表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/5

第5話 プロジェクトD~「デ」ッカイ夢~

 ヒャッハーは、基本的に寂しがり屋が多い。

 ……そうじゃないヤツもいるが。


 どうやって、人と接したら良いのか判らなくて。

 自分が襲われた時と同じ態度しか、知らなかった。


 キメ顔だと思っていた顔は、威嚇(いかく)だとオヤジに教えられ。

 言葉使いも色々と教えられた。


 判りやすく、丁寧に教えてくれるオヤジは、まさに理想の親父だ。

 俺達は何も知らない子供のように……いや、本当に何も知らないのだ。

 ここで暮らしている人達が知っている事を、俺達は何も知らない。


「お前達、いつも真っ黒に汚れまくって戻ってくるが、毎日何やっているんだ」

「俺達は暴走族だ! 全力疾走しているに決まっているだろ、オヤジ!」

「俺達で峠を作ったんだ! すげぇぜ、あの左右、上下に揺さぶられる感じは!」


「峠……?」

「山だよ! その辺にある板切れで地面を掘って、盛り上げて、小さな山を作ったんだ」

「山の側面に道を作って、落とし穴も作ったぜ! 溝落としナンバーワンは俺だ! 四六時中、落ちてる」

「下り最速は俺だ! いつも転げ落ちて、崖から転落する事もあるぜ!」

「俺は登り最速だ! 他のやつらが怪我ばっかりするから、担いで登る事が多くて、足腰強くなったぜ!」


「でもよ~、ライダースーツ(ぽいもの)になって、走りやすくなったけど、やっぱり道がすぐボロボロになっちゃうんだよなぁ」

「俺達が走る道だけでも、舗装したいよな」

「どうやって舗装するんだよ。そんな方法も知らないし、舗装するものもないだろ」


「余っている資材があるから、分けてやろうか?」



 ……時間が止まった。



 な、何故こうもオヤジは、俺達の……喉から手が出ても絶対に手に入る事はなかったものを、簡単に俺達へ差し出してくれるんだ。


 ――愛だ。

 溢れんばかりの愛を、オヤジから感じる……!!


 オヤジからの申し出が、あまりにも叶えられない夢をいきなり現実にされたように思えて、感動で目を潤ませている俺達へ、オヤジは言った。


「古い資材でな。リサイクルも大変だし、使い道がないかと思っていた所だ。あるだけ全部やるから、好きなように使うと良い」


 俺達は持ちきれない程の量の資材を貰って、峠へ走る。

 グイングイーン、なんて言ってる余裕なんかない。

 大事なハンドルは身体に(くく)りつけ、資材を持てるだけ持って、担いで、背負って何度も往復する。


 俺達は、誰も飛行能力を持っていない。

 念動力も弱くて、瞬間移動も出来ない。

 超能力を使って、大きな重い荷物を移動させるなんて、誰も出来ない。


 だから健康な身体で、荷物を持って、足で移動する。

 きっとどんな古い時代からでも、あった方法だ。

 俺達は”外”へ出られるだけで、強者でも王者でもない。


 ――ただ、荒野を……峠を爆走する【暴走族】な、だけなんだ。


 貰って来た大量の資材を、教えて貰った方法で舗装していく。

 始めはうまくいかなくて、デコボコになってしまった。

 どうすれば理想的な『道路』になるか、みんなで考えた。


 道をならして、ならして……綺麗に。

 そこに資材を投入する。

 乾くまで、しばし待つ……。


「おおおおお……!」

「道路だ……! 夢にまで見た、道路だ!」

「すげえ! 土より走りやすい! この弾力……このしっかりと踏み締められる、足に吸い付くような感覚……!」

「これが廃棄資材!? いや、俺達の為に特別にあつらえてくれたに違いない!」

「さすがだぜ! オヤジ!」


 山のようにあったと思った資材は、全然足りなくて。

 絶対にここだけはという、いつもボロボロにしてしまう道を中心に、舗装していった。


 そこはいつも熱いバトルが繰り広げられる場所。

 キモの場所、という事だ。


 舗装があったりなかったりは、途中にある溝もうまく隠してくれている。

 これで溝落としも完璧だ。

 ある一点にしか突破口がない程、溝ばかりがある道もある。


 記憶力が必要になるバトルは、最高だ。

 誰も記憶力なんかないから、いつもハラハラドキドキ……たまんねぇぜ。


「グイン、グイーーン!」

「ギャン、ギャギャギャン! ギュィイイイイーー!!」

「ヴォンヴォン! キュキャッ、ギョギョギョーー!!」



 今日も俺達は爆走する。

 ――峠を、荒野を。


 この世界には、何もない。

 過去にあった美しい景色も、俺達が夢見る、男の浪漫(ロマン)『車』も。

 だけど、俺達には見える。

 この色()せた、景色の中に――


 熱く燃え(たぎ)る血に刻まれた、男の魂で、見えないものも見えて来る……!


 それは決して幻想ではなく、いつか必ずと信じているもの。

 無い世界に見るものは、可能性の未来。


 無いのなら、作れば良い。

 作れなければ、想像すれば良い。

 頭の中は自由だ。制限なんて何もない。


 今も、過去にも、無かったもの……。

 どんなものか考えつかなくても、みんなで話し合っていれば、どんどん想像は膨らんでいく。


 見た事がないからこそ、自由に。

 知らないからこそ、壮大に。

 現実では有り得なくても、いくらでも。


 俺達は走る。風を切って。

 肌で直接感じる事が出来ない、風を……。


 いつか……いつか。

 この峠を一大エンターテイメント場にして、みんなで爆走したい。



 ――殺し合いの世界。

 アホらしくなるほど、簡単なこの遊びの中で、みんなで汗を流して楽しめたら……。


 そして汗を流した後は、みんなで裸で風呂に入って。

 湯を掛け合って、背中を流しっこなんかして。

 ご馳走を食べて。

 ふかふかの布団で、みんなで揉みくちゃになりながら、寝るんだ。


 こんな事を何日かしたら、絶対、殺し合いなんてバカらしくなる。


 そういう世界にしたい。

 ――大きな夢だが、いつか……必ず。






 終わり

【あとがき】


 お読み頂きまして、ありがとうございます。

 この物語は、Twitterで「リツイートした人を自分の世界観でキャラ化する」というタグを使って遊んだ時、夫をマヌケなヒャッハーに仕立て上げたものが、主人公です。


 ハンドルだけを持って爆走する、車好きのヒャッハー。

 「車」がどんなものか、本当は何も知らない。

 子供が、巨大ロボットに夢を見て、パイロットになりたがるみたいな。

 ……そんな感じですね。


 物凄い想像力豊かで、やたら前向きで、行動力が半端なくて。

 アホなだけで……本当は未来を、もっと良くしたいと思っている。


 コイツラ、ヒャッハーとか言って悪ぶっていますが、人を殺めていません。

 本編「優しい殺戮者」のユウたちの方が、簡単に命を奪うので怖い存在です。

 うっかりユウの衝撃波で「峠」を消滅させられなければ、良いのですが。


 少しでもお楽しみ頂けたなら嬉しいです。

 気が向いたら、本編「優しい殺戮者」で、またお会いできたらと思います。

 たった五話の短い間でしたが、ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このノリで一気に更新しました。
ブックマーク、感想、評価、レビュー……皆様の反応を楽しみにしています!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ