Page105:影に潜む者たち
ウァレフォルを討ち、サン=テグジュペリの街に降り立ったロードオーディン。
人気の無い場所からそれを見届ける者達がいた。
「ふむ……ウァレフォルが討たれましたか。これは少し意外な展開ですね」
サン=テグジュペリから少し離れた山。そこから眺めるのは金髪の少年、ザガンである。
「でもまぁ、最低限の仕事はしてくれたので良いでしょう。サンプルも回収できた事ですし……」
そう言いながらザガンは小さな肉片が入った小瓶を取り出す。
ウァレフォルの死そのものに興味は示さない。
あくまで重要なのは自身の使命。
ザガンは淡々と現状を見定めていた。
「魔僕呪も十分に回収できました。あとは追加で製造するだけ」
ならば後は裏側に戻って、作業をこなすだけ。
そう思ってザガンが振り返ると、彼にとっては意外な存在が立っていた。
「オヤオヤ。貴女もここに来ていたのですか……黄金の少女」
ザガンの前に立つのは美しい金髪の少女。
神出鬼没の存在、黄金の少女である。
《私達は、見守りに来ただけ》
「見守る。あの鎧巨人をですか?」
《そう……そして》
「ボクを牽制するため、ですか?」
ザガンの頭の中に、直接文字列が入ってくる。
その様子から、黄金の少女がザガンに敵意を持っている事は明白であった。
だが同時に、今は戦う意志が薄い事も伝わる。
「不思議ですね。貴女のような存在が、あの程度の操獣者達に執着する事が」
《貴方には関係ない。私達はただ、大切な人を守りたいだけ》
「エゴイズムですね。神に近い存在の発言とは思えません」
《私達は、神様であって神様じゃない》
「でしょうね。神と呼ぶには不完全すぎる」
淡々と言葉を返していくザガンだが、警戒は解いていない。
その手には常に、ダークドライバーが握られている。
黄金の少女はそれを認識しても、一切動揺はしない。
今この瞬間、黄金の少女は脅威を感じていないのだ。
「貴方の目的は何なのですか? 何故ボク達の邪魔をするのですか?」
《私達の目的のために、貴方達ゲーティアはいちゃダメだから。ただそれだけ》
「酷い事を言う」
《貴方達に言う資格はない》
無言で対峙するザガンと黄金の少女。
お互い隙を見せないようにようにする。
だが数秒の後、ザガンはため息を一つついた。
「やめておきましょう。ここで貴女と戦っても、メリットが無い」
《私達はいつでも戦う意志がある》
「その割には殺意が足りていないのではないですか?」
黄金の少女は返事をしない。
それは無言の肯定でもあった。
「ボクの仕事は終わりました。あとは裏に戻るだけ」
《私達が逃すと思うの?》
「逃しますよ。思惑は分かりませんが、貴女はそういう存在です。今までがそうでした」
ザガンはこれまでの黄金の少女の行動を、ある程度把握している。
故に法則のようなものも把握しているのだ。
そこから来る確信。ザガンは今黄金の少女が攻撃してこないと確信しているのだ。
相手は時渡りの怪物。ここで無駄に消耗する意味はない。
ザガンはダークドライバーを振るい、空間に裂け目を作り出した。
「あぁ、そうそう。一つ貴女に聞きたい事があるのでした」
裂け目に入る直前、ザガンは足を止めて質問を投げかけた。
「貴女の中から気配を感じるんですよ。それも四つの気配」
《……》
「一つは貴女自身。二つ目は神の気配。三つ目は王の気配。ここまでは分かるのですが……もう一つの気配は何ですか?」
純粋な疑問。しかし黄金の少女は答えない。
「この気配は、人間のそれ……魔核の気配。でもこれは間違いなく貴女のものではない。いったい誰の気配なのですか?」
《貴方に答える理由はない》
「……まさかとは思いますが、誰かから魔核を奪ったのですか?」
《ザガン!》
「おっと、やめておきましょう。貴女を刺激しすぎても得はありません」
だが何か答えには近づけた。
ザガンはそれだけで満足をし、空間の裂け目に足を踏み入れた。
「ではボクは失礼します。次に会うと時は……お互い良い出会いをしたいものですね」
《私達はゲーティアの敵。それは変わらない》
「残念ですね」
そう言い残し、ザガンは空間の裂け目に消えていった。
黄金の少女はそれを静かに見届ける。
裂け目が消え、元に戻る空間。
黄金の少女は、サン=テグジュペリの街を見下ろす。
《私達……前に、進んでるんだよ、ね?》
街の中で四苦八苦しているロードオーディンを見つめながら、黄金のはそう呟いた。