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白銀のヒーローソウル【WEB版】  作者: 鴨山 兄助
第二章:彷徨う少女の歌声

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Page60:それからどうなった?

 天に昇る魂を見届けた後、レイ達はバミューダの街へと戻った。

 その頃には幽霊もボーツの姿もなく、既に事後処理が始まっていた。

 後でフレイア達に聞いたところ、レイ達が幽霊船を撃破した直後に、街を彷徨っていた幽霊は全て姿を消してしまったらしい。

 ただしボーツは街に残っていたのだが、フレイア達が猛スピードで街中を駆け巡り一体残らず撃破。レイ達が戻って来た頃にはきれいさっぱりと言うわけだ。


 幽霊船を撃破した事で、幽霊に魂を狩られた人達も無事に生き返った。

 しかし戻ったのはあくまで帰るべき肉体が残っていた人々だけ。

 数年単位で行われていたガミジンの狩りで、戻ってこれなかった犠牲者の方が圧倒的に多かった。

 それでも街の人々は、幽霊船を撃退してくれたという事で、レイ達に感謝の言葉を述べていた。


 そして翌朝。

 バミューダの海に魔力インクは浮かんでいなかった。

 幽霊船が消えた以上、近隣の魔獣達が人間に警告をする必要はのうない。

 海があるべき姿を取り戻した事で、港に停泊していた船達は一斉に目的地へと舵を切って行った。


 これで全てが解決したと、バミューダの市長からは号泣しながら感謝されたレイ達。

 これにて一件落着。

 あとはセイラムに戻るだけ……なのだが、レイは市長に頼み込んで()()()を貰った後、街の端にある浜辺へと足を運んだ。

 目的地は今回の事件で出会った老人、ルドルフの家である。


 浜辺から比較的近しい場所に建っている家。

 レイとアリスは軽く扉をノックした。


――ガチャリ――


「なんじゃ、お前さんらか」

「こんにちは」

「よっ爺さん。昨日は大丈夫だったか」

「あぁ、ずっと家に籠っておったからな。それより聞いたぞ。あの幽霊船を倒したらしいな」

「……あぁ。でも俺達だけじゃ絶対に倒せなかった。爺さんの研究があったから戦えたんだ」

「あんなものでも、役に立つ事があるもんなんじゃな」

「あんなもの、なんかじゃないですよ」


 レイははっきりとした口調で返す。


「爺さんの研究があったから、水鱗王は街を守れた。爺さんが霊体研究をしていなかったら、俺達はきっと間に合わなかった。ルドルフ教授、貴方の研究は間違いなく偉大な研究ですよ」

「誰かの命を救えた。だったらそれは外道の学問なんかじゃない」

「……そうか」


 ルドルフは小さく、そして優しく微笑んだ。

 長らく背負っていた肩の荷が下りたのだろう。

 その目からは一筋の涙が走っていた。


「なぁ、一つ聞いても良いかのう?」

「なんだ」

「お前さんはこの前、儂の息子家族について聞いてきおったな」

「……あぁ」

「教えてくれ。息子家族の魂は、ちゃんと解放されたのか」


 沈痛な面持ちで問いかけてくるルドルフ。

 だがそれに反してレイは、待ってましたと言わんばかりに口端を釣り上げた。


「そう言うと思ってたぜ。はい爺さん」

「ん……なんじゃこれは」


 レイがルドルフに手渡した物。

 それは銀色の魔力が薄く塗られた一枚のガラス板であった。

 更にレイはルドルフの両耳にも魔力を塗り込む。


「息子家族がどうなったかって? じゃあそれ、お孫さんから直接教えてもらいな」

「……まさか」

「ロキ、口を開けて」


 アリスに抱きかかえられていたロキは、口を大きく開く。

 するとそこから、小さな光の玉がふよふよと飛んできた。


「幽霊船を倒した後に、その子からお願いされたの」

「おじいちゃんに会いたいってさ」

「おぉ、おぉぉ……」


 ルドルフの視線の先。

 そこには金色の髪を三つ編みにした幼い少女。

 見間違える筈がない。五年前に亡くした孫娘、メアリーの姿がそこにはあった。


「メアリー、メアリーなのか……おぉ、すまない。儂は、なにもできんかった……」


 浮かぶ魂の前で懺悔をするルドルフ。

 レイとアリスは何も言わず、玄関扉の向こうへと下がった。

 僅かしかない二人の時間を、極力邪魔したくなかったのだ。


「そうか……そうか……父さん母さんは先に逝ったか……ありがとうな、メアリー。最期にお爺ちゃんに会いに来てくれて」


 メアリーの声はレイ達には聞こえていない。

 詳細な会話を盗み聞くような事をしたくないと言うレイの思いからであった。


 十数分が経った頃だろうか。

 家の中からルドルフの声が聞こえなくなった。

 二人が恐る恐る中を覗くと、そこには膝をついて泣くルドルフの姿があった。

 そしてレイとアリスは察した。メアリーが成仏した事を。


 レイは静かにルドルフの元へと歩み寄る。


「すいません。俺達に出来る事は、これが精一杯でした」

「何故謝る」

「……」

「人は神様ではない。死者を生き返らせる事など出来んのじゃよ。じゃが、死者を蘇らせたいという若い気持ちは痛いほど知っておる。儂もそうじゃった……」

「爺さんは、霊体研究で誰かに会いたかったのか?」

「あぁ……死んだ妻にな。皮肉なもんじゃの、妻の魂を現世に縛り付ける研究が、息子家族の魂を成仏させる事になってしまうとは」


 どこか自嘲気味に喋るルドルフに、レイは胸が締め付けられるのを感じる。


「お前さんが傷つく必要はない。むしろ胸をはってくれ」

「誇っていいのか、俺には分かりかねます」

「誇れる事じゃ。死者の魂を救うなんぞ、御伽噺の英雄ヒーローじゃないか」

「ヒーロー、か……」


 数瞬考え込んだ後、レイはルドルフに問いかけた。


「爺さん……爺さんは、これで良かったと思うか?」

「あぁ、そうじゃな。家族が苦しまんで済むなら、それに越したことはない。それにな……」

「それに?」

「これで儂も、やっと胸を張って、家族の墓参りができる」


 安心し、顔を緩ませるルドルフ。

 それを見たレイも、どこか心が軽くなるのを感じた。


「なぁ、セイラムの操獣者よ……名前を教えてくれんかの」


 顔を上げて聞いてくるルドルフに、レイは一瞬答え方を考える。

 そして……


「レイ・クロウリー。ただの魔武具整備士さ」


 レイのファミリーネームを聞いた瞬間、何かを察したルドルフは「そうか、そうか」と何度も頷いた。


「そうか、そういう事じゃったか。ありがとうな、二代目の少年」

「……まだ、程遠いですよ」


 だがそれでも、父親の背中に一歩前進できた実感を得られたレイ。

 むず痒くも、少し笑みが零れていた。





 その後すぐにセイラムに戻ったチーム:レッドフレアの面々。

 帰りの道中に、レイは今回の事件の顛末を紙にまとめ上げ、帰ってくるや否やすぐにギルド長に提出した。


 ギルド長の執務室。

 そこで報告書を読み上げるギルド長を、レイは緊張した面持ちで待っていた。


「ふむ……ふむ……なるほどのう」


 ペラペラと紙を捲る音が終わる。

 ギルド長は机に置いてあったキセルと一服すると、ため息交じりに煙を吐いた。


「これは中々、シビアな試験になったもんじゃのう」

「ミスタ・クロウリーの意地っ張りも、ここまでくれば尊敬に値します」

「全くじゃのう」


 ギルド長はレイの報告書とは別の紙を一枚取り上げる。

 依頼人であるバミューダシティの市長が書いた、依頼完了の証明書だ。


「難易度Aの依頼をよく完遂したものじゃ。これは文句なしに試験合格じゃな」

「その他必要な手続きは追って連絡します。それまではゆっくり休んでいてください」

「よっしゃ、合格!」


 レイは喜びのあまり大きくガッツポーズをする。

 これで正式にギルド所属の操獣者となったわけだ。


「しかし……ゲーティアか」

「ギルド長、何か知ってるんですか」

「噂程度にはな。各地の災禍に裏で関わっていると囁かれている闇の集団。それ以上の事は儂も知らん」

「しかしギルド長。ここまで表に出て来たのは始めての例では?」

「そうじゃな……ヴィオラ、上層部の者達に連絡じゃ。情報を集めて対策会議を開く」

「かしこまりました」


 ギルド長の命令を受けると、ヴィオラはすぐにグリモリーダーを操作して上層部に連絡を取り始めた。

 想像以上の大事になって、レイは少々腹を冷やす。


「それとなレイ。この魂を繋ぐ指輪というのなんじゃが」

「ギルド長は何か知りませんか?」

「うーむ、儂も長い事生きておるが……聞き覚えのあるような、ないような」


 「あてにならねーなこのジジイ」と、レイは心の中で悪態をつく。

 だがギルド長でもすぐに答えられないとなると、更に謎が深まってしまう。


「報告書に書かれた情報以外にはなにかないのかのう?」

「うーん、大体の事は報告書に書いた通りなんですけど……あっ、そういえば指輪に意識を向けると『鎧装獣』と『合体』って言葉がずっと頭に浮かんでくるんですよ。意味がわかりませんよね」


 あまりにも意味不明で報告書には書かなかった一節なのだが、『合体』の言葉を聞いた途端、ギルド長は顎鬚に手を当てて考え込んだ。


「合体……そうか、そういえば」

「あの、ギルド長?」

「レイ、その指輪の話を後でフレイア君にしてみるといい」

「フレイアにですか?」

「そうじゃ。きっと彼女が一番答えに近い筈じゃ」


 あのフレイアが一番近い、そう言わてもレイは訝し気な表情を浮かべるしか出来なかった。

 だが手掛かりが無い以上、とりあえず後で聞いてはみようと思う。


「まぁ何はともあれ、これで認定試験は終わりじゃ。レイも疲れただろう。家に戻ってゆっくり休むと良い」

「そうですね、そうさせて貰います……でもその前に!」


 威圧感を増し増しにしながら、レイは一枚の紙をギルド長の眼前につきつけた。

 まじまじと見るギルド長。それは今回の事件の依頼書であった。


「ギルド長? 依頼書の難易度ってミスが出ないように複数回チェックする筈ですよね?」

「そ、そうじゃな」

「そしてもしミスがあった場合、その責任は最後にチェックした人に行くんでしたよね?」

「そうじゃな。まったく、こんな凡ミスをしおって、けしからん奴じゃ」


 顔をしかめて怒るギルド長。

 だがギルド長のその様子を見る程に、レイの額には青筋が浮かび上がっていた。


「ギ・ル・ド・長? 最後にチェックした人のサイン見て下さい」

「おうおう、一体誰じゃ、こんな凡ミス……を、した……」

「どうしたんですか、俺が代わりに読み上げましょうか?」


 レイは依頼書をギルド長から引き離して、そのサインの主を読み上げる。


「最終チェック、()()()()()()()()()()()()()


 自身の名前が読み上げられて、ギルド長は一気に顔を青ざめさせる。

 汗も滝の様に流れ出始めた。


「いや、あの、これは、その……」

「ヴィオラさーん! このチェックの日付の日、ジジイは何してましたー!?」

「あぁ待て、レイ!」


 上層部への連絡を終えていたヴィオラは淡々と手帳を開き始めた。


「えぇと、その日のギルド長は……珍しく仕事を早く終えて、食堂の女子にちょっかいを出しに行ってますね」

「つまり……女の子にセクハラしたいが為に、適当な仕事をしたと?」


 レイの背中から凄まじい怒気が解放される。

 そのあまりのプレッシャーに、ギルド長もたじたじとなっていた。


「いや、あの、レイ。ワシの何時もの仕事っぷりは知っておるじゃろ? たまたまじゃ。その時たまたま」

「だがアンタのミスには変わりねぇよなァ、オイ!」

「ヒィ!?」


 凄まじい形相で睨みつけるレイ。

 ギルド長も思わず悲鳴が出てしまう。


「頼む、許して! 許して! なんでもするから!」

「あん? なんでも?」

「するする、なんでもするから!」


 それを聞いたレイは即座に、心底悪い笑みを浮かべた。


「じゃあギルド長。ここは大人らしく誠意を見せてもらいましょうか?」

「せ、誠意?」

「そうです!」


 そう言うとレイはポケットから一枚の紙を取り出して、ギルド長の顔にねじ込んだ。


「な、なんじゃこれ?」

「バミューダシティの市長さんから貰ってきた素敵なプレゼントです」


 顔についた皺だらけの紙を剥がして、内容を読むギルド長。


「えーっと、何々……教会の修繕費!?」

「今回の事件で俺らが壊しちゃった教会のやつです」

「ゼロが一、二、三、四……たくさん!?」

「ギルド長。謝罪代わりの支払い、お願いしまーす」

「いや待てレイ! これは流石に――」

「誠意見せるんじゃねーのか、オイ?」

「いやしかし……ヴィオラ!」


 涙目で秘書のヴィオラに助けを求めるギルド長。

 しかし現実は残酷なものである。


「まぁ、今回はギルド長が全面的に悪いですね」

「と言うわけでヴィオラさん。この支払い、全額ジジイにつけて構いませんよね?」

「……ま、ギルド長には丁度良いお灸でしょう」


 眼鏡の位置を直しながら、ヴィオラはやれやれとため息をつく。


「グ、グヌヌ……」

「言っておきますが、ギルドの予算から支払おうなんて思わないでくださいね。私が許可しませんので」

「ギクッ」

「更に付け加えれば私が監視していますので、支払いから逃げられるとは思わないでください」

「しょ、しょんなぁ」

「それじゃあ俺はこれで。ギルド長、耳揃えてちゃーんと払ってくださいね」


 ニヤニヤしながら、レイは軽く手を振って執務室を後にした。

 その直後、背後からはギルド長の悲痛な叫びが聞こえて来た。


「な、なんでこうなるんじゃァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!?」


「天罰だ、クソジジイ」


 その後しばらくの間、修繕費を自腹で払う為に、ヴィオラに監視されながら馬車馬の如く働くギルド長の姿が目撃されたとさ。













【第三章に続く】

第二章はこれにてお終い。

次回からは第三章……にはすぐに入らず、幕間の物語(要するに日常回)を数話やりたいと思います。

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