表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/5

第2話 神と崇める者たち

 なんだかんだ言っても、俺達は今日も元気だ。

 わざわざ汚染が酷く”防御結界”を張らなければ、命を保っていられない”外”へ出てまで、する事か?


 いや、遊びに命を懸ける……!

 これもまた、硬派な生き方。


 今日も仲間と爆走していたら、珍しく弱そうな爺さんをみつけた。

 爺さんには超能力はなく、もちろん”防御結界”も張れない。

 汚染を完全遮断する”防御結界”ではなく、一時しのぎである”防護服”を着ている。

 そんな命を縮めながら”外”を歩くなんて、何を考えているのだか。


 ……まぁ俺達も、人の事は言えないが。


「ようよう、爺さん、こんな所で何やってるんだ~? あ~ん?」

「お、良いもの持っているじゃないか。食べ物か。よこせ」


 良いターゲットをみつけた。

 少ないが、これで今日の俺達の食料となる。

 実は何日も食べていないのだ。


「あ~ん? 爺さん、こんな格好して、どこへ行こうってんだ」

「教えろよ。どこへ行くんだ? あ~~~ん?」


 キメ顔で問う。

 爺さんは悲鳴を上げそうな顔をしている。

 ……何故なんだ。

 こんなに男前な顔をしているというのに。


「仕っ方ねぇなぁ……。適当な近くの場所まで、防御結界を張って、連れてってやんよ」

「爺さん、命縮めんなよ。どうせ老い先短いんだろ」

「食い物貰った(奪った)しな。そん位はしてやんよ」


 爺さんの肩に手を回す。

 温かい……。久し振りに、仲間以外の人の感触。

 俺達、意外と人恋しいんだぜ?


「オラッ、脱げやぁああ!」

「クソが! こんなもん脱いじまえ!」


 爺さんの防護服を脱がせる。

 分厚くて動きにくそうで、こんなもので汚染の完璧遮断なんか、出来る筈がないだろう。

 完璧遮断が出来るのは、”防御結界”だけだ。


 俺達はみんなで(ちから)を合わせて、爺さんに”防御結界”を張る。

 自分の分も合わせて、人の分も張るなんて、結構なパワーがいるんだぜ。

 しかもソイツは、俺の意思とは違う形で動き回るだろ。

 動かないターゲットを固定して、結界を張るのとは訳が違うんだ。


 爺さんの防護服を無理矢理脱がせ、身軽になったところで俺達は爺さんを囲った。

 恐れおののく爺さんを中心に、爺さんを逃さないように。

 いや、周囲の汚染から、爺さんを守る為に。


 覆い被さるように、爺さんを中心に、ガタイの良い男達がニヤニヤしながら囲う。


 そんな防護服じゃなく、俺達が守ってやるぜ。

 近くの建物に着くまでだがよ。


 きっと喜んでくれるだろうな。

 この爺さんも、爺さんの家族も、……爺さんが無事で。


 そう考えると顔がニヤけて、どうしようもない。

 含み笑いのようにしながら爺さんを囲って、小さくひざまずく爺さんに、手を添えるようにした。


「クックック……。爺さん、俺達がどんな奴らか、よく判ってないようだなぁ。あ~~ん?」


 (ちから)を合わせて”防御結界”を張っている。

 俺達の超能力は、それほど強くない。

 全員で(ちから)を合わせて、ようやく爺さん一人の”防御結界”を完璧に出来る程度だ。


「はーーっはっはっは! 爺さん、感謝しろよ! テメエの命は、俺達の手の中にあるんだぜ!!」


 爺さんは、何故か怯えた顔をしている。

 いや、待てよ。違う、これは……!

 俺達を【神】のように、畏怖する目だ……!


 そう、俺達は【選ばれし者】――!


 ”外”へ出る事ができる、(わず)かなる人類。

 この世界を、この現状を、俺達しか知らない、この世界を……。

 俺達が変えていくんだ。



 ◆



 ――人が住む建物へ着いた。

 俺達を、(おそ)(たてまつ)る爺さん。

 両手のひらを合わせ、拝むようにしている。


 ……そんなに俺達を、【神】と崇めてくれるのか。

 てれるぜ。


「お……お前たちは……!?」

「俺達は【暴走族】だぜ。ヒャッハーッ! ああん? 俺達が怖いのかよ?」


 出て来た代表者に向かって、キメ顔でご挨拶。

 決まった……!

 これで失礼は無い筈だ。


「お前達、もしかして、このご老人を送ってくれたのか?」

「この辺りは俺達のランニングコースだ! そこをチンタラ歩かれると邪魔なんだよ!」


 ほら、制限速度60キロメートルだからといって、60キロメートルで走ると邪魔になる、高速道路があるだろう?

 ……って、俺も何を言っているのか判らないが、とにかくそういう事だ。

 俺達の爆走を止められるのは、嬉しくない。


 チンタラ死にそうになりながら、老人が汚染された道を命を削りながら歩いているなんて、見ていられないじゃないか。


「このご老人が持っていた食べ物は、どうした?」

「俺達が頂いてやったぜ、ヒャッハー!」

「それはご老人のものだ、返してやってくれ。代わりに俺がご馳走してやるから」


「……ご馳走?」

「ご老人を無事に届けてくれた、礼だ」



 ――それは、まるで夢のようだった。

 これこそが酒池肉林とでも言うのだろうか。

 いや酒池肉林が、何だか知らないが。

 こんなご馳走、見た事がない……!


「ちょうど客人をもてなす準備をしていてな。その余りなんだが……。余りと言っても味は保証するぜ」

「良い心構えしてるじゃねぇか。全部、喰らい尽くしてやんよ!」


 だがあまりの美味しさと量に、俺達はすべてを喰らい尽くす事が出来なかった。


 ……確か、余り物とか言ってなかったか?

 これが余り物?

 ある所には、あるんだな。

 (うらや)ましい……。


 食べきれない、ご馳走。

 持って帰りたい。

 しかしそれは、硬派な男のする事ではない。


「残ったのは、全部弁当にしてやるから、ちょっと待ってろ」


 ……神か!?

 この中年、実は神なんじゃないか……!?


「ほら、弁当にしてやったから。あと、また腹減って人を襲いそうになったら、遠慮なくココへ来い。食わしてやるから」


 そう言って、中年のおっさんは、俺達に重箱を持たせてくれた。

 こんな優しさ、初めて味わった。

 あんなに美味しい、ご馳走も……。


「……へっ、おっさん。俺達のご機嫌を取ろうなんざ、気が利くじゃねぇか。良いぜ、舎弟にしてやんよ!」


 へへ……てれるぜ。

 さっきの爺さんと良い、このおっさんと良い、俺達にこんなに敬意を払ってくれるなんて。

 なんたって俺達は、【選ばれし者】だもんな!


 そうして俺達は、その建物を後にした。

 今日は、なんて良い日だ……!

 これでまた、爆走できるぜ!







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このノリで一気に更新しました。
ブックマーク、感想、評価、レビュー……皆様の反応を楽しみにしています!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ