Page101:勇気! 黒白のコンビネーション
サン=テグジュペリの街。
爆煙が立ち込めるなか、レイ達はウァレフォルと激しい戦闘をしていた。
「次はコレだァ!」
魔力を帯びた獅子の爪がアリスに向けられる。
「アリス!」
近くにいたレイは咄嗟に魔力障壁を展開。
ウァレフォルの爪をなんとか防いでみせた。
「大丈夫か、アリス?」
「うん。問題なし」
アリスは無事だが、魔力障壁はそうともいかない。
固有魔法で強化されている筈の魔力障壁だが、ウァレフォルのパワーの前には完全に機能していなかった。
瞬く間にひびが入り、砕けてしまう魔力障壁。
それでも回避する隙くらいはできたので、レイとアリスは攻撃を避けた。
「ハハハ! こんな壁じゃあ時間稼ぎくらいしかできねェぜ!」
「じゃあ今度はこっちから攻めてやる!」
そう言うとレイはコンパスブラスターのグリップを操作した。
「形態変化、棒術形態!」
ウァレフォルの身体は硬く、再生能力が高い。加えて攻撃力もある。
なのでレイは、ある程度の距離を保って戦える棒術形態を選んだ。
「どらァァァァァァ!」
コンパスブラスターを振るって、ウァレフォルに攻撃を仕掛けるレイ。
しかしウァレフォルもそう簡単にはダメージを受けない。
襲いかかるコンパスブラスターを、ウァレフォルは獅子の爪で次々にいなしていった。
「ハハハ、遅ェ遅ェ! そんなんじゃアクビが出るぞ!」
「どらァ! そうかい。じゃあ目ェ覚まさせてやるよ!」
レイは仮面の下で不敵に笑う。
戦う相手はレイ一人ではない。ウァレフォルがそれに気づいた時には、一瞬遅かった。
「後ろかッ!」
「ブレイズ・ファング!」
炎の牙を生やしたフレイアの籠手。
その一撃が、ウァレフォルの背中を襲った。
業火の牙が背中を抉る。
凄まじい激痛に、ウァレフォルも苦悶の声を漏らしてしまった。
「グゥッ! テメー!」
「アンタの相手はアタシ達全員よ!」
「そういう事だ。油断は禁物だぜ」
「そうか。いいだろう……俺様も本気でテメーらと遊んでやる」
ウァレフォルは蠍の尻尾を激しく振るう。
尾の先には毒がある。フレイアは咄嗟に距離を取った。
「一人づつなんてケチな事は言わねェ。まとめて全員ぶっ殺してやる!」
そう言うとウァレフォルは蝙蝠の羽を羽ばたかせて、空へと飛んだ。
「アイツ、上から攻撃する気か!」
「その通りだァ!」
レイ達から距離を取り、獅子の爪に魔力を溜めていくウァレフォル。
そして数秒の後、ウァレフォルは地上に向けて斬撃を放ってきた。
「うわッ!?」
「キャッ!」
レイとオリーブが、斬撃を間一髪で回避する。
それはフレイアとアリスも同じ。
しかし空中という攻撃の届かない位置から繰り出される、ウァレフォルの斬撃は止まらなかった。
「まだまだいくぞォ!」
――斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬!!!――
雨霰のように連続で繰り出される斬撃。
レイは魔力障壁を展開し、アリスと共に防御。
オリーブは固有魔法使って防御力を強化。
そしてフレイアは刹那の見切りで回避していった。
「クッソ。障壁が持たねーぞ」
「あの距離じゃ、アリスの魔法も届かない」
体力のあるフレイアはともかく、オリーブの固有魔法はそう長くは保たない。
仮にコンパスブラスターを銃撃形態にして反撃を試みても、ウァレフォルに大ダメージを与えられる可能性は低い。
このままではジリ貧。いや、致命傷を負わされるのも時間の問題である。
何か策はないか。レイは思考を高速で巡らせていた。
「ハハハ! 怯えろ怯えろ! そして死ねェ!」
ウァレフォルの攻撃が激しくなってくる。
全力を出して展開しているレイの魔力障壁も限界が近い。
オリーブの魔法もそろそろ時間切れだ。
「クソッ! どうすれば」
レイが強い焦りを覚えた次の瞬間。
――弾ッ! 弾ッ! 弾ッ!――
三発の魔力弾が、ウァレフォルの身体に当たった。
「あーん? 誰だ?」
一旦攻撃を中断して、魔力弾の出先に目をやるウァレフォル。
レイ達も防御体制解いて、ウァレフォル同じ方向を見た。
そこに居たのは二挺の銃型魔武具を手にした、白髪の少女。
「マリーちゃん!」
「オリーブさん、みなさん。お待たせしましたわ」
ウァレフォル攻撃したのはマリーであった。
レイは思わず呆気に取られてしまう。
「マリー、お前まだ戦えないだろ!」
「戦えるかどうか。自分の道は自分で決めますわ」
「いや、ローレライのダメージが」
「ローレライも協力してくださってます」
『ピィピィ!』
白い獣魂栞からローレライの気合いが入った声が聞こえる。
どうやら本当に戦うつもりらしい。
マリーは真っ直ぐとウァレフォルに視線を刺す。
「貴方がウァレフォルですね?」
「そういう嬢ちゃんはサン=テグジュペリの娘か。まさか獲物から来てくれるとはなァ」
「貴方のような下品者の獲物になど、なるつもりはありませんわ」
「ほう? じゃあ何故ここに来た」
「わたくしの故郷を、領民を……そして何より、わたくしの仲間を傷つけられました! 貴方を討つ理由は、それで十分です!」
「ハハハ、面白れェ! 新しい玩具になってくれるって訳か」
空中で嘲笑を上げるウァレフォル。
マリーは静かに、自分の中で怒りを燃やした。
「オリーブさん! 受け取ってください!」
マリーは持ってきたイレイザーパウンドを、オリーブに投げる。
「よっと。これ、私のイレイザーパウンド」
「屋敷から持ってまいりましたわ」
オリーブの元に歩み寄りながら、マリーが簡単に説明する。
「オリーブさん。あの賊を討つために、力を貸していただけませんか?」
「もちろん! マリーちゃんの故郷に酷いことしたもん!」
「ありがとうございます。オリーブさん」
「オイオイ、俺達を忘れるなよ」
「レイに同じく」
「アタシもアイツを倒すつもりだからね!」
レイ、アリス、フレイアもマリーに協力の意志を示す。
それを聞いたマリーは優しく微笑み「ありがとうございます」と言った。
そして再び、マリーは空中のウァレフォルを見る。
「サン=テグジュペリでの蛮行の数々、償う覚悟はよろしくて?」
「俺様の罪は誰にも裁けねェよ。俺様は盗賊王だ!」
「貴方のような王など、貴族として認める訳にはまいりませんわ! 行きますわよ、ローレライ!」
『ピィ!』
マリーはグリモリーダーと白い獣魂栞を取り出す。
「Code:ホワイト、解放!」
呪文を唱え、獣魂栞をグリモリーダーに挿入する。
そしてマリーは十字架を操作した。
「クロス・モーフィング!」
魔装、変身。
マリーの全身に白色の魔力が纏わられ、アンダースーツとローブを形成していく。
そして最後にフルフェイスメットを形成して、変身完了だ。
「ウァレフォル、貴方をここで討ちます」
「ほざけ。ゲーティアの悪魔に勝てると思うな」
「では試してみますか、ミスター?」
マリーは二挺の銃型魔武具、クーゲルシュライバーを取り出す。
そして固有魔法の発動を宣言し、ウァレフォルに向かって連射し始めた。
――弾ッ! 弾ッ! 弾ッ! 弾ッ!――
「ハハハ! 当たらねェ、当たらねェ!」
次々に撃たれる魔力弾。
ウァレフォルはそのことごとく容易に回避していく。
「クソッ! アイツの機動力は高すぎる!」
「心配無用ですわレイさん」
「そう言うならもうちょっと狙って撃てよ!」
「ですから、心配無用です。全て狙い通りですわ」
マリーの撃った魔力弾。
それらはウァレフォルに当たらず、空中で魔水球と化して滞空していた。
それに気づかず、ウァレフォルは嘲笑しながら回避し続ける。
気づけば空中には、無数の魔水球が設置されいた。
「オイオイオイ、射撃は上手じゃないのかァ?」
「そんな事はありませんはミスター。もう貴方は、わたくしの射程圏内です」
「なに?」
訝しげな顔をするウァレフォル。
それを気にせずマリーは、オリーブにアイコンタクトをした。
「そーれ!」
マリーの思惑を感じ取ったオリーブ。
彼女はイレイザーパウンドの重量を上げて、空中のウァレフォル目掛けて思いっきり投擲した。
「当たるわけねェだろ!」
当然ウァレフォルは回避する。
しかしその回避先には、魔水球が設置されていた。
「言った筈です。既にわたくしの射程圏内だと」
魔水球に触れたウァレフォル。
次の瞬間、魔水球が破裂し、巨大な牙となってウァレフォルを襲った。
「な、なんだァ!?」
「固有魔法【水球設置】。罠を張るのは、わたくし達の得意技なのですわ」
水の牙に蝙蝠の羽を貫かれるウァレフォル。
急いで攻撃から逃れるも、空中にはまだ無数の魔水球がある。
「落としなさい! ヴァッサー・パイチェ!」
魔水球から放たれる無数の水の鞭。
それらはウァレフォルの動きを拘束した上で、苛烈な攻撃を加えていった。
「ぬォォォォォォォォォォォォ!」
苦悶の声を上げて、地面に叩き落とされるウァレフォル。
自分が舐めていた貴族の娘に落とされた。その事実が、ウァレフォルのプライドを酷く傷つけた。
「テ、テメー……楽に死ねると思うなよ」
起き上がって殺意を放つウァレフォル。
全身から魔力を放出し、何がなんでもマリーを殺すという意志を示していた。
「引き裂いて、頭から喰らってやる!」
駆け出すウァレフォル。
しかしマリーは冷静に動かなかった。
この後の展開予測できていたからだ。
「マリーちゃん!」
オリーブが二人の間に割って入る。
それがウァレフォルの怒りに、更なる火をつけた。
「邪魔だァァァ!」
「邪魔なのはあなたです!」
オリーブは拳に力を込める。
接近同時に、オリーブはウァレフォルの腹部に渾身のパンチを叩き込んだ。
短い声を漏らし、動きを止めるウァレフォル。
だが直後に、その顔は不敵に歪んだ。
「邪魔だって言っただろ」
ウァレフォルの蠍の尻尾。
それがオリーブに向かって刺された。
猛毒の尻尾で殺す。ウァレフォルはそれが成功したと思った。
しかし、尻尾の針はオリーブの肉体に届かなかった。
――パキン!――
短い音を立てて、針が折れてしまったのだ。
「なんだと!?」
「固有魔法【剛力硬化】。こんな攻撃なら全然効きません!」
一瞬の動揺が隙になった。
オリーブはウァレフォルの尻尾を握って、力任せに振り回した。
「飛んでけー!」
ブチリッ!
蠍の尻尾が千切れる共に、ウァレフォルは後方の壁に強く叩きつけられた。
強いダメージを受けて、ウァレフォルは上手く動けないでいる。
「マリーちゃん!」
「分かってますわ。一緒に行きますわよ!」
マリーはクーゲルに、オリーブはイレイザーパウンドに獣魂栞を挿し込んだ。
「「インクチャージ!」」
マリーのクーゲルシュライバーに大量の水属性魔力が集まっていく。
そしてオリーブのイレイザーパウンドにも、黒色の魔力が集まっていった。
「こんの、クソ女ァ……!」
「ッ! 今だ、いけ二人とも!」
レイの叫びに合わせて、オリーブはウァレフォルに向けて駆け出す。
そしてマリーはクーゲルとシュライバーの引き金を引いた。
「シュトゥルーム・ゲヴリュール!」
「タイタン・スマッシャー!」
凄まじい螺旋水流の超砲撃。
そして強力無慈悲な力の一撃。
その両方を、ウァレフォルは真正面から食らってしまった。
「グォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」
凄まじい攻撃の二重奏。
それらがもたらす破壊力は伊達ではない。
遠距離射撃のマリーは問題無しであったが、近距離技のオリーブは、反動で吹き飛ばされしまった。
「キャッ」
「オリーブさん、大丈夫ですか!?」
「うん。へいき」
慌ててオリーブの元に駆け寄るマリー。
レイ達も後に続いた。
「二人ともスッゴい攻撃だったね〜」
「俺らの活躍持ってかれちまったな」
「ふふ、ごめんあそばせ」
「えへへ、頑張った」
マリーもオリーブも、自然に明るく振る舞う。
そこに嘘も偽りも無い。
レイは二人が恐怖を乗り越えた事を強く実感した。
「オリーブ。傷を治すからじっとしてて」
「ありがとうございます」
特にダメージを受けているオリーブに、アリスが治癒魔法をかける。
これでひと段落ついたか。
レイ達がそう思った直後、瓦礫の中から獅子の腕が伸びてきた。
「舐め、るなよ……これしきの……これしきのことでよォ」
聞こえてきたのはウァレフォルの声。
まだ生きていたのだ。
レイ達は急いで戦闘体制に入る。
「オイオイ。ゲーティアの悪魔は頑丈過ぎだろ」
「なんで一発でやられてくれないの!?」
ガミジンの時もそうであった。
レイとフレイアは思わず文句を言ってしまう。
「この俺様を……盗賊王を、舐めるなァァァ!」
ボロボロの身体を再生させて、ウァレフォルは瓦礫の中から復活をしてきた。