていると、男は急に立ち止まった。


 男は静かに、レイ達を見つめる。


「ふむ、これは僥倖だな。目当ての者にまとめて会えるとは」


 顎鬚を弄りながら、男が呟く。

 男はこの国の者なのだろうか。

 それにしては雰囲気が異様な気もする。


『レイ、気をつけろ。嫌な予感がする』

「どうしたんだ、スレイプニル」

『あの男、何か異質だ』


 スレイプニルが警鐘を鳴らすので、レイは少し身構えた。

 あの王獣が警戒する程の相手、尋常ではない。


「ほう、既に警戒を促すか……流石は戦騎王といったところだな」


 男は口の端を吊り上げ、笑う。

 その直後だった。


――ゾワリ!――


 辺り一帯を、冷たさと鋭さを伴った気が支配する。

 殺気だった。

 強烈な殺気を当てられたレイ達は、咄嗟にグリモリーダーと獣魂栞を構える。


「アンタ、何者?」


 フレイアは男を睨みつけて問う。


「俺の名はフルカス。ゲーティアに仕える騎士だ」


 ゲーティア。その言葉を聞いた瞬間、全員目の前にいる男を敵と判断した。


「みんな!」

「言われなくてもッス!」


 一斉にCode解放を宣言し、獣魂栞をグリモリーダーに挿入する。


「「「クロス・モーフィング!!!」」」


 魔装、一斉変身。

 魔装に身を包んだ七人は、武器を構えてフルカスと対峙した。

 それを見たフルカスは、更に喜々とした様子を晒す。


「そうだ、そうこなくてはな」


 フルカスは懐からダークドライバーを取り出し、黒炎を点火する。


「トランス・モーフィングッ!」


 呪文を唱えると同時に、黒炎がフルカスの全身を包み込んだ。

 邪悪な炎の中で、身体が余さず作り変えられる。

 そしてその上に、漆黒の鎧が形成されていく。


「ハァッッッ!!!」


 腕を振り、炎をはらう。


 それは、闇を彷彿とさせる鎧だった。

 その姿は、歴戦の勇士のようにも見えた。

 そしてその姿は、邪悪に魂を売った悪魔でもあった。


 邪悪な騎士が、夜の首都に姿を現した。


 変身したフルカスは、指を動かしてレイ達を挑発する。


「さて、どれだけ俺を楽しませてくれる?」

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