第1話 暴走族、誕生
「ヒャッハーッ!!」
俺達は叫ぶ。『自由』を求めて。
この世界は、とうの昔に終わっている。
過去にあった大きな戦争によって、どこもかしこも汚染されてしまって、生命維持装置がある建物内でしか、人は生きられない。
”防御結界”と呼ばれるバリアを、身体の周囲に張り巡らせる事が出来る者だけが、”外”へ出られる。
俺には、『結界能力』という超能力がある。
建物の”外”へ出る為の”防御結界”を張る、超能力だ。
――そう、俺は”外”へ出る事ができる【選ばれし者】なのだ!
「ヒャッハーッ!!」
この叫び声は『自由』を求める、王者の叫びだ。
生命維持装置のある建物内でしか生きられない、憐れな者共……。
その中から生まれた【選ばれし者】――それが俺達。
正直”外”の世界は、何もない。
空は暗いし、地は死んだような色をしているし、草や木なんて滅多に生えていない。
見たって、面白いことなんか何もない。
……昔は美しい景色が、たくさんあったと聞いているが。
俺は想像する。その世界を。
この目に映す事はない、夢の世界を。
――目を閉じて……見えるのは、峠。
舗装された道、細い道。
片側に山の斜面を見ながら、反対側は奈落の底。
そこを俺は『車』というもので爆走する。
「グイン、グイーーン!」
何もない、空気のハンドルを切ってみる。
身体は斜めに、重力から逆らうように。
目の裏に幻想として見えるのは、急な斜面。
「キュキュッ、キュキュキュキュキュ!!」
そう、俺はバトルをしているのだ。
他の『車』と、峠バトルを……!
「……アイツ、またやってるよ」
「なんだろう、あのキュキュッとか、グイングイーンって」
「斜めになったり、転がったり、色々してるよな」
ヒャッハー仲間が、俺を白い目で見ているのは知っている。
しかし、これだけは止められない。
俺の……俺の【夢】なんだ!
――ある日、俺達は森をみつけた。
珍しい。
こんなにも、たくさんの木が生えているなんて。
だが森の真ん中は抉れていて、何かの大きな爆発があった跡みたいだった。
爆発があって、かなりの時間が経っているようだ。
ただ痛々しいクレーターだけがそこにあった。
珍しさで周囲を探索した。
俺達は”探査能力”と呼ばれる、探し物をする超能力は誰も持っていないので、手作業で探す。
探査能力があったら、食べ物も、飲み物も、欲しいものも、何でも簡単に手に入りそうなのに。
だが、無いものは無い。
遥か昔がどれだけ恵まれた世界であっても、今は何もないように。
「…………!!」
俺は息を呑んだ。
そこには……。
草と木に隠れ、土の中に半分埋まるようにしてあったソレは……俺が夢にまで見たもの。
――【ハンドル】だ!!
他にもないか探してみた。
小さな破片、大きな枠、色々みつかった。
これを全部組み立てれば、夢の【車】になるんじゃないのか!?
……しかし俺には、そんな知識はなかった。
どう組み立てれば良いのか、さっぱり判らない。
並べてみたけど、ちんぷんかんぷんだ。
こんな事なら、昔いた場所で、もっと勉強すれば良かった。
両親共々そこを出てしまったので、もう帰れない。
あそこには、勉強する資料は幾らでもあったのに。悔やまれる。
しかし無いものは無いのだ。仕方がない。
それならそれで、あるもので夢を叶えるしかない。
そうだ、ハンドルだ!
ハンドルだけなら俺にだって使えるぞ。
俺は土に埋もれたハンドルを手に取る。
綺麗に土を払って、丸いハンドルを両手で握る。
左右、大体同じ位置に。
……そして、目を閉じる。
ああ、見えて来る。いつもの峠道。
これも昔、暮らしていた場所で見た、映像の記憶だ。
遥か昔にあった峠道。……今はない峠道。
舗装された道も、車も、車が走る道も。
今は何もかもがない。
だけど俺の頭の中にはある。
ここにだけは、ある。
「ボボボボボ……グオン、グオン……!」
映像で見た記憶を辿って、その音を口で表現する。
アホだと思うだろう。
思えよ、バカにしろよ。
バカにしたら良い。だけど俺には見える……!!
「グオッグオッ! ボボボ、ガガ、ゴゴゴオオオオーー!! ギャンギャギャン!!」
アクセル! ブレーキ! 四速! 三速!
……いや、何を言っているのか、俺にも判らないけれど。
なんか、そんな事を言ってたような気がする!
「ブオオオオーーッ! ギャオッ、ギャギャギャ!」
そう、見えて来た……!
目を開けていても、あの峠道のような、熱く血がたぎるような道が!
そうだ、俺は今、夢の車に乗っている。
そりゃ本当には乗ってないさ。判っている。
だけどこのハンドルを握っていると、判るのさ。
あのバラバラになった車を運転していた奴の魂を、感じるのさ!
「ギャオッ、ギャオオオオ! グイングイン!」
身体を斜めにしたり、地面すれすれにしてみたり。
全力で走って、風を感じる。
本当の車は、きっとこんなもんじゃない。
もっともっと、風を切って走っていたんだ。
もっともっと、男の浪漫を乗せて走っていたんだ!
「……なんか楽しそうだな」
「あっちに同じようなもの、まだあったぜ」
「探してくるか」
――こうして、俺達は【暴走族】になった。
ハンドル(だけ)を握り、口で爆音を鳴らして全力で疾走する。
もちろん、足で。
全力疾走。
「ハァッハァッ、グオン、グオーーーン!」
「ゼイッゼイッ、ドドド、オオオオーン!」
「も、もうだめ……グオッ、グオオオオーーン!」
ユウ「……リーダー、あれ……」
リーダー「見るな」
サーラ「見ちゃいけません」