第2話 神と崇める者たち
なんだかんだ言っても、俺達は今日も元気だ。
わざわざ汚染が酷く”防御結界”を張らなければ、命を保っていられない”外”へ出てまで、する事か?
いや、遊びに命を懸ける……!
これもまた、硬派な生き方。
今日も仲間と爆走していたら、珍しく弱そうな爺さんをみつけた。
爺さんには超能力はなく、もちろん”防御結界”も張れない。
汚染を完全遮断する”防御結界”ではなく、一時しのぎである”防護服”を着ている。
そんな命を縮めながら”外”を歩くなんて、何を考えているのだか。
……まぁ俺達も、人の事は言えないが。
「ようよう、爺さん、こんな所で何やってるんだ~? あ~ん?」
「お、良いもの持っているじゃないか。食べ物か。よこせ」
良いターゲットをみつけた。
少ないが、これで今日の俺達の食料となる。
実は何日も食べていないのだ。
「あ~ん? 爺さん、こんな格好して、どこへ行こうってんだ」
「教えろよ。どこへ行くんだ? あ~~~ん?」
キメ顔で問う。
爺さんは悲鳴を上げそうな顔をしている。
……何故なんだ。
こんなに男前な顔をしているというのに。
「仕っ方ねぇなぁ……。適当な近くの場所まで、防御結界を張って、連れてってやんよ」
「爺さん、命縮めんなよ。どうせ老い先短いんだろ」
「食い物貰った(奪った)しな。そん位はしてやんよ」
爺さんの肩に手を回す。
温かい……。久し振りに、仲間以外の人の感触。
俺達、意外と人恋しいんだぜ?
「オラッ、脱げやぁああ!」
「クソが! こんなもん脱いじまえ!」
爺さんの防護服を脱がせる。
分厚くて動きにくそうで、こんなもので汚染の完璧遮断なんか、出来る筈がないだろう。
完璧遮断が出来るのは、”防御結界”だけだ。
俺達はみんなで力を合わせて、爺さんに”防御結界”を張る。
自分の分も合わせて、人の分も張るなんて、結構なパワーがいるんだぜ。
しかもソイツは、俺の意思とは違う形で動き回るだろ。
動かないターゲットを固定して、結界を張るのとは訳が違うんだ。
爺さんの防護服を無理矢理脱がせ、身軽になったところで俺達は爺さんを囲った。
恐れおののく爺さんを中心に、爺さんを逃さないように。
いや、周囲の汚染から、爺さんを守る為に。
覆い被さるように、爺さんを中心に、ガタイの良い男達がニヤニヤしながら囲う。
そんな防護服じゃなく、俺達が守ってやるぜ。
近くの建物に着くまでだがよ。
きっと喜んでくれるだろうな。
この爺さんも、爺さんの家族も、……爺さんが無事で。
そう考えると顔がニヤけて、どうしようもない。
含み笑いのようにしながら爺さんを囲って、小さく跪く爺さんに、手を添えるようにした。
「クックック……。爺さん、俺達がどんな奴らか、よく判ってないようだなぁ。あ~~ん?」
力を合わせて”防御結界”を張っている。
俺達の超能力は、それほど強くない。
全員で力を合わせて、ようやく爺さん一人の”防御結界”を完璧に出来る程度だ。
「はーーっはっはっは! 爺さん、感謝しろよ! テメエの命は、俺達の手の中にあるんだぜ!!」
爺さんは、何故か怯えた顔をしている。
いや、待てよ。違う、これは……!
俺達を【神】のように、畏怖する目だ……!
そう、俺達は【選ばれし者】――!
”外”へ出る事ができる、僅かなる人類。
この世界を、この現状を、俺達しか知らない、この世界を……。
俺達が変えていくんだ。
◆
――人が住む建物へ着いた。
俺達を、畏れ奉る爺さん。
両手のひらを合わせ、拝むようにしている。
……そんなに俺達を、【神】と崇めてくれるのか。
てれるぜ。
「お……お前たちは……!?」
「俺達は【暴走族】だぜ。ヒャッハーッ! ああん? 俺達が怖いのかよ?」
出て来た代表者に向かって、キメ顔でご挨拶。
決まった……!
これで失礼は無い筈だ。
「お前達、もしかして、このご老人を送ってくれたのか?」
「この辺りは俺達のランニングコースだ! そこをチンタラ歩かれると邪魔なんだよ!」
ほら、制限速度60キロメートルだからといって、60キロメートルで走ると邪魔になる、高速道路があるだろう?
……って、俺も何を言っているのか判らないが、とにかくそういう事だ。
俺達の爆走を止められるのは、嬉しくない。
チンタラ死にそうになりながら、老人が汚染された道を命を削りながら歩いているなんて、見ていられないじゃないか。
「このご老人が持っていた食べ物は、どうした?」
「俺達が頂いてやったぜ、ヒャッハー!」
「それはご老人のものだ、返してやってくれ。代わりに俺がご馳走してやるから」
「……ご馳走?」
「ご老人を無事に届けてくれた、礼だ」
――それは、まるで夢のようだった。
これこそが酒池肉林とでも言うのだろうか。
いや酒池肉林が、何だか知らないが。
こんなご馳走、見た事がない……!
「ちょうど客人をもてなす準備をしていてな。その余りなんだが……。余りと言っても味は保証するぜ」
「良い心構えしてるじゃねぇか。全部、喰らい尽くしてやんよ!」
だがあまりの美味しさと量に、俺達はすべてを喰らい尽くす事が出来なかった。
……確か、余り物とか言ってなかったか?
これが余り物?
ある所には、あるんだな。
羨ましい……。
食べきれない、ご馳走。
持って帰りたい。
しかしそれは、硬派な男のする事ではない。
「残ったのは、全部弁当にしてやるから、ちょっと待ってろ」
……神か!?
この中年、実は神なんじゃないか……!?
「ほら、弁当にしてやったから。あと、また腹減って人を襲いそうになったら、遠慮なくココへ来い。食わしてやるから」
そう言って、中年のおっさんは、俺達に重箱を持たせてくれた。
こんな優しさ、初めて味わった。
あんなに美味しい、ご馳走も……。
「……へっ、おっさん。俺達のご機嫌を取ろうなんざ、気が利くじゃねぇか。良いぜ、舎弟にしてやんよ!」
へへ……てれるぜ。
さっきの爺さんと良い、このおっさんと良い、俺達にこんなに敬意を払ってくれるなんて。
なんたって俺達は、【選ばれし者】だもんな!
そうして俺達は、その建物を後にした。
今日は、なんて良い日だ……!
これでまた、爆走できるぜ!