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白銀のヒーローソウル【WEB版】  作者: 鴨山 兄助
第四章:実家と盗賊王と眩き巨人
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Page97:邪悪に歓喜する者ども

 悪魔達の棲む裏側の世界。

 反転宮殿レメゲドンの中で、金髪の少年ことザガンは、魔僕呪を回収していた。


「はい、たしかに。ではこちらをどうぞ」

「ケヘヘ、ありがとうよ」


 ウァレフォルの作った裂け目を通じて、裏側に来た盗賊達。

 彼らは組織が所持していた魔僕呪の原液を対価に、ザガンから金を受け取っていた。

 革袋いっぱいに詰まった金を前に、歓喜する盗賊達。

 傍から見ればザガンの気前が良いようにも見える。

 だが実際はザガンにとって、金というものに価値は無かった。


「(欲深く、愚かですね)」


 口には出さないが、ザガンは目の前の盗賊達を冷めた目で見る。

 だが兵隊は多いに越したことはない。

 せいぜい盗賊達には踊ってもらおうと、ザガンは考えていた。


 そんな中、ザガンの近くに空間の裂け目が現れた。

 裂け目の向こうから、白髪の大男が姿を現す。

 ウァレフォルだ。


「よいせっと。テメェら! ちゃんと仕事はしただろうなァ?」

「お頭! 当然ですぜ!」

「見てくれよお頭! この金全部オレらのですぜ!」

「そうかそうか。高く買い取ってもらえたか」


 盗賊達が見せてきた金の詰まった袋の数々。

 ウァレフォルはそれを見て満足そうに笑みを浮かべた。


「ウァレフォル。何かトラブルでもあったのですか?」

「あん? なんでそう思う」

「腕に傷が増えています。虫にでも噛まれましたか?」

「そうだなぁ。ちと面倒な虫が湧いてたな」


 過去形。そして余裕風を吹かせるウァレフォル。

 ザガンはその様子を確認して、それ以上追及することはしなかった。


「そう言えばよォ。お前から貰った爆弾、あれは中々良い玩具だったぜ」

「はぁ……貴方でしたか、勝手に持ち出したのは」

「固ぇこと言うなって。同じ悪魔のよしみだろ」

「アレはまだ試作段階なのですが……せめてデータは欲しいところですね」

「俺様が楽しめる威力だった。データなんざこれで十分だろ」


 ガハハと笑い声を上げるウァレフォル。

 ザガンは額に手を当てて、呆れるばかりであった。


「まったく、貴方という人は」

「そうだなァ。詫びと言っちゃあなんだが、新しいデータを取ってくるってのはどうだ?」


 ウァレフォルの提案を聞いて、ザガンの目つきが変わる。


「あの爆弾魔武具、まだ数はあるだろ?」

「えぇ、まだありますよ。どこで使う気ですか?」

「そりゃあ当然、サン=テグジュペリよ」


 嬉々として語るウァレフォル。

 サン=テグジュペリを爆撃し、略奪と虐殺を楽しむという算段だ。

 ザガンは少し考え込む。

 提案としては魅力的。データも取れる。使命も全うできる。

 ただ一つ懸念事項があるとすれば、サン=テグジュペリという名前。


「ウァレフォル。一つ聞いてもいいですか」

「なんだ?」

「貴方が始末した虫。どのような操縦者でしたか?」

「あぁその事か。赤いのと銀色のと、どっちも今頃洞窟の下敷きだろうよ」


 赤色と銀色の操縦者。

 それを聞いたザガンは、眉をひそめた。

 懸念事項も当たっていそうだ。


「やはり、あの操縦者達のようですね」

「なんだザガン。知り合いだったか?」

「少し面倒な相手ですよウァレフォル。特に銀色の操縦者は、死んでいないと考えた方が良いでしょう」


 何せあの戦騎王と契約をしている操縦者だ。

 ザガンは忠告をするが、ウァレフォルは不機嫌になるばかりであった。


「ザガン、テメェ俺様が下手な仕事するとでも言いたいのか?」

「ちょっとした忠告ですよ。王獣と契約した操獣者がいます。油断はしないでください」

「王獣ねェ。ガキじゃあ力の持ち腐れで終わるだろうよ」

「その油断が命取りにならない事を祈りますよ」

「舐めるな。俺様は盗賊王ウァレフォルだぞ。奪えねぇもんは無い」

「では、その実力を陛下に捧げていただきましょうか」


 そう言うとザガンは指をパチンと鳴らした。

 その音に反応して、宮殿の奥から一頭のグリフォンが姿を見せる。

 ザガンの契約魔獣だ。

 グリフォンは大量の魔武具を入れた荷台を引っ張って来る。


「お望みの爆弾です。使い方はご存じですよね」

「あぁ。ありがたく使わせてもらうぜ」


 爆弾魔武具を一つ手に取り、笑みを浮かべるウァレフォル。

 彼はそのまま盗賊達の方へと振り向き、声を上げた。


「野郎どもォ! 呑気してる貴族様に一泡吹かせたくねェか!?」

「「「ウォォォォォォォォォォォォ!!!」」」

「金も女も土地もォ! 全部奪いたいと思わねェか!?」

「欲しい!」

「俺もだお頭!」

「女、女をくれェ!」


 興奮が最高潮に達する盗賊達。

 ならばとウァレフォルは、最後の一押しをする。


「欲しけりゃ奪う。それが俺達のルールだ! 野郎どもォ! サン=テグジュペリで、派手にやろうじゃないかァ!」

「「「ウォォォォォォォォォォォォ!!!」」」


 略奪に夢を見て、盗賊達は興奮の雄叫びを上げる。

 ウァレフォルはそれを満足そうに見届けて、空間に裂け目を作った。

 興奮冷めぬまま、裂け目の中に飛び込む盗賊達。

 ザガンはそんな彼らを冷めた目で見届けていた。


「まったく。俗物は理解しかねますが、使いやすいという点では便利ですね」


 小さな呟きは誰にも聞こえない。

 惨劇の足音は、確実にサン=テグジュペリに近づいていた。

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