第5話 プロジェクトD~「デ」ッカイ夢~
ヒャッハーは、基本的に寂しがり屋が多い。
……そうじゃないヤツもいるが。
どうやって、人と接したら良いのか判らなくて。
自分が襲われた時と同じ態度しか、知らなかった。
キメ顔だと思っていた顔は、威嚇だとオヤジに教えられ。
言葉使いも色々と教えられた。
判りやすく、丁寧に教えてくれるオヤジは、まさに理想の親父だ。
俺達は何も知らない子供のように……いや、本当に何も知らないのだ。
ここで暮らしている人達が知っている事を、俺達は何も知らない。
「お前達、いつも真っ黒に汚れまくって戻ってくるが、毎日何やっているんだ」
「俺達は暴走族だ! 全力疾走しているに決まっているだろ、オヤジ!」
「俺達で峠を作ったんだ! すげぇぜ、あの左右、上下に揺さぶられる感じは!」
「峠……?」
「山だよ! その辺にある板切れで地面を掘って、盛り上げて、小さな山を作ったんだ」
「山の側面に道を作って、落とし穴も作ったぜ! 溝落としナンバーワンは俺だ! 四六時中、落ちてる」
「下り最速は俺だ! いつも転げ落ちて、崖から転落する事もあるぜ!」
「俺は登り最速だ! 他のやつらが怪我ばっかりするから、担いで登る事が多くて、足腰強くなったぜ!」
「でもよ~、ライダースーツ(ぽいもの)になって、走りやすくなったけど、やっぱり道がすぐボロボロになっちゃうんだよなぁ」
「俺達が走る道だけでも、舗装したいよな」
「どうやって舗装するんだよ。そんな方法も知らないし、舗装するものもないだろ」
「余っている資材があるから、分けてやろうか?」
……時間が止まった。
な、何故こうもオヤジは、俺達の……喉から手が出ても絶対に手に入る事はなかったものを、簡単に俺達へ差し出してくれるんだ。
――愛だ。
溢れんばかりの愛を、オヤジから感じる……!!
オヤジからの申し出が、あまりにも叶えられない夢をいきなり現実にされたように思えて、感動で目を潤ませている俺達へ、オヤジは言った。
「古い資材でな。リサイクルも大変だし、使い道がないかと思っていた所だ。あるだけ全部やるから、好きなように使うと良い」
俺達は持ちきれない程の量の資材を貰って、峠へ走る。
グイングイーン、なんて言ってる余裕なんかない。
大事なハンドルは身体に括りつけ、資材を持てるだけ持って、担いで、背負って何度も往復する。
俺達は、誰も飛行能力を持っていない。
念動力も弱くて、瞬間移動も出来ない。
超能力を使って、大きな重い荷物を移動させるなんて、誰も出来ない。
だから健康な身体で、荷物を持って、足で移動する。
きっとどんな古い時代からでも、あった方法だ。
俺達は”外”へ出られるだけで、強者でも王者でもない。
――ただ、荒野を……峠を爆走する【暴走族】な、だけなんだ。
貰って来た大量の資材を、教えて貰った方法で舗装していく。
始めはうまくいかなくて、デコボコになってしまった。
どうすれば理想的な『道路』になるか、みんなで考えた。
道をならして、ならして……綺麗に。
そこに資材を投入する。
乾くまで、しばし待つ……。
「おおおおお……!」
「道路だ……! 夢にまで見た、道路だ!」
「すげえ! 土より走りやすい! この弾力……このしっかりと踏み締められる、足に吸い付くような感覚……!」
「これが廃棄資材!? いや、俺達の為に特別にあつらえてくれたに違いない!」
「さすがだぜ! オヤジ!」
山のようにあったと思った資材は、全然足りなくて。
絶対にここだけはという、いつもボロボロにしてしまう道を中心に、舗装していった。
そこはいつも熱いバトルが繰り広げられる場所。
キモの場所、という事だ。
舗装があったりなかったりは、途中にある溝もうまく隠してくれている。
これで溝落としも完璧だ。
ある一点にしか突破口がない程、溝ばかりがある道もある。
記憶力が必要になるバトルは、最高だ。
誰も記憶力なんかないから、いつもハラハラドキドキ……たまんねぇぜ。
「グイン、グイーーン!」
「ギャン、ギャギャギャン! ギュィイイイイーー!!」
「ヴォンヴォン! キュキャッ、ギョギョギョーー!!」
今日も俺達は爆走する。
――峠を、荒野を。
この世界には、何もない。
過去にあった美しい景色も、俺達が夢見る、男の浪漫『車』も。
だけど、俺達には見える。
この色褪せた、景色の中に――
熱く燃え滾る血に刻まれた、男の魂で、見えないものも見えて来る……!
それは決して幻想ではなく、いつか必ずと信じているもの。
無い世界に見るものは、可能性の未来。
無いのなら、作れば良い。
作れなければ、想像すれば良い。
頭の中は自由だ。制限なんて何もない。
今も、過去にも、無かったもの……。
どんなものか考えつかなくても、みんなで話し合っていれば、どんどん想像は膨らんでいく。
見た事がないからこそ、自由に。
知らないからこそ、壮大に。
現実では有り得なくても、いくらでも。
俺達は走る。風を切って。
肌で直接感じる事が出来ない、風を……。
いつか……いつか。
この峠を一大エンターテイメント場にして、みんなで爆走したい。
――殺し合いの世界。
アホらしくなるほど、簡単なこの遊びの中で、みんなで汗を流して楽しめたら……。
そして汗を流した後は、みんなで裸で風呂に入って。
湯を掛け合って、背中を流しっこなんかして。
ご馳走を食べて。
ふかふかの布団で、みんなで揉みくちゃになりながら、寝るんだ。
こんな事を何日かしたら、絶対、殺し合いなんてバカらしくなる。
そういう世界にしたい。
――大きな夢だが、いつか……必ず。
終わり
【あとがき】
お読み頂きまして、ありがとうございます。
この物語は、Twitterで「リツイートした人を自分の世界観でキャラ化する」というタグを使って遊んだ時、夫をマヌケなヒャッハーに仕立て上げたものが、主人公です。
ハンドルだけを持って爆走する、車好きのヒャッハー。
「車」がどんなものか、本当は何も知らない。
子供が、巨大ロボットに夢を見て、パイロットになりたがるみたいな。
……そんな感じですね。
物凄い想像力豊かで、やたら前向きで、行動力が半端なくて。
アホなだけで……本当は未来を、もっと良くしたいと思っている。
コイツラ、ヒャッハーとか言って悪ぶっていますが、人を殺めていません。
本編「優しい殺戮者」のユウたちの方が、簡単に命を奪うので怖い存在です。
うっかりユウの衝撃波で「峠」を消滅させられなければ、良いのですが。
少しでもお楽しみ頂けたなら嬉しいです。
気が向いたら、本編「優しい殺戮者」で、またお会いできたらと思います。
たった五話の短い間でしたが、ありがとうございました!