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白銀のヒーローソウル【WEB版】  作者: 鴨山 兄助
第三章:巨人と騎士と宣戦布告

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Page67:宮殿にて悪意は蠢く

 ブライトン公国宮殿。

 そこは弱小国とは言えど、優美さと高貴さを兼ね備えた内装をしていた。

 だがそれも、今となっては過去の話。

 王宮内を彩っていた調度品は無残に崩れ落ち、彫刻を施されていた壁や柱は見る影も無くなっている。

 中を蔓延るのは灰色の人型、ボーツ達だ。


 そんな血と破壊の匂いが漂う中に、フルカスとガミジンは居た。


「全く、最初から素直に差し出せば良いものを……」


 蛇の悪魔に変身しているガミジン。

 その手にはダークドライバーが握られており、足元には絶命した人間が何人も転がっていた。

 豪華な服に身を包んだ死体達。

 それはかつて、ブライトン公国の大臣達だったものである。


「最期まで魔僕呪まぼくじゅに縋りついていたな……愚かな。貰い物の力で、神にでもなったつもりだったのか?」


 ギシギシと鎧を鳴らしながら、フルカスは圧倒的脚力をもって、死体を踏みつぶす。

 その様子に感情は何も含まれていない。邪魔な雑草を踏みつぶすように、淡々としたものだった。


 ここは宮殿内にある隠し倉庫。

 大臣達が魔僕呪の原液を保管していた場所である。

 実際二人の目の前には、魔僕呪の原液が積められた瓶や大樽がいくつも在った。


「これがザガンの言っていた魔僕呪だな」


 ガミジンはそう言うと、近くにあった瓶の蓋を開けて中身を確認する。

 中には、禍々しい何かを放つどす黒い粘液が詰まっていた。

 間違いない、魔僕呪の原液だ。

 ガミジンは持参してきた麻袋に、瓶詰の魔僕呪を入れていく。


「ザガンの奴め、私を使いっ走りにしおって!」


 文句を言いながらも、魔僕呪の回収を続けるガミジン。

 誰かの使い走りにされるのはこの上なく癪だが、ここで何か変な気を起こしても自分が処分されるのが落ちだ。監視のフルカスも居る。

 逃げられない状況に怒りを溜めながらも、ガミジンは自らの仕事をこなしていた。


「この鬱憤必ずッ、必ず晴らしてやるぞ!」


 手を動かしながらも、この先の事を考えて下卑た笑みを浮かべるガミジン。

 ザガンと陛下からお墨付きを貰った虐殺。

 ガミジンはそれを早く実行に移したくてうずうずしていた。


「……俗物が」


 そんなガミジンの様子を見て、フルカスは小さく呟く。

 ゲーティアの悪魔に、特別仲間意識などは無い。

 あるのは陛下への忠誠心。もしくは底なしの欲望である。

 フルカスは前者であり、後者の類を心底嫌っていた。


 作業を続けるガミジンを見張りながら、フルカスは周囲の気配を探る。

 その範囲は広く、宮殿の外にまで伸びていた。

 フルカスの探知に入るのは、自分達が解き放ったボーツの大群。

 そしてボーツに捕食されている宮殿の人間たち。

 外の気配は……


「これは……」


 宮殿の外から、何やら大きな魔力の気配を感じ取ったフルカス。

 一度隠し倉庫から離れて、最寄りの大窓から外を見た。

 視界に映ったのは、巨大な鳥型の鎧装獣。


「ふむ、斥候か」


 こちらを注視する鎧装獣を見てそう判断するフルカス。

 だがこちらの姿が確認される心配は無い。

 何故ならあらかじめ宮殿内に撒いておいた魔僕呪原液が、魔法による探査を妨害してくれているからだ。

 だがそれだけでは、宮殿内に問題が発生している事がバレるのも時間の問題だろう。


『ハハッ。いいねぇ、いい気配だよ』

「グラニ、何か探り当てたのか」

『王の気配がする。僕の血を分けた兄弟の気配が!』

「戦騎王か……面白い」


 鎧の中でニヤリと笑みを浮かべるフルカス。

 まだ見ぬ強者に好奇心が抑えられないのだ。

 しかし、それはそれとして。


「戦騎王の契約者が来ているという事は、その仲間も一緒だろうな……ふむ」


 ここは一つ、譲ってみるか。

 そう考えたフルカスは、再び隠し倉庫へと足を運んだ。


 隠し倉庫の中では、作業が大詰めに入っていた。

 ガミジンが空間を斬り裂いて、大樽を裏世界に運び終えようとしていた。


「あぁ、騎士殿。何か問題でもあったか?」

「操獣者の群れが、こちらを探っていた。恐らくバミューダで交戦した者達だろう」

「なんだとッ!?」


 勢いよく振り向いたガミジン。

 その瞳には憎悪が浮かんでいた。


「あの忌々しいわっぱ共が来たのか……それは行幸よ。バミューダでの借り、耳を揃えて返してもらおうかッ!」 


 バミューダシティでの戦いを思い出したのか、ガミジンは憎しみの炎を燃やしながらも、喜々としていた。

 そんな彼の様子を見てフルカスは「単純な男だ」と少々呆れる。


「ガミジン。あの操獣者共と交戦するか?」

「当然だ。奴らは私の手で殺さねば気がすまん!」

「ならば……これを渡しておこう」


 そう言うとフルカスは、小さな樽を一つ投げて寄越した。

 上手くキャッチしたガミジン。だが手にした瞬間、それが何なのかを察知して顔を青く染め上げた。


「こ、これは……」


 魔僕呪の原液。

 恐らくザガンがフルカスに託した物だろう。

 だが問題はそこではない。

 これを渡されたという事、それは一種の最後通告でもあった。


「解っているなガミジン。ソレを使ってでも奴らを仕留めろ」

「し、しかし、これは――」

「ゲーティアと陛下に忠義を見せぬつもりか?」


 鎧越しにどす黒い殺気を放つフルカス。

 ゲーティアに逆らう者は許さない。それが彼の騎士としての信念であった。

 フルカスの殺気をまともに浴びたガミジンは、思わずひるんでしまう。


「どうなのだ、ガミジン?」

「わ、わかっている。私は陛下に忠義を尽くすつもりだッ」

「なら良い。直に奴らはこの宮殿にくるだろう。その時確実に仕留めろ」


 念入りに釘を刺すフルカス。

 ようやく収まった殺気に、ガミジンは安堵の息を漏らした。

 だがもう後は無い。

 ガミジンは手にした魔僕呪に視線を落とす。


「(あの童共を殺すか、はたまた私が死ぬか。道は二つに一つッ!)」


 ガミジンは己の死を認めない。

 そして己の失墜も認めない。

 ならば選ぶべき道は唯一つ。


「見ていろ童共……最後に笑うのは、この私だッ!」


 復讐に燃えるガミジン。

 フルカスは足元に転がる死体を踏みつけながら、それを傍観していた。


「(底なしの欲望で、己の器量さえ見誤る……所詮奴もこの死体共と同類か)」


 目先の力に惑わされ、その欲望を無限に膨らませた為政者達。

 その死体をガミジンを重ね合わせて、フルカスは静かに嘲笑していた。

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