Page110:来航! ヒノワの戦士
戦乱の時代とはいえ、貿易が盛んな街。人々の活気は決して止まっていない。
そんなセイラムシティの港で、レイ達チーム:レッドフレアは待ちぼうけていた。
「で、いつ頃来るんだって?」
「お昼頃。船で来るから、正確な時間は分からない」
「だよなー」
頭の後ろで手を組みながら、レイはアリスの言葉を聞く。
かれこれ待ち続けて一時間。暇を持て余しているのだ。
レイは心の中で「こんな事なら新聞でも持ってくれば良かった」とぼやいた。
「フレイアー、なんか暇つぶし持ってないか?」
「むしろそれレイに聞きたいんだけどー」
「持ってたらこんな質問するわけないだろ」
「じゃあアタシおやつ買ってきていい?」
「ダメだ。リーダーなんだから残れ」
「ちぇー」
唇を突き出して、足元の小石を蹴るフレイア。
暇なのだ。
「そういえばジャック。修行はどんな事したんだ?」
ふと閃いたように、レイはジャックから修行の話を聞く。
「あぁそれなら」
ジャックも気前良く語ってくれた。
これで良い暇つぶしになる。フレイアも参加してきた。
三人が筋肉談義をしている間、他の四名も暇つぶしに話する。
「そういえばマリ姉の実家大丈夫だったんスか?」
「はい。皆様が活躍してくれたおかげでなんとか」
「前は姉御が派手に暴れたっスからね〜。なんか言われたりしなかったんスか?」
「それも大丈夫ですわ。黙らせましたから」
「マリ姉、笑顔が怖いっス」
とりあえずライラはサン=テグジュペリ領で起きた事件について聞いた。
その話がゲーティアの悪魔、ウァレフォルの事になった時、流石にライラは顔を強張らせた。
やはりゲーティア悪魔は凶悪である。その事をライラは再認識したのだ。
重苦しい空気が嫌だったのか、それ察したオリーブが急いで話題を切り替えた。
「そ、そういえばライラちゃん! ライラちゃんってヒノワの事に詳しいんだよね? これから来る人たちってどんな人なのかな〜?」
「そうですわね。わたくしもヒノワの方にお会いするのは初めてですわ」
「アリスも」
ヒノワの人はどんな人なのか。
それを聞かれたライラは、うーんと首を傾げた。
「ヒノワの人……色々いるっスけど、今聞きたいのは神牙の操獣者っスよね?」
「うんうん」
「そうですわね」
「うーん。悪い人はいない筈っスけど……あそこは色々と、GODとは違うとこがあるっス」
「と、言いますと?」
「完全実力主義のウチと違って、神牙は家柄や血統も重んじるっス」
それは大きな文化の違い。
ライラ曰く、ヒノワでは出身の家や血統による強さを重要視する文化があり。
家柄も血統も無い者が這い上がってくる事は極めて稀だそうだ。
そういう文化故に、ヒノワの操獣者は家や血を重んじる。
むしろ重んじるが故に、変に驕り高ぶる者もいたりするらしい。
もちろん根は良い人が多いのだが……
「一番心配なのは……姉御とレイ君っス」
「あぁ……あのお二方は」
「レイ、喧嘩しそう」
「フレイアちゃんも危ないよね」
「だからいざという時は、みんなで止めるっス」
四人の女子は静かに頷いた。
あの二人だけは気をつけよう。何がなんでも暴走は止めよう。
四人の心は一つになっていた。
そんな感じで暇つぶししていると、気づけばレイ達の周りには何人もの操獣者が集まっていた。
「おっ、集まってきたな」
「あれみんな模擬演習の参加者?」
「多分な。セイラムに来る操獣者も一組じゃないらしいし」
「色々来るんだね〜。で、アタシ達の相手は誰なの?」
フレイアが疑問を零す。
それに対して、一枚の紙を取り出したジャックが答える。
「えーっと、チーム名は『化組』。メンバーはアクタガワって名前の三人兄妹みたいだね」
「その三人ってサムライ? それともニンジャ?」
「フレイア、お前どんだけ会いたいんだよ」
「まぁヒノワ特有の戦士だからね。僕も会ってみたいよ。ちなみに『化組』は全員ニンジャなんだって」
「ニンジャー!? やったー!」
子供のように飛び跳ねてはしゃぐフレイア。
それをレイとジャックはぼんやり眺めていた。
相当ニンジャに会いたかったらしい。
その時であった。
港に集まった誰かが「おーい、来たぞー!」と叫んだ。
レイ達も海の方に視線を向ける。
「おっ、あの船だな」
「わかりやすい」
レイが指差した船を見て、アリスが端的に感想を述べる。
実際わかりやすかった。
セイラムに普段寄港する船とは、明らかにデザインが異なる船が一隻。
帆にはヒノワのギルド『神牙』の紋章が描かれていた。
歓声や拍手が湧き上がる中、神牙の船が寄港する。
橋がかけられて、中から東国の操縦者達がセイラムの地に降りてきた。
「おー、噂には聞いてたけど。本当にみんな同じ肌の色なんだな」
「まぁセイラムシティが多人種混合すぎるとも言えるけどね」
「確かヒノワって昔は鎖国してたんだっけ?」
「そうだね。長いこと外国との交流を絶っていたらしいよ」
「なんか色々変わった国だなぁ」
降りてくる操獣者達を見ながら、レイとジャックが他愛無い会話をする。
ちなみにフレイアは聞いていなかった。
「で、そのニンジャ三人組はどいつなんだ?」
レイがキョロキョロと首を回していると……
「ポンポコー!」
「どわぁ!?」
突然、レイの顔面にピンク色のタヌキが飛びかかってきた。
レイは驚きの声を上げながら、尻餅をつく。
「痛ったー、なんだコイツ?」
「レイ、だいじょうぶ?」
「大丈夫だアリス。とりあえずこの謎魔獣を剥がしてくれ」
アリスに手伝ってもらい、レイは顔面にくっついていたタヌキ型魔獣を剥がした。
よく見ればモフモフで可愛らしい顔している。
「わぁ〜、可愛いですね! そうですよね、マリーちゃん!」
「そうですわね。ですが見たことのない魔獣ですわ」
謎のタヌキ魔獣の可愛さにメロメロのオリーブ。
その姿をこっそり欲望の目で見ているのは、マリーだ。
一方ライラは、そのタヌキ魔獣に覚えがあるようで。
「あれ? この魔獣ってヒノワの」
「カイリィィィ! どこに行ったんですかぁぁぁ!?」
どこからか女の子の声が聞こえてくる。
ライラはタヌキ型魔獣をアリスから引き取って、その声の主に近づいた。
「はいはーい! 探してるのはこの子っスか?」
「あぁぁぁ! カイリだぁぁぁ!」
涙を流しながら、女の子はピンクのタヌキを抱きしめる。
どうやらこの女の子の契約魔獣だったようだ。
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
「いいんスよ。その子から来ただけっスから」
「カイリー、勝手にいなくなっちゃダメだよー」
「やっぱりその子怪狸なんスね」
「はい! 私のパートナーです」
ヒノワに生息する魔獣に関する知識があるライラは、カイリの事も知っていた。
それがきっかけで、少し談笑する二人。
それを追うように、レイ達が後ろからやってきた。
「おーいライラ。パートナー見つかったか?」
「あっレイ君。見つかったっスよ」
「なら良かったな。とりあえず俺達は客人を迎える準備に戻るぞ」
レイが踵を返す。その時、レイが左腕に巻いたスカーフを、女の子は目撃した。
「あっ、あの!」
「ん?」
「もしかして」
チーム:レッドフレア人ですか。女の子がそう言おうとした瞬間、別の声に遮られてしまった。
「貴方達がチーム:レッドフレアの操獣者ですか?」
女の子の背後から、二人の男女が現れる。
一人は背の高い黒髪男。年齢はレイ達より少し上っぽい。
もう一人は長い黒髪の少女。こちらはレイ達と同じくらいの年齢だ。
「急に飛び出していったと思えば。無礼は働いていないだろうな、サクラ」
「はい、兄者」
「えーっと、どちら様で?」
レイは着物姿の三人に問う。
「失礼、名乗りが遅れた。俺の名はラショウ・アクタガワ。神牙の操獣者だ」
「という事は、アンタ達が『化組』ってチームの」
「いかにも。俺達がレッドフレアの相手だ」
レイは異国の戦士を前に、不思議な感情抱いていた。
だがそれ以上に、後ろでフレイアのテンションが壊れていた。
「ニンジャだ! ニンジャが来たよ! ねぇねぇニンジャー!」
「フレイア、うるさい」
フレイアはアリスに黙らされていた。
とりあえずフレイアを落ち着かせて、リーダー同士の挨拶をさせる。
「アタシはフレイア! チームレッドフレアのリーダーだよ」
「フレイアさんか。名前は書類で伺っている。滞在中はよろしく頼むよ」
握手を交わす二人。
それを見てレイは「思ったより友好的な人だな」と考えていた。
「そういえば三兄妹なんだっけ?」
「はい。モモ、サクラ! 挨拶しろ」
長い黒髪の少女と、カイリを抱きしめている黒髪ショートボブの少女が前に出てくる。
「初めまして。長女のモモ・アクタガワよ。契約魔獣はフリカムイ」
「ふりかむい? なにそれ」
「ヒノワの鳥型魔獣っス。ランクも高いっスよ」
「へぇ〜、すごいんだ。で、そっちが」
「は、はい! 末のサクラ・アクタガワです! この子は契約魔獣のカイリです!」
「ポンポコー!」
「よろしく〜」
フレイアは手をひらひらさせながら、三人を歓迎した。
「俺達にあてがわれたって事は……強いって思っていいんだよな?」
「それは俺達の台詞でもあるな。君達は強いのだろう?」
レイとラショウの間に火花が散る。
それをライラとアリスは慌てて引き離した。
「ちょっとレイ君!」
「いきなり喧嘩、ダメ」
「いや、別にそんなつもりは」
ちなみにラショウもモモに怒られていた。
「兄様。好戦趣味もほどほどにしてください」
「う、うむ……すまない」
そんなお互い様子見て、モモとアリスは何か無言友情感じていた。
とりあえずレイとフレイアは、戦意を完全に捨てて、三兄妹の前に出た。
「まぁとにかくだな」
「そうだね。ようこそ、セイラムシティへ!」
レッドフレアの面々は、改めてヒノワ操獣者達を歓迎するのだった。